ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.11.20(土) J1リーグ第36節 FC東京vs徳島ヴォルティス ~線になりつつある点と点~

f:id:awaraccoondog:20211121103451p:plain

両チームメンバー

 

www.jleague.jp

 

 2週間ぶりのリーグ戦。FC東京は前節、マリノスに0-8と大敗。日本代表監督の後任候補とも噂されていた長谷川健太前監督が、シーズン終了を待たずして辞任する事態となった。この試合はGKコーチからの転身となる森下申一新監督の初陣。森重は出場停止。キーパーは波多野ではなく児玉がスタメンに名を連ねた。

 前節、神戸相手に内容では上回りながらも、勝ち点を奪えなかった徳島ヴォルティス。3試合を残して昇格圏とは勝点3差と崖っぷちの戦いが続く。次節の湘南戦を6ポインターとするためにも、勝利が求められる試合。前々節、前半だけで退いた岩尾がスタメンに復帰しアンカーへ。小西が外れて中盤の並びは変わったものの、前節に続いて[4-3-3]の採用となった。

 

 

変わったことと変わらないこと

・引き続き[4-3-3]でのスタートを選択した徳島は開始早々、上福元がボールを持つと大きく広がる両センターバックと岩尾を頂点としたひし形を形成。その背後ではインサイドハーフの二人が斜めに降りる動きでパスコースを空けて、空いたスペースへ宮代。

・このシーンでは、岩尾が上福元からパスを受ける前に一瞬徳真をチラ見している。その目線に引っかかった安部は、岩尾に逆方向へのターンを許すことに。

・アンカー(岩尾)とトップ下(宮代)をどうすんねん問題に直面したFC東京。その後は人に付いていくことで解決を図るシーンが多かった。降りる宮代にはオマリが付いていく。

・同じウイングでも宮代と西谷の働きは異なっていて、サイドに開いてパスを受ける左の西谷、右に張ったポジションからインサイドへ移動して岸本の滑走路を空ける宮代となる。

f:id:awaraccoondog:20211122120759p:plain

・ただこれは、[4-4-2]でセットしていた時期から両サイドハーフに求められていたタスクでもある。

・では[4-3-3]への変更に伴う、より大きな変化はなんだろうか。それは中盤の枚数を増やしたことで、相手チームの守備網の間で前向きにボールに触れる選手が増えたことだろう。

・その象徴が、西谷・ジエゴを斜め後方で支えながら左サイドを崩すジョエルの姿であり、17分過ぎの鈴木徳真のミドルシュートであり、なにより42分のジョエルの先制ゴールではないだろうか。

f:id:awaraccoondog:20211122122552p:plain

・イメージとしては、ボールホルダーの斜め後ろでインサイドハーフがサポートする。右は岸本が縦に突破してクロス。左は西谷とジエゴがポジションを入れ替えてジョエルから背後へのパスが出ることもある。

インサイドハーフが広く動いても後ろに岩尾が控えているのは大きい。1トップによるゴール前の迫力不足も、ジョエルが積極的に顔を出すことで何とか補おうとしていた。そんな姿勢が報われての、先制のミドルシュート

・ジョエルの推進力やプレーエリアの広さは、インサイドハーフの方が生きる。ゴール前に顔を出す動き、プレッシングに出る西谷~最終ラインに残るジエゴの間を埋める動きと、まさに縦横無尽。

 

ポヤトスが密集や数的優位を好まないわけ

・積極的に幅をとる徳島とは対照的に、起点となるディエゴ・オリベイラの周囲に選手が集結してくるFC東京。東がインサイドに移動してくる、レアンドロは左サイドからのカットイン、なぜかバイタルエリアにやってくる長友。

・しかし残念ながらFC東京イニエスタはいない。よって密集を打開していくのは、レアンドロオリベイラのワンツーやミドルシュートぐらいしか手が無かった。

・選手が中央に密集し過ぎると、被カウンターのリスクにもなるというお手本のような試合だった。ボールを奪われるエリア(いわゆる中央の3レーン)、複数人を一気に突破される陣形、背後に広がる広大なスペース。

・神戸戦でも感じたが、なぜポヤトスが安易に密集や数的優位を作ることを好まないのか?は、これらの現象に集約されているように思える。そしてFC東京イニエスタはいない。

 

アドリブには基礎で対応

・前半の東京は[4-4-2]をそれほど崩さなかったので、徳島はインサイドハーフを一列目へ押し出す形で対応できていた。

FC東京は後半開始早々、ブラジリアン2トップを下げて永井と高萩を投入。高萩はトップ下のポジションながら、セントラルハーフにの隣に下がってきたりサイドバックの位置に落ちるなど、いわゆる列の枚数調整を行うことで[4-4-2]に変化を加えようとしていた。

f:id:awaraccoondog:20211122171957p:plain

f:id:awaraccoondog:20211122172001p:plain

・徳島は西谷・垣田が先鋒隊となってプレッシングを行う。とりわけ西谷は後ろを振り返って、後方の選手にマークの受け渡しを指示しながら走り出す姿が印象的だった。

・相手をサイドに追い込んだら、サイドチェンジされない状況を作ってからボールを蹴らせる守備は一貫している。基本的だけど効果的。広く攻めて狭く守る。

・西谷と垣田の献身性や運動量、中盤のポジショニングなど鍵になる要素はいくつもありそうだが、ここでもインサイドハーフを置いたことのメリットが出ているように見える。

・これまでも西谷をプレッシングの先鋒隊兼カウンター要員として前残りさせていたが、どうしてもジエゴ~西谷のエリアが空いてしまうように見えることがあった。賢者の皆さんの言葉を借りるなら「トラップディフェンス」なのかもしれないが。

ジエゴの守備の粗が目立つように見えるのも、これが一因だったんじゃないかと最近考えたりする。あくまで空想だけれども。

インサイドハーフを置くことで、残念そこはジョエル!が成立する。攻守両面で、ジエゴ~西谷の間を埋めるジョエル。

 

・思い返してみれば[3-2-5]のビルドアップに苦戦していた時期は、初期配置や立ち位置にとらわれるあまり、ポジションの入れ替わりやスペースへ走りこむ動きが乏しかったように思う。今はビルドアップでも、様々な形が見られるようになった。中盤の3枚も、誰がどこに入っても違和感なくプレーしている。

・攻守のバランスを考慮すれば、現状はこの形が正解なのかもしれない。垣田もノビノビとプレーしているように見える。潰れ役を厭わない垣田と推進力のある宮代が近くにいるのは、相手ディフェンスにとっても嫌なはず。

・西谷が相手の最終ラインをピン留めして、サイドバックの立ち位置で相手の二列目を引き出す。そしてライン間に入ってくる宮代・ジョエル・徳真。ジョエルのゴールの他にも、徳真と宮代にも惜しいシュートがあったわけだし。

・徳真の右足が火を吹くのは次節ということで。

 

www.youtube.com

 

雑感

 監督交代直後のFC東京があまりに未整備の状態だったので、参考にならない要素もあるだろう。とはいえ、2試合続けて新たなシステムで相手と互角以上に振る舞えたことは大きな手応えになったはずだ。

 この2試合で徳島の戦いぶりや[4-3-3]の練度の高さについての高評価を目にすることが多い。だが、西谷をカウンター要員兼プレッシングの先鋒隊として高い位置に残すことやセントラルハーフを比較的広く動かすことなど、[4-4-2]を採用していた時から素地はあったと見ることもできる。ポヤトスの志向そのものが、元来[4-3-3]向きと言ってもいいだろうか。それに加えて、アンカーとしては日本でも指折りの働きを見せる岩尾の存在、徳島の強みである中盤センターの人材を最大限に活用できることなど、複数の要素が重なってこの戦い方が生まれたのだろう。

 湘南・清水の勝利によって、残留圏との勝点差は試合前と変わらず3のまま。残るは2試合。幾多の苦難を乗り越えてようやく最適解にたどり着いたように見える徳島ヴォルティスは、奇跡を起こせるだろうか。このチームが経験してきた紆余曲折を思えば、今度もきっと乗り越えられる。