2021.8.9(月) J1リーグ第23節 徳島ヴォルティスvsガンバ大阪 ~目的地をイメージする~
徳島サブ・GK松澤、DF石井、藤田征、MF小西、藤田譲、FW垣田、西野
ガンバサブ・GK石川、DF藤春、菅沼、MF小野、山本、FWチアゴアウベス、宇佐美
東京五輪による中断が終わり再開されたJ1リーグ。徳島ヴォルティスは、中断前の清水戦(H)で「リカルド式とポヤトス式のハイブリッドスタイル」によって改善の兆しを見せた。そこから約一か月。清水戦の出来は本物だったのか。更なる熟成と進化を見せられるか。上福元がサブからも外れ、キーパーには長谷川、トップは垣田ではなく宮代。センターバックはカカとドゥシャンの組み合わせ。
ガンバ大阪は、シーズン序盤に新型コロナ感染者が複数発生した影響による延期試合の消化、さらにACLの集中開催が重なり、地獄の連戦の真っ只中。中2or3日で迫りくるリーグ戦。徳島戦はその8試合目となる。こちらはパトリックがメンバー外となり、レアンドロ・ペレイラと一美の2トップを前線に置く[3-1-4-2]でスタートする。(一美はこの試合の3日後に徳島への完全移籍が発表される)
[3-2-5]か[3-2-2-3]か
・この試合を見ていくうえで、両チームのコンディションの差は無視できない要素。次節が鹿島戦のため出場できないことが確定している垣田を、あえて温存した徳島。ガンバの足が止まりオープンな展開が増える試合終盤に投入した方が、彼の走力がより生きると考えたのだろう。
・よって徳島は、ガンバに揺さぶりをかけるためにもボール保持の時間を増やしたい。形はいつものように[3-2-5]。ただ、この試合を見て感じたこととして、[3-2-5]という表記は突き詰めると正しくないのかもしれない。
・ビルドアップ隊は[3-2]で間違いないのだけど、結局のところ何枚で相手の守備陣をピン留めできるかが鍵というか。ガンバの5バックに対して、あえて基準点を作らせないことが鍵というか。
・たとえばこの試合だと、左から西谷-宮代-杉森でピン留めしておいて、岸本がポジションを上げると杉森は右のインサイドへ移動する。杉森が列を降りることで、主に左半分を自由に活動する渡井とともに、フリーマンっぽい役割をする選手が2人発生することになる。
・ガンバのHVに簡単に迎撃を許さないため、たびたび3バックの脇で起点を作っていた宮代の働きも見逃せない。
人への意識が強いチームへの対抗策
・正しいか正しくないかは一旦置いておいて、徳島の[3-2-5]に対してガンバは[5-3-2]のセットディフェンスで対抗。一列目の人数不足は、主にインサイドハーフが列を上げてプレッシングに参加することで解決する。
・インサイドハーフのプレッシングを合図に、人への意識を強めて守備を行うガンバ。徳島は宮代の裏抜けに加えて、[3-2]が深めのポジションをとることで、ガンバの守備網を前後分断しようと試みていた。
・岸本も残って最終ラインを4枚にすると、ガンバの守備に対して逆サイドのサイドバックが余る。よって左のインサイドレーンからボールを持ち運ぶジエゴ。
・スペースが出来た中盤を、ドリブルで持ち上がる鈴木徳真。ゴールキックの時に、パスをピックするためペナルティエリア内へ顔を出す岩尾もそうだが、前向きの選手が顔を上げてボールを持つと強い。
・人への意識が強い守備の代償として、スペースが生まれることも多いガンバの守備。3CBの対人の強さはさすがだったが、試合の主導権は徳島。フリーキックから宮代のヘディング、終了間際には西谷のボレーで2点を先制して折り返す。
システム変更の効能
・後半のガンバはチュセジョンを下げて、アンカーシステムを廃止。[3-4-2-1]でスタートし、57分の宇佐美の投入以降は[4-4-2]へ移行する。
・アンカーが渡井に消されていたこと、フリーになることの多い三浦、キムヨングォンから効果的な球出しができなかったこと、複数得点が必要になったこと、などなど理由は幾つもありそうだけど。
・[3-4-2-1]への変更によって、列を降りるセントラルハーフの倉田や山本が攻撃の起点となった一方で、相変わらず徳島からボールを取り上げることには苦労していたガンバ。あくまで中央のコンビネーションプレーからゴールを目指すガンバに対して、ポゼッションからスペースを作り出し、フリーな選手がドリブルで持ち上がり、一定の距離を保ちながら前進することで相手の守備網を広げて少ない人数でもフィニッシュまで辿り着く徳島。
・徳島は2点リードしたこともあって、岸本の攻撃参加を控えめに。後ろを4枚でボール保持を開始することが多かった。よって[4-4-2]への移行により、ガンバのプレッシングの基準点はわかりやすくなった。
・ビルドアップのパスミスからあわやのピンチを招く徳島。長谷川の好セーブで難を逃れる。
・この試合の長谷川は素晴らしかった。久々のリーグ戦出場で緊張感もあっただろうけど、上福元とは違った良さを存分にアピール。本来キーパーにもっとも必要とされる能力とは何か、を再認識させてくれた。
・攻撃の圧力を強めてくるガンバに対して、徳島は後半の飲水タイムに宮代→垣田、渡井→小西。走力を生かして走りまくる垣田と、一列目と二列目を行き来する小西。
・[4-4-2]のセットディフェンスからスタートして、鈴木徳真や岩尾が列を上げるとスッとスペースを埋める小西。[4-4-2]と[4-5-1]がシームレスに変換できているようだった。
・アディショナルタイム、小野のスルーパスにチアゴ・アウベスがドゥシャンの裏をとって豪快なシュートを叩き込んで2-1。徳島はなんとか逃げ切り、貴重な勝ち点3をあげた。
・課題はあるが、前任者の一年目に比べるとポヤトスはリアリストな印象を受ける。カードの切り方、システムの変更、時計の進め方。それは、時を経てチームが大人になったことの証左なのかもしれないが。
雑感
東京五輪期間中にTwitterのタイムライン上で「ポヤトスの完成型はこのスペイン代表ではないか?」とのツイートがあったと記憶しているが、選手間でも同様の認識だったようだ。岩尾曰く「(完成型から比較すると)初級にも入ってない」徳島の選手たちにとって、これ以上ないお手本を目に焼き付けることができたのは、飛躍のきっかけとなるかもしれない。目指す道ははるか先でも、具体的なゴールをイメージできるかどうかは大きな違いを生むだろう。
そう考えると、スペイン五輪代表の躍進で一番救われたのはポヤトスかもしれんな。「ええか、ワイはこういうサッカーしたいんや」と選手にイメージを植え付けてくれたわけだ。
— C & D (@kondocharai) 2021年8月9日