ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2023.3.4(土) J2リーグ第3節 徳島ヴォルティスvsベガルタ仙台

 ここまで1分1敗と勝利のない徳島ヴォルティス。前節・甲府戦(A)からは田向→浜下、櫻井→白井、児玉→杉本と3名変更。システムは[4-3-3]を継続します。

 ベガルタ仙台は1勝1分のスタート。前節・栃木戦(A)からは中山→氣田の1名のみ変更。前節までは[3-1-4-2]を使用していたようですが、今節は[3-4-2-1]で試合に臨みます。

 

互いの先制パンチ

 仙台は徳島のボール保持に対して、ホヨンジュンを頂点に、両シャドウ、ウイングバックが連動して圧力をかける方法を選択してきました。ホヨンジュンは白井を基準点に守備位置をスタートし、バックパスに対してはスアレスまで圧力をかけます。徳島のセンターバックにはシャドウが対応し、徳島のサイドバックにはウイングバックが列を上げて対応します。

 対して徳島はスアレス→カカ→浜下→西野と右サイドでパスを繋いでいき、西野のフリックから抜け出しを図った渡を菅田が身体で止めてイエローカード。後述しますが、この"ワイドで起点を作り斜めのパスで仙台の3CBを突破する"のは徳島が繰り返し披露していたパターンでもありました。

 仙台のウイングバックセンターバックと横並びにならずに少し高い位置からスタートし、徳島のサイドバックに素早くアプローチする狙いが多く見られました。徳島に高い位置で起点を作られて、どんどん重心が低くなっていくのを避けたかった狙いもあるでしょうか。2分過ぎには徳島の左サイドでパスをカットし、ホヨンジュンがハーフスペースを縦に抜けながらシュートまで辿り着きます。こうして序盤から互いの狙いが披露される展開となりました。

 

 立ち上がりに仙台のハイプレスをひっくり返した徳島でしたが、10分を過ぎたあたりから次の狙いが見え始めます。それは中盤の[3]がポジションを入れ替えながらフリーでパスを受けることでした。

 サイドバックが空けた位置に、アンカーやインサイドハーフが落ちてくる"いつものパターン"ですが徳島の強みはこの3枚の技術が高いことでしょう。正確に長短のパスを散らす白井、狭いスペースでもボールの避難場所となり時間を作れる柿谷、身体の強さを生かしてターンから前を向きビルドアップの出口となる杉本と、三者三様の形を見せます。

 

可視化される狙い

 パスを動かしながら相手の陣形も動かす時間が増えてきた徳島は、徐々に最終ラインからの縦パスが目立つようになります。特にこの試合では、中盤の選手が動く→仙台の二列目・三列目の間にスペースができる→スペースで渡へ縦パスをつける→前を向いた中盤の選手が落としを受ける形が目立っていました。

 20分過ぎには上図の形から浜下のクロス、23分過ぎには浜下の斜めのパスを渡が落として杉本へ。そこから大きく左へ展開して西谷のドリブル突破。中→外→中と仙台の守備網を揺さぶっていきます。この試合では、"スペースを空ける動き"と"そこに降りてきて縦パスを引き出す動き"と"パスの落としを受けて前向きの選手を作る動き"が、ラバイン体制になって最も有機的に機能していたと思います。

 

 徳島はボールを失っても、近くの選手が2人3人とボールホルダーを囲みパスコースを限定して、後ろの選手がパスをカットすることで仙台の攻撃の芽を摘み取ります。この守備が効果的なのは、組織的守備のフェーズを飛ばすことで攻撃の時間を長くできる=失点のリスクが小さくなるのはもちろんですが、パスをカットした選手がそのまま相手を追い越して攻撃に+1をもたらすことでしょう。実際に白井の攻撃参加は貴重なアクセントになっていました。

 また非保持時に自陣で対応を迫られたときは、白井がセンターバックの間に下りてスペースを埋める動きも目につきました。仙台は1トップ+2シャドウ、徳島は2センターバック+アンカーと人数は同じですがかみ合わせが異なります。仙台はシャドウの降りる動きにホヨンジュンの裏抜けを組み合わせるなど対応を迫りますが、白井を下げてマッチアップの相手を明確にしておくことで徳島は難を逃れていました。

 スコアこそ動かなかったものの、前半はほぼ徳島の狙い通りの試合運びだったと思います。これまでで最もラバインの狙いが可視化された45分で、時間の流れがとても早く感じられました。

 

先制点とラバインの対策

 後半もボール保持の徳島vs非保持の仙台の構図で試合が再開します。先にスコアを動かしたのは仙台。カカ→浜下のパスを相良がカットしてカウンターへ移行。エヴェルトンのシュートはスアレスが好セーブを見せてコーナーへ逃げますが、2度目の左コーナーキックをファーで菅田が頭で合わせます。ポストを掠めてネットに吸い込まれたボールを、さすがのスアレスも見送ることしかできず52分に仙台が先制。

 先制した仙台は[5-4-1]でセットする時間が長くなっていきます。なかなか前に出てこない相手を前に、焦れる徳島。63分に杉本→児玉、外山→坪井と二枚替え。「相手はカウンターしか狙ってないんやからサイドバックなんかいらんのや大作戦」を発動させます。

 児玉・柿谷が仙台の1トップの周辺でパスを引き出し起点となります。縦パスを警戒して中央を閉じてくる仙台の二列目。そこで効くのが安部と白井の存在で、二列目の外から運ぶドリブルで前進。西谷・浜下がウイングバックをピンどめしたスペースへ運んで、クロスからシュートまで到達するようになります。

 仙台も後を追うように氣田→山田、ホヨンジュン→中山でアタッカー同士の交代。その3分後に事件は起こります。小出の持ち上がりを西野がプレスバックで引っかけて西谷が奪いドリブル。この試合で何度目かの斜め前方へのパスに、抜け出した渡をキムテヒョンが後ろから手をかけて倒し一発レッド。20分以上の時間を徳島が一人多い状態で過ごすことになります。

 72分に徳島が渡→森海渡、仙台は郷家→蜂須賀。蜂須賀をキムが抜けた左センターバックに入れて、中盤を一人削った[5-3-1]を選択します。仙台は撤退ムードが強まる上に[3]ではピッチの横幅をカバーしきれないので、徳島は白井や児玉がより高い位置、より内側のレーンでパスを受けるようになります。

 5バックで徳島の攻撃を跳ね返しながら、カウンターを織り交ぜコーナーキックでも時間を稼ぐ仙台。徳島も粘り強くパスを左右に動かして攻略を狙います。敗色濃厚かと思われた90分、途中交代で入った杉森が右サイドからクロス。ゴール前を通過したボールは、ファーで待つ西谷の足下へ。西谷はマーカーを引きつけて坪井へマイナスのパス。身体を上手く捻ってキックのスペースを創出した技ありシュートが決まり、試合は引き分けに。徳島は西野、西野、坪井と3試合続けて若きアタッカーにゴールが生まれることになりました。

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雑感

 今シーズン初めてスタジアム観戦した影響でしょうか。それとも実際にチームの成熟が進んでいるのか、今年になって(といってもまだ3試合目ですが)最も内容の濃い一戦だったように思います。

 ラバインのボール保持おける基本的な方針は、自陣1/3ではサイドの低い位置で起点を作る(ボールを失うリスクも考慮して)。次の1/3は中央3レーンで前向きの選手を作る。ラスト1/3は一気にスピードアップして相手ディフェンスラインを攻撃するのが狙いであるように見えます。最後の崩しの局面では、西谷のカットインから斜めのパスを配球してラインブレイクするシーンが目立ちます。対して右ウイング・トップには一貫してストライカー色の強い選手を起用するのも特徴といえるでしょう。なので右サイドバックには槍になれる選手が必要、というわけですね。

 レイオフを使って前向きな選手を作る、ダイレクトパスでマーカーを外すなど基本的な技術もしっかり仕込まれていて、この試合でも幾度となく効果を発揮していました。まさかの白井センバに児玉・柿谷のボランチも、ボール保持においてはしっかりと狙いが仕込まれていたのも素晴らしいと思います。

 サポーターもですが選手たちも、とにかく勝点3が早くほしいと思っているでしょう。ひょっとすると、ラバインこそその思いが最も強いのかもしれません。内容が良く、スタジアムにもチームを後押ししようとする空気が満ちている間に、早く一勝して波に乗ってほしいところ。この調子なら、その日もそう遠くはないような気がします。