2021.3.13(土) J1リーグ第4節 徳島ヴォルティスvsアビスパ福岡 ~数的同数がもたらしたもの~
徳島サブ・GK長谷川、DF福岡、MF岩尾、岸本、川上、浜下、FW河田
福岡サブ・GK永石、DF湯澤、グティエレス、MF重廣、田邉、吉岡
ともにミッドウィークにリーグ戦を消化し、中二日での試合となったこの日。徳島は吹ヶ→ジエゴ、岸本→藤田、岩尾→小西、浜下→宮代とスタメンを四名変更。宮代が右サイド、渡井がセカンドトップでスタートするのは、この試合が初めてとなった。
福岡は、ブルーノ・メンデス、山岸の2トップでスタメンが発表されていたものの、試合前のアクシデントによってメンデスが外れ、急きょ城後が出場。また、前節で途中出場ながらゴールをあげたカウエがスタメンに名を連ねた。
狙い通りだった前半の徳島
キックオフ早々、垣田のゴールでスコアが動く。前半は先制点の勢いそのままに、徳島が多くの時間で優勢に進めた。福岡はメンデスの突然の欠場によって、プレッシングなどチームとしての戦い方に影響が出たのか?あるいは、過密日程でそこまで周到な準備できなかったのか?は分からないが、徳島のボール保持の前に後手を踏む時間が長くなっていく。
この日も吹き荒れる強風のなか、ボールを奪っても陣地回復がままらない風下の福岡。徳島は上福元までボールを下げ、2CB+小西でひし形を形成する型からビルドアップを開始する。福岡はプレッシングのスイッチがなかなか入らない。2トップで4人を見るのは負担が大きすぎる。かといって前やカウエがポジションを上げれば、背後の藤原や渡井がフリーになる構造からなかなか抜け出せなかった。
カウエや前がこなければ、小西が反転して前線へ縦パス。一度小西を使い2トップを収縮させてから、安部や鈴木大が持ち出す。また右サイドに宮代がいることで、志知と競らせる手段も効果的だった。さらに福岡が前がかりにくれば、サイドバックへボールを逃してライン間を使うといった具合に、徳島はボール保持から着実に前進していく。
らしさは見せつつあった福岡
一方で、福岡がノーチャンスだったかと言えば決してそうではなく、時間の経過と共に落ち着きを取り戻していく。福岡の攻撃で特徴的なのは、サイドハーフが内側へポジションを移して[4-2-2-2]の形をとり、相手の守備網を収縮させる。コンビネーションを使った中央突破が最優先。相手が中を固めてくれば、大外で待つサイドバックからクロスを供給する。中→外→中と展開することで相手を左右に振り、綻びを見つけ出す。裏を狙う動きやゴール前での決定機に絡むなど、よりアタッカーとしての色合いが濃い金森と、比較的自由に動いてボールを引き出しパスを供給する石津。その背後はボール奪取力に優れた前とカウエが構え、大外で待つサロモンソンの組み合わせで徳島ゴールに近づいていく。
攻撃回数そのものは多くなかったが、右サイドからの攻撃は高確率でチャンスを創出した。徳島も守備時は[4-4]のブロックでスライドするため、サイドチェンジ使われたり、セカンドボールを拾われてサイドに振られると、どうしても大外が空いてしまう。藤原のドリブルとフリーダムジエゴの対応に手を焼いていたサロモンソンだったが、攻撃参加時にはさすがのクオリティを披露していた。
重廣の投入とその狙い
エンドが入れ替わり勝負の後半。徳島は安部を下げて福岡将太を投入。風下となり、アビスパに押し込まれる時間が増えることが予想された。また前半終盤に徳島の攻撃が行き詰ったのは、センターバックの持ち上がりが少ないことも起因していたのを考えると、妥当な交代に思えた。一方のアビスパは、城後を下げて重廣を投入。余談になるが、私は「この展開で重廣?どこで使うの?」と思ったものだが、近くに座っていた観客は「たぶん重廣を前で使うんじゃないか」と隣の友人に予想していた。彼の観察眼は的中し、この起用が試合展開を大きく左右することになるのである。
(徳島の福岡将太投入により、以降福岡はアビスパと記載)
福岡が運ぶドリブルを披露した以外は、とりわけ変化の見られなかった徳島のボール保持。アビスパは山岸と重廣を縦関係にすることで守備を整理。山岸は、徳島のセンターバックに配球されるとアプローチを開始。連動して重廣はボールサイドのディフェンシブハーフを消す(図では小西)。徳島がサイドを変えようと試みても、逆サイドはサイドハーフが高い位置をとり、サイドバックとセンターバックに睨みを利かせる。
これにより徳島は、中央での数的優位を消されてしまう。小西・ジョエル・渡井の三枚に対して、重廣・前・カウエで同数。中央の数的劣位から解放されたサイドハーフは高い位置をとる。こうなると徳島のサイドバックも上がりにくい。アビスパの同点ゴールも、徳島の右サイドでボールを奪い、金森がジエゴを引っ張り出して、その裏へ走りこんだサロモンソンによってもたらされた。
ジエゴのハンドで与えたPKから逆転された徳島は、たまらず岩尾と浜下を投入。リードを奪ったアビスパが圧力を弱めたこともあり、終盤は徳島が再び盛り返す展開となる。ジョエルが最終ラインに降りてジエゴが偽サイドバック、空いたパスラインを使って志龍へ展開。福岡のロングフィードから岸本を走らせるなど、可能性を感じる攻撃もあった。だが、足を攣った山岸に替えて湯澤を前線に投入するなど、逃げ切りへの執念を見せたアビスパゴールをこじ開けることはできず。アディショナルタイムには河田のフリーキックを頭部に受けた渡井が、脳震盪の疑いにより担架で運ばれるなど、なんとも後味の悪い試合となってしまった。
雑感
監督とコーチに加え、バトッキオとカカが来日できていない状況。リーグ戦もまだ4試合しか消化していない段階ではあるが、徐々に見えてきた事実もある。そのうち幾つかは強化部にとって想定内の出来事だろうし、思うように補強が進まなかったり、獲り逃した選手の影響が出ている部分もあるだろう。
この試合でも「ライン間にフリーな選手を作る」「サイドアタッカーが前を向いて1on1の状況を作り出す」など、狙いを実行できていた部分もある。だがクロスを跳ね返されたり、カットインからのシュートも効果打にはならなかった。この戦い方で勝負するならば、二列目にもう少しシュートレンジの広い選手が必要に思える。トップの選手の大量得点が期待できない以上、それを補う構造が必要だからだ。
暗い話題ばかりだったわけではない。宮代の右サイド(そこから解放されて中へ入ってくる動き)、渡井のセカンドトップ、そこへボールを供給する小西の関係性には希望を感じたし、ジョエルの運動量と球際の強さは相変わらず素晴らしい。なにより岩尾や福岡が不在でも前半あれだけやれたのは、チームとしての成長の証だろう。何もかもがダメなわけではない。だからこそ、悔しくもどかしい。
重要な一戦だったことは確かだろう。だがこの試合を落としたことの意味は、選手やスタッフが誰よりも痛感しているはずだ。誰かを責めても何も始まらない。なにより、まだたった4試合ではないか。厳しい戦いが続くだろうが「期待し過ぎていないし、期待もしている」のバランスを忘れずに、ほんの僅かでもチームの支えになれればと思う。