2022.3.19(土) J2リーグ第5節 大宮アルディージャvs徳島ヴォルティス ~間に立つ~
ここまでリーグ戦未勝利の両チーム。ホームの大宮アルディージャは前節の栃木戦から奥抜→武田と右ウイングを変更。徳島のことを熟知した河田が最前線にかまえ、チームを率いるのは山口時代から徳島と名勝負を繰り広げてきた霜田正浩監督。
徳島ヴォルティスは守備陣を中心に3名のスタメン変更。センターバックはカカ・石尾のペアで、安部が左サイドバックへ。藤田・内田がメンバーからはじき出される形となった。中盤は櫻井がメンバー外となり白井がアンカー、渡井・児玉のインサイドハーフでスタートする。この試合の前日にコロナ陽性判定を受けた選手が1名出たとのリリースがあり、その影響もあってのメンバー選考だったのだろう。
サイドバックの役割と利き足
- 大宮は霜田監督のチームらしく、立ち上がりからインテンシティの高さ、特にハイプレスが目をひいた。特徴的だったのは、[4-3-3]のセットからウイングが徳島のセンターバックを見て、空いたサイドバックには中盤の[3]がスライドしてインサイドハーフが出てくる形。
- ピッチの横幅を3人の選手でカバーすることは難しく、中盤の3枚のスライドには時間がかかる。よって徳島のビルドアップ隊の中で多少の時間を得ることができるのはサイドバック、もしくはキーパー。前節までの徳島の戦いをスカウティングしたうえで"捨てる"ならこのポジションとの狙いだったのかもしれない。
- 攻撃においてもアンカー、キーパーを絡めながら低い位置からビルドアップを行い、サイド(特に左サイドバックの小野)を起点に斜めのパスを徳島のディフェンスラインの背後へ刺し込んでいく。
- 10分を過ぎたあたりからテンポを落とした大宮は、矢島を河田と同じ列に上げて[4-4-2]でセット。非保持の局面で2つ目の顔を見せるようになる。
- 徳島は白井が大宮の2トップ脇でパスを受けて前進。列を上げて大宮のサイドハーフを引きつける安部。大宮の守備網のスクエアで待ち構える渡井という構図から、中央の児玉を経由して再び左サイドへ。安部が上げたクロスのこぼれ球を西谷が蹴り込んで徳島が先制。
- いずれの動きも今シーズン徳島が繰り返し見せてきた形である。加えてこのシーンでは、児玉からパスを受けた安部(左利き)がトラップからそのままクロスに移れたのも大きかった。
- 外→中→外と相手の守備網を揺さぶりながら、間髪入れずにクロス。最終的にクロスを供給する役割であれば、利き足に持ち変える必要がなくスピードに乗った状態で縦方向に一連のプレーを完結できる順足(左サイドなら左利き)の選手がベターだろう。安部の左サイドバック起用が的中したゴールでもあった。
袋を作る
- 先制点で勢いに乗る徳島は、その流れのまま大宮のボール保持に襲いかかる。前線からの激しいプレスとパスコースを消す選手たち。かつてポヤトスの守備を「袋を作るイメージ」と表現した選手がいたが、大宮のボール保持を袋小路に追い込んでボールを回収。高い位置からのカウンターに繋げる。
- 大宮はキーパーの南も含めて執拗に繋ぐ姿勢を見せる。上述の通り立ち上がりは左サイドから何度か良い形を作れていたが、徳島が大宮のボール保持を右サイドに追い込むようになると脆さが見える。山田・大橋が時間を与えてもらえずに狙い撃ちにあい、バックパスのミスからあわやのシーンを迎える。
- このあたりはスカッドの泣きどころというべきか、ゴールゲッターとしての河田の価値は高いのだが、それ以外の局面の貢献度は徳島サポもよく知るところ。加えて両ウイングも空中戦でサイドバックと競るようなタイプでもないので、大宮はボールの逃しどころに困っていた。
- 大宮の攻撃が”各駅停車"のパスが多く、局面をひっくり返されるようなシーンが少なかったのは徳島にとって幸運だったと思う。一方で徳島の非保持、特にウイングとインサイドハーフの役割はしっかりと整理されていた。とくに[4-3-3]の泣きどころである”アンカー脇”を使われるパターンはかなり警戒していて、インサイドハーフが背中でパスコースを消す、インサイドハーフが列を上げればサイドハーフが絞る形が仕込まれていた。
- バケンガに過度な負担を強いずに守備に組み込む。守備でも頑張れる(無理がきく)ウイング。ドリブルからそのままカウンターに移れるインサイドハーフと選手の特性が考慮された仕組みだといえるだろう。
- 26分にも徳島は大宮のビルドアップを右サイドに追い込む。大橋と新里のパス交換からインサイドに降りてきた武田への縦パスを背後から西谷が強襲。児玉→バケンガ→ペナルティエリア内へ走り込んだ西谷と繋がったところを背後から西村が倒してPK獲得。これをバケンガが落ち着いて沈めて2-0。
- ようやく本領を発揮しつつあるバケンガ。バケンガは垣田ではない(当たり前だが)。幸い中盤には汗をかける選手が揃っているので、守備で過剰な貢献を求めずしっかり役割を整理すれば技術と嗅覚は間違いない選手である。徳島が長年探し求めてきた「ゴールは金で買える」存在になれる可能性がある。
右サイドバック・新井の価値
- 大宮の[4-4]の間で受けるインサイドハーフ、組織的な守備からのカウンターと並んで徳島の攻撃のポイントになったのが両サイドバックの人選だろう。これまでは左に新井・右は藤田という組み合わせが多かった。新井はポジショニングも含めてビルドアップでの貢献度が高く、藤田はクロスが得意なタイプ。
- 新井は両サイドに適応できるが、あくまで利き足は右。このため長いレンジのキックでは右足に持ち変える動作が必要で、縦へのロングボールは蹴ってもサイドを変えるようなキックは限定的だった。
- この試合では本来の右サイドに配置されたため、相手の圧力を受けてもボールを隠した状態からピッチを横断するキックを蹴ることができる。中盤は3枚もしくは4枚でピッチの横幅をカバーしようとする大宮のプレッシングに対しては有効で、新井のフィードを起点にサイドを変える攻撃で徳島は前進する。
- 前半のラスト10分ほどは、さすがに両チームとも疲労の色が見えてトランジションの局面で後手に回るファウルが増えていく。徳島は白井、大宮は武田・西村が立て続けに警告を受けるがスコアは動かず2‐0で後半へ。
小島の投入と逆足ウイング
- 大宮はハーフタイムに武田→奥抜、大橋→小島と二枚替え。右利きの奥抜は左ウイングに入り左利きの柴山が右ウイングへ。小島はインサイドハーフへ、三幸がアンカーに回る。
- 選手交代を機に並びを変えてきた大宮。大橋が一人で中盤の底を担う型から、小島・三幸が近い距離間でディフェンスラインからのパスを受けにくる。小島・三幸で徳島のインサイドハーフを引きつけて、その裏で余る矢島。
- ライン間に位置する選手は減ってしまうものの、ハイプレスに来る相手(特に前・後半の立ち上がり10分間など)に対して局面をひっくり返す意味では効果的だったこの配置。柴山を右に回してでも両サイドに逆足のウイングを配置してきたことから、少ない人数でもより直線的にゴールへ向かおうとの狙いだったのかもしれない。
- プレスがハマらなくなってきた徳島は63分にバケンガ→藤尾、渡井→坪井。選手は入れ替えても守備のやり方は不変。[4-5-1]のセットからインサイドハーフを押し出していく。残り時間が少なくなるにつれ後ろの枚数を増やすなどの選択もありかと思ったが、最後まで並びは変えなかった。
- 大宮は両ウイングがカットインからクロス、中央レーンへ移動してシュートなど突破口を探るが最後までゴールは割れず。前半は徳島が圧倒、後半は大宮が盛り返したが2‐0で試合終了。
雑感
大宮は河田が孤軍奮闘。個人的に霜田監督というと、オナイウ・小野瀬・三幸・前らを擁したレノファ山口のイメージが強い。リスクを負ってでも高い位置から圧力をかけ、インテンシティの高い試合に持ち込む志向は変わらないように見えた。一方で当時の山口と比べると……といった感じ。霜田さんは徳島のOBでもあるので頑張っていただきたいが、なかなかに道のりは険しそうだ。
徳島は待望の今シーズン初勝利。収穫は勝点3だけではなかった。スタメン、並びがごっそり変わったディフェンスラインはそれぞれの選手が良さを出して起用の意図に応えた。新井はサイドを変えるフィードで内田の不在を感じさせず、安部はクロスから先制点をアシスト。インサイドを駆け上げって惜しいミドルシュートを放つシーンもあった。懸念された櫻井の不在も、白井のアンカー・児玉のインサイドハーフで乗り切れた。バケンガの"正しい使い方"が分かってきたようにも見える
このあとは中3日でミッドウィークに秋田戦。藤尾は年代別代表で不在となるが、バケンガと交代で出てくるのは誰になるか。今節メンバー外となった選手の中で誰が戻ってくるかなど見どころは多い。ホームでしっかり連勝して上位に食らいついていきたい。