ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.3.17(水) J1リーグ第5節 横浜F・マリノスvs徳島ヴォルティス ~喉元にナイフを~

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スタメン

マリノスサブ・GK梶川、DF伊藤、小池、MF岩田、FW水沼、樺山、オナイウ

徳島サブ・GK長谷川、DFジエゴ、鈴木大、藤田、MF鈴木徳、川上、FW垣田

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 ともにミッドウィーク三連戦の三週目。マリノスは前節、徳島からリカルド・ロドリゲスを強奪した浦和を3-0で粉砕。前田大然を筆頭にしたハイプレスで、浦和のビルドアップを破壊してみせた。リカルドのビルドアップ隊が、前田大然のアプローチにタジタジになる。徳島サポにとって、それはあの日水戸で見た光景。前節からのターンオーバーは、ティーラトン→高野、岩田→渡辺と最小限に留め、良いイメージを維持したままこの試合に臨む。

 徳島は、同じ昇格組の福岡に逆転負けを喫したあとの試合。中3日のアウェイゲームという条件に加え、渡井を脳震盪で失ったこともあり、5名のスタメン変更。岩尾・小西のコンビでスタートするのは昇格後初となった。

 

繰り返された光景 

 大方の予想通り、この日もマリノスは前線から積極的なプレッシングを見せる。キーパーまで圧力をかける前田大然のチェイシングを皮切りに、列を上げるマルコス・ジュニオール、徳島のサイドバックを背中で消しながらセンターバックにも睨みを利かせる仲川・エウベル、そこに加勢するセントラルハーフのコンビ。敵陣深くまで6人を送り込み、徳島のボール保持を阻害しにかかる。

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マリノスのハイプレス

 何かの媒体で『ハイプレスは、ボールに触れると勢いが持続する。「次はボールを奪えるかもしれない」と勇気が湧くからだ。逆に、追いかけても追いかけても躱されていくと、体力に加えて気持ちもそがれてくるものだ』との趣旨の記事を読んだ記憶がある。マリノスの前半のプレッシングは、完全に前者に当てはまるだろう。前田大然の超高速アプローチは、この日も徳島のセンターバックゴールキーパーを苦しめた。前半10分、前田の寄せに出しどころを失った福岡がボールを掻っ攫われ、そのまま失点。前節の勢いそのままに、高いテンションでこの試合に入ってきたマリノスが、早くも試合を動かす。

 徳島も無策だったわけではなく、マリノス対策の跡はしっかりと確認できた。この日は、これまでよりロングボールを使う回数が増加。前がかりになるマリノスの背後へロングボールを蹴りこみ、競る河田とスペースへ走る宮代。高い位置をとるマリノスのウイングの背後へ走りこむ岸本。徐々にマリノスの圧力に慣れたセンターバックから、効果的な縦パスやフィードが送り込まれる回数が増えてくる。

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徳島の攻撃の狙い

マリノスの強み 

 だが相手はマリノス。憎いバランスというか、よく設計されてるなと思うのは、最後列に鎮座するのがチアゴ・マルチンスと畠中慎之輔。言わずと知れたJ屈指のセンターバックコンビ。共に空中戦に強く、チアゴはスピードで背後の広大なスペースをカバーしてしまう。徳島は局面を一気にひっくり返せればチャンスになる。だが河田や宮代が潰されると、被カウンターから再びピンチを迎える構図。ボールは保持していても、常に喉元にナイフを突きつけられているような印象で「一歩間違えればやられる」怖さと選手たちは常に戦っていたと思う。

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□のエリアを搔い潜られると徳島は一転してピンチに

 マリノスはハイテンポなサッカーで、相手のボール保持を破壊する。相手がそれでも繋いでくればプレッシング。蹴ってくれば質的優位で跳ね返す。ウイングで最終ラインをピン留めして、マルコス・ジュニオールがハーフスペースでフリーになる。あるいは高野が偽サイドバックの働きで逆サイドからのパスを引き出すなど、ボール保持にも特徴は見られた。だが何と言っても、明確な特長を備えた選手たちと、それを押し出した戦い方が印象的だったマリノス。徳島も、河田が前線で身体を張って起点になり、宮代へボールを繋ぐ。あるいは、大外を駆け上がった岸本からのクロスで惜しいシーンは作ったものの、決定機はなく前半を終える。

 

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一人一殺で同サイド封じ込めを狙う後半の徳島

 勝ち点を得るためにゴールが必要な徳島は後半、マリノスのボール保持に対して積極的なアプローチを見せる。「一人一殺」でマリノスの選手たちを同サイドに封じ込めようと試みる。マリノスはキーパーを組み込んで逆サイドに展開し、センターバックサイドバックを起点に、打開を図る。

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マリノスの効果的な攻撃

別格だった垣田

 61分、前田の追加点が決まったかに見えたが、VARの介入、そして清水主審によるオンフィールドレビューの結果、直前のマルコスのファウルによってゴール取り消し。直後にマリノスは前田→オナイウ、仲川→水沼。徳島は飲水タイム直前に垣田、その10分後にはジエゴと鈴木徳の投入によって流れが変わり始める。

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79分~

 垣田が起点を作ることでマリノスを押し込み、サイドバックはオーバーラップ、サイドハーフは一つ内側のレーンへ。畠中とも互角以上に渡り合う垣田の姿は頼もしい反面、他にこの役割をこなせる選手がいないことが残念だ。宮代が内へ入ることで前線を3トップ気味に並べ、左のジエゴ・浜下からクロス。垣田がヘディングで合わせるシーンもあったが、最後までマリノスゴールは割れず、徳島はこれで三連敗となった。

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執念を見せた徳島だったが及ばず

 

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雑感

 徳島のボール保持時にはハイプレス。それを掻い潜られても一撃必殺のカウンター。そして最後尾に鎮座するセンターバックマリノスの戦いは力強く、理に適っていた。

 徳島は、2分けのあと3連敗。うち2つは川崎・マリノスと、J1でも屈指の戦力を誇るチームだったことを考えると、致し方ない結果だと思える。一方で「結果ほど内容は悪くない」といった意見に完全には賛同できないのは、いずれも失点する時間が早すぎることだ。この試合は10分、川崎戦は12分。つまり試合のほぼすべての時間を、相手にアドバンテージを握られた状態で戦っている事実も、忘れてはならないと思う。

 大分、神戸、福岡には先制しながら逃げきれず、上位相手には早々と失点してしまう。選手たちもコーチ陣も必死にもがきながら、最適解を探している最中だろう。ただ、J1においてスーパーなアタッカーのいない徳島のようなチームは、1-0や2-1といった試合を目指すしかないことは確かだ。

 失点する時間が早すぎることは、勝ち点を拾う上で大きな障害となってくる。ボールを保持して試合と相手を制御することは大切だ。そのゲームモデルに則って集められた選手なのだから。もちろん、J1のスピードや強度に慣れる時間も必要だろう。だがいつまでも安い失点を繰り返していては、勝ち点が積み上がらない。

 時間が解決してくれるのか、監督や新外国籍選手が合流すれば変わるのか、あるいは。今はただ、チームと選手を信じて見守るしかない。