2022.4.20(水) J2リーグ第11節 徳島ヴォルティスvsいわてグルージャ盛岡 ~次なる一手~
ホームの徳島ヴォルティスは、リーグ戦5試合続けて勝ち星無し。この間わずか1得点。前節の水戸戦では4試合ぶりのゴールをあげたが、ロスタイムに追いつかれての引き分け。流れを変えたいこの試合では、今シーズン初めてバケンガ・藤尾をスタートから同時起用。藤尾は右ウイングに入り、杉森が左へ。中盤は児玉→白井、ディフェンスラインは藤田→カカと変更があり、新井が右、安部が左サイドバックの構成。中2日という厳しい条件だが浮上のきっかけを掴みたい。
いわてグルージャ盛岡(以下、岩手)は、昨シーズンのJ3リーグで2位に入りJ2昇格。秋田豊体制で3年目を迎える。この試合では"鹿島色"を感じさせる中村充孝が最前線に入る[3-4-2-1]。10試合で7得点とこちらも得点力不足に苦しんでいるが、外国籍選手4名はサブからのスタートとなる。
闘将のチームは堅守速攻
- 岩手の守備は[5-4-1]でセットした状態から人を押し出していく。序盤はトップの中村は櫻井へのパスコースを消して、プレッシングのスイッチを入れるのはシャドウの選手。
- この日の前半の岩手のように、前線にロングボールの"的"を持たないチームにとって前向きに守備をすることは重要なのだろう。出足良くボールを奪って、相手の守備陣形の間隙を縫ってそのまま速攻へ移行する。
- 立ち上がりの岩手の攻撃の主なパターンは右サイドからのクロス。中村充がパスを受けて捌く、そこへ和田と加々美が絡む。縦へ突破してのクロスに対して、逆サイドの色摩と中村太がターゲットとなる。
- 前半最大の決定機も、加々美が大外でキープしSB-CB間へ走る和田へパス。グラウンダーのクロスを中村充がニアで合わせるも、スアレスが股を閉じて好セーブ。
- 一方で岩手の守備の局面において、徳島のビルドアップに対してファーストディフェンダーが定まらない場面が多く見られた。具体的には、シャドウの選手がセンターバックを見るのかサイドバックを見るのか?センターバックを見るとすれば、サイドバックには誰がアプローチするのか?
- このため後方の選手からすると、人数は揃っているが無数の選択肢に対応しながら徳島の選手を捕まえなければならない。徳島の攻撃は、ライン間へ入ってくる縦パスに複数の選手が絡んでコンビネーションプレーを見せる。対して常に後手後手の対応に回っていたのが、岩手の守備の実情だったように思う。
藤尾の宮代ロール?
- もう一つ徳島の攻撃を加速させたのは藤尾の右ウイング起用だった。この起用には「ロングボールやクロスの的が一つ増える」だけではない効果があった。
- 昨年の宮代大聖を彷彿とさせるように、右サイドからインサイドへ移動してパスを引き出す藤尾。岩手の5バック迎撃守備に対して、バケンガとの2枚でセンターバックをロックする。
- これによって自由を得たのが渡井。ノープレッシャーのディフェンスラインから供給される縦パスを引き取る。バケンガや藤尾のフリックから前を向いてドリブルで仕掛けるなど、生まれたスペースを謳歌していた。
- 16分あたりから岩手の守備は、色摩を一列上げて[5-3-2]へ。2トップで中央を封鎖し、サイドは[3]がスライド。攻撃へ移行した際の枚数を増やしたい狙いもあっただろうか。
- 岩手が[5-3-2]気味に守るようになった直後、杉森が左サイドで仕掛けて岩手の守備陣を押し下げ安部へ戻す。守備ブロックが寸断された岩手の[3]と[2]の間のスペースで受けた安部からファーサイドへクロス。バケンガを囮にセンターバックの背後へ潜り込んだ藤尾がヘッドで合わせて先制。
- 岩手の守備の変更もあって、徳島は守備ブロックを迂回するようなパス回しが増えるが、先制点を奪った時間が絶妙だった。スコアを先に動かしているので焦る必要がない状況。そして困ったらスアレスへバックパス。
- 右サイドに入った藤尾も、中へ移動してターゲットとなるだけでなく、身体の強さとスピードを生かしたドリブルでサイドから陣地回復の面でも貢献。
- 前半終了間際には、左サイドを突破した安部がペナルティエリアに侵入。うまくファウルを誘発して獲得したPKを、藤尾が落ち着いて決めて2‐0。
とどめはスアレス
- 劣勢を覆したい岩手は、ハーフタイムにビスマルク、ブレンネル、オタボーと外国籍選手3名を一気に投入。ブレンネルが1トップ、ビスマルクは右ウイングバックに入り、オタボーが左シャドウ、中村充が右に回る[5-4-1]へ。再び"人を見る"要素の強い守備に変更。前半とは異なりキーパーまで圧力をかけるなど、高い位置から人を捕まえにくる。
- そんな後半、とりわけ威力を発揮したのは杉森-渡井の左サイドでのコンビネーションだった。
- 右から左へのサイドチェンジや、安部のオーバーラップで攻撃に関わる人数が増えると”浮いたポジション”をとる渡井。そして渡井の足下にボールが入ったタイミングを見逃さずに、ウイングバックの裏から抜け出す杉森。
- 渡井のポジショニングが巧みだったのは、必要以上にボールホルダーに寄ることなく、またゴール方向へ移動することもなく、その場にしっかり留まることでフリーとなり攻撃の経由点として機能する。
- 岩手は57分、中村充→モレラトで外国籍選手を全投入。ブレンネルというロングボールの的は生まれたが攻撃は散発的なものが多く、徳島のゴールを脅かすには至らない。
- 徳島は70分、スアレスのゴールキックを”浮いた”渡井が受けて反転から杉森へパス。杉森はドリブルで持ち込み、ペナルティエリア内を横断しながらカットインからシュート。こぼれ球を藤尾が蹴り込みハットトリック達成。徳島が事実上勝負を決める。
- 2分後には再びスアレスのフィードを受けた渡井が、今度は自ら持ち込みニアサイドを撃ち抜く。76分には途中出場の西谷にも今季初ゴールが生まれて5-0。これまでの得点力不足が嘘のように攻撃陣が爆発し、徳島の勝利で試合は終了。
雑感
支配しながら勝ち切れない試合もあったなか、その鬱憤を晴らすかのような圧勝劇。藤尾のハットトリックに加えて、渡井・西谷とチームの柱にゴールが生まれたことも好材料。あとはバケンガ……と多くのサポーターが思っただろうが、それは望みすぎだっただろうか。
ターゲットを二枚用意したことでマークが分散され、バケンガも積極的にボールを引き出して渡井・杉森らとのコンビネーションを披露した。そしてターゲットが二枚いることで、中が作り直す時間を待つことなくクロスを供給することもできる。
藤尾とバケンガを初めてスタートから同時起用したこともあって、岩手の戦略は少なからず狂わされたのだろう。徳島がこの試合で一定の成果を得たことで、今後対戦する他クラブは「右ウイング・藤尾」への対策も練ってくるはずだ。具体的には素早くスライドして中央への縦パスを通させないことや、前線からのプレッシングに連動して全体を押し上げライン間のスペースを消してしまうこと。サイドバックのマークの付き方などクロスに対する守備も対策してくるはずだ。
徳島は育成型期限付き移籍の石田が名古屋へ強制連行され、エドもルヴァンカップでの負傷が懸念されるなか、右サイドでの優位性を創出できるか?が1つのポイントになりそうだ。昨年は宮代がインサイドへ移動しても大外に岸本がいた。藤尾がインサイドへ移動したとき、大外を担うのは新井かそれとも新たな槍の出現か。