ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2022.2.19(土) J2リーグ第1節 徳島ヴォルティスvsツエーゲン金沢 ~安堵と課題~

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メンバー

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 ただいまJ2-。とはいえ我々は、J2に戻ってきたわけではなく一時的に帰省しているだけなのだ。一年でJ1へ復帰する価値を、自らの手で証明する必要がある徳島ヴォルティス。例年以上に主力がごっそり退団するオフシーズンを過ごしたが、新戦力のスタメンは4名。特に白井・櫻井あたりの出来は、チーム浮沈のカギを握ることになるのだろう。1トップには藤尾。開幕前に田向の離脱が発表された左サイドバックは新井がスタメン出場。

 ツエーゲン金沢は昨年のJ2リーグで17位。J3へ降格した19位の相模原とは、わずか勝点差3という薄氷のシーズンだった。金沢サポさんのブログを拝読していると、柳下監督の続投に不満の声も多かったようである。迎えるヤンツー6年目。キーパーの後藤、左サイドバックの渡邉、セントラルハーフの大橋と主力級の流出はあったものの、林や松本大弥の加入、毛利の復帰、豊田の帰還によって穴埋めしてきた印象だ。

金沢の守備と徳島のリスク管理

  • 戦前、金沢の守備を「独特なマンツーマン」と評する記事を目にしたが、この日もその意識は強く感じられた。徳島のアンカー+2センターバックを2トップでケアしながら、サイドバックサイドハーフが、ウイングはサイドバックが監視。降りてくるインサイドハーフにはセントラルハーフがポジションを捨てて出ていく点も徹底していた。
  • 対する徳島は、櫻井を2トップの背後に留まらせてサイドバックを残し、時間を得た最終ラインから配球を開始していく。試合語に選手の口から「金沢のカウンターが怖くてなかなかサイドバックを上げられなかった」と語られていたが、リスク管理を鑑みれば、この判断は間違っていなかったと思う。
  • 金沢はボールを奪うとシンプルに2トップに当ててくる。そしてサイドハーフが内側に絞ってサポートする[4-2-2-2]のヤンツー式。徳島は中盤の底が櫻井一人なので、サイドハーフを捕まえる選手が必要になる。そこで登場するサイドバックの迎撃。
  • もっともアウェイチームの立場として「降格チームを相手に敵地で勝ち点が拾えたら上出来」は一つの考え方だろう。今年のポカスタでは、この日の金沢のようなチームを多く目撃することになるのではないか。守備に人数を割いて、奪ったら前線の選手をシンプルに使いセカンドボールを拾ってカウンター。実際にリカルド期の徳島は、そのやり口で勝ち点を失った試合も多かった。あとセットプレー。
  • よりリスク管理を重視するように見えるポヤトス。大事なのはチームで意思統一して、焦れずにやり続けられるかどうか。あと前線に豊田が残ってるって普通に怖そう。

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徳島のボール保持と金沢の人を捕まえるディフェンス

 

内田の復活と新井の降臨

  • 徳島はサイドバックを残し気味に金沢のカウンターアタックに備えながら、攻撃の突破口を探っていく。特に前半多く見られたのは、センターバックが対角のフィードを蹴って逆サイドのウイングへ届ける形だった。新井が金沢2トップの脇に立って対面の嶋田を引き出し、内田→西谷へズドン。
  • 新井は立ち位置を調整しながら金沢の出方を観察し、安部に「もっと運べ」とジェスチャーで示すなど早くも徳島のビルドアップの調整役に。大きな声でコミュニケーションをとるなど、現地で見ていても目立つ存在感だった。
  • 立ち上がりから果敢に1on1を仕掛けて、フリーキックを獲得する西谷。言葉だけでなくプレーからも「今年は俺が引っ張る」という意気込みがビンビンに感じられた。

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内田の持ち出しと逆サイドでフリーのウイング
  • とはいえ、西谷がこれぐらいやってくれるのは想定内といったところか。より不安だったのは宮代・岸本と攻撃の核が2枚抜けた右サイドだった。こちらも浜下が大外に張って、藤田が1つ内側のレーンでサポートする形が多く見られた。西谷のドリブル突破からインサイドレーンを駆け上がった藤田を使って二次攻撃。もちろん浜下の攻守にわたる献身性はこの日も健在だった。
  • ただし右ウイングが外へ張る機会が多くなったぶん、ゴール前の人数が確保しにくくなる。ここは白井が何度もスペースへ走りこむ動きを見せていたが、残念ながらこの日は報われなかった。「俺に出してくれよ」とアピールするシーンも散見されたが、お互いの息を合わせるのはもう少し時間が必要か。
  • 困ったときには宮代がハーフスペースでボールを引き取って、ターンから陣地回復してくれる技も今年は使えない。その代替案も、今後見つけていく必要がありそうだ。

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インサイドを使うサイドバックは二次攻撃の起点になる

 

マンマークの壊し方

  • 両ウイングのアイソレーションからクロスまではたどり着く徳島だったが、中の的が一枚ということもあってボール保持からの決定機には至らない。むしろ金沢のゴールキックを新井がカットして、渡井が反転からドリブルで持ち込んだプレーが一番の決定機だった。
  • 膠着状態に陥った流れのなか20分を過ぎたあたりから、新井が積極的に偽サイドバックの立ち位置をとるようになる。

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内側でパスを受け渡井とのワンツーを試みる新井
  • このシーンは惜しくもパスが合わなかったのだが、人に強く当たってくるチームには対面の相手を剥がすことが重要になる。人に付いている分、一つズレればドミノ倒し的にマークがズレていく可能性もあるだろう。特に徳島のように反則助っ人がいないチームにおいては、立ち位置で相手を動かしながら、パスを正確に素早く繋いで時間のロスを無くしていく必要があるのだろう。
  • ポヤトスが試合後に口にしていた「パススピード」の課題も、そういった点を念頭に置いてのことかもしれない。ただその課題を克服していくには、時間がかかりそうな気もするけれど。

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金沢の改善と徳島の新戦力

  • スコアレスで迎える後半。徳島としてはウイングに時間とスペースを与える、までは達成していたがその後が課題。守備では引き続きカウンターとセットプレーに要警戒。金沢は無失点で耐えたのは想定通りだろう。カウンターで良い形も作れていた。ただし、いくらなんでも西谷が目立ちすぎじゃないかとの思いはあったかもしれない。
  • 金沢はボール保持で立て続けにキーパー・白井まで戻す。前半にはあまり見られなかった形。パスを受けた白井はシンプルに2トップへフィード。より徳島の陣形を間延びさせて、最終ラインをカウンターの脅威に晒したい狙いだろうか。

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キーパーまで戻して前線を使う金沢
  • 金沢の策は理にかなっていたように思う。というのも、前半から徳島はハイプレスであまり良い形を作れていなかった。後ろの人数を担保しているぶん、プレッシング隊が足りない。遅れ気味に出ていく渡井や白井。高い位置でボールを奪いたい前線と、金沢のカウンターが怖い最終ラインの分断を狙ったのだろうと予想する。
  • 加えて徳島のボール保持時には、より役割を整理してきた金沢。内田がボールを運ぶと林が追いかけていく。新井がボールを持つと嶋田と豊田がパスコースを遮断するように立ちはだかる。逆サイドにボールがあるときでも、サイドバックはウイングの監視を怠らない。

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パスコースを消され狙い撃ちにされる藤尾

 

  • マンマーク気味に人を捕まえられた徳島は、サイドバックから斜めのパスを入れるなど藤尾をシンプルに使う攻撃が増える。だがウイング、インサイドハーフサイドバックと藤尾をサポートするべき選手はいずれも金沢の選手に捕まっている。また藤尾自身のポストプレーもやや正確性を欠き、金沢がボールを回収。
  • 金沢が前がかりになるので、カウンターからの攻撃が効果的だった徳島。中盤の攻防から盤面をひっくり返して渡井・西谷のドリブルを中心に金沢ゴールへ迫る。サイドを封じられたこともあって中央の3レーンを使う攻撃が増えるが、そこは金沢も人をかけているエリア。
  • 67分に藤尾→バケンガで攻撃のテコ入れを試みる。バケンガは昨年よりコンディションが良いように見え、ポストプレーでボールを収める。だが金沢の2CB相手に前向きで仕掛けるシーンは少なく、爆発とまではいかなかった。
  • 78分には渡井→坪井、浜下→サンデー。ウイングにフレッシュな選手を投入することでサイド突破を復活させたい。サンデーは守備で怪しい対応もあったが、攻撃では果敢な突破を試みる。アディショナルタイムには西谷の決定機に繋がるクロスを供給。ヨーイドンでスペースへ走るだけでなく、足下へボールが入っても仕事ができることを証明した。
  • 3度目の選手交代は藤田→カカ、櫻井→長谷川で、カカはセンターバック、新井が右サイドバック、安部が左サイドバックへ。勝点3を目指すなら後ろを削るのもありかと思ったが、並びを入れ替えただけだった。
  • ゴールを奪う・勝点3を目指すのは大前提だが、だからといってこちらから盤面を崩したり、管理できないリスクを負うのは好まない。藤田が年齢的にも90分は厳しい、田向のケガでサイドバックが他にいないだけかもしれないけれど。
  • 寒さを吹き飛ばす熱狂は生まれず、雨中の開幕戦はスコアレスドローで終了。

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雑感

 主力が大幅に入れ替わったなかで、ここまで形になっていたことにまずは希望を感じるべきなのだろう。このチームは一体どうなってしまうのか、と不安を感じていたサポーターも多かったと思う。若手の積極起用も含めて、ブレない方針・スタイルを確認できたことは良かった。

 一方で、特に攻撃面では課題が多く出たのも確かだと思う。最終的に誰がどのような形でゴールを決めるのか?は不明瞭なままだったし、守備のバランスを維持しながら攻撃の人数とリスクをどう担保するかは、今後も課題として付きまとうのではないか。また金沢がロングボールを選択する機会が多かったとはいえ、プレッシングがハマる機会がほとんど見られなかった点も気になる。攻守両面において、敵陣へ人数をかけて出ていく判断は今後も意思統一していく必要がありそうだ。

 多くの新戦力が存在感を示したなかでも、偽サイドバックのタスクをこなせて両サイドに適応する新井と、技巧派が揃う徳島の中盤において少し毛色の異なる白井は、貴重な存在になりそうである。