2021.4.14(水) J1リーグ第18節 セレッソ大阪vs徳島ヴォルティス ~物語は第二章へ~
セレッソサブ・GK松井、DF鳥海、新井、MF松本、FW松田力、中島、加藤
徳島サブ・GK長谷川、DF藤田征、MF小西、渡井、鈴木徳、杉森、FW垣田
セレッソのACL日程により、急遽組み込まれた18節。セレッソは前節、徳島と同じ昇格組の福岡相手にホームでドロー。中3日のミッドウィーク開催となった今節もスタメンは変更なし。さらにサブの顔ぶれも全く変わらないのは、坂元、原川、高木など主力にケガ人が多いチーム事情を考慮しても、メンバーの固定を好むクルピらしい選択といえるだろう。
徳島は浦和に敗れたあと、中2日でのアウェイ連戦。前節ともに脚を痛めた様子のあった垣田、鈴木徳をサブに置き、河田、岩尾がスタメンへ。二列目は浜下・宮代・藤原の並び。なお、甲本ヘッドコーチが監督代行として指揮を執る最後の試合となった。
レヴィー・クルピについて
完成度の高いサッカーで評価されていたロティーナを切ってまで、レヴィー・クルピを新監督に迎えたセレッソ。「なんどめだクルピ」と、その方針を疑問視する声が多かったものの、清武・坂元などの既存戦力に西尾など若手の成長、さらに帰ってきた大久保の大爆発もあり、ここまで10試合で勝点17と順調なスタートを切った。
ロティーナとクルピの違いについては、『セレッソ大阪を分析するブログ』でお馴染みのAkiさんが的確すぎる解説をしてくださっているので引用したい。
前任のロティーナ監督は明確な哲学、ゲームモデル・プレーモデルを持ち、それをチームに落とし込み、対戦相手を分析し、という形でチームを組み立てていったが、クルピ監督のやり方はそれとは全く異なる。
クルピ監督のやり方は、チームにいる選手を組み合わせて最適解を探すというもの。
本人曰く「自分の好みの戦術に選手を当てはめたりせず、選手の特徴を尊重する」タイプの監督である。
つまり、ピッチに立たせる選手と組み合わせが肝であり、またその組み合わせによってチームの顔が変わるということになる。
この日のスタメンで「肝」に映ったのは、2セントラルハーフと清武だ。セントラルハーフはビルドアップの形を決める。つまり彼らと松田陸の立ち位置によって[3-1]にも[2-2]にも[3-2]にも変化する。清武は中間ポジションに立つのがうまい。徳島のサイドハーフとセントラルハーフの間。セントラルハーフがプレッシングに参加すればその裏などそ狙う。そして豊川。ボールを足元で欲しがる選手が多いなか、何度も裏のスペースをアタック。その豊川の裏抜けからポストを叩くシュートで試合の幕は開けた。
どちらのサイドにボールがあるかに関わらず、攻撃のタクトを振るうのは清武。セレッソの左サイドでは自らドリブルで運び、丸橋の攻撃参加を促す。右サイドでもボールサイドに近寄り、豊川や大久保へパスを供給する。そして、まず清武を探しているように見えるビルドアップ部隊。
徳島にとって与しやすい面があったとすれば、セレッソの攻撃が比較的読みやすいことだった。上述の清武を使うパターンにしてもそうだし、「ボールサイドに人数をかけ逆サイドに大きく展開」のようなパターンが殆ど見られない。このため「2トップでサイドを限定させ、後ろは一人一殺」のプレッシングが威力を発揮。先制点も、ジエゴのパスカットから前線へ素早く繋ぎ、最後は宮代が鋭く右足を振りぬいた。
セレッソのコンビネーションを使った攻撃に対して、サイドハーフにはサイドバックが、サイドバックにはサイドハーフが対応と、人を決めて捕まえに行く場面も多かった徳島。ボールサイドに寄ってくる清武と対応する岸本やセントラルハーフ。この時セレッソの中盤左サイドからは人が消え、浮いた形になる浜下。この嚙み合わせによって前線への縦パスに浜下が積極的に絡み、存在感を見せることとなる。
河田をどう生かすか
また、この日の徳島はトップに河田、トップ下に宮代の組み合わせ。攻撃に深さを作る垣田と個で打開する能力を擁する渡井とは違った崩しが求められる。
鈴木大の前進に合わせて列を上げる岸本。清武をピン留めしながら、浜下との関係性で丸橋に2vs1の状況を作り出す。宮代は積極的に背後を狙う動きを見せ、セレッソのDFラインを押し下げる。そして前向きでボールを持った河田がミドルシュート。「河田に垣田の代役を求めるのではなく、河田の持ち味を生かした攻撃だった」とTwitterに書いている方がいたが、なるほど鋭い指摘だと思った。これまでは相手DFラインと駆け引きを求められ、J1の屈強なCBに跳ね返される機会の多かった河田。この日は味方が作り出したスペースを上手く生かし、持ち味を発揮していた。
試合は休養日が一日少ない徳島が、前半15分に宮代のゴールで先制。セレッソにボールを持たれる時間も長かったが、徳島は狙いをもった守備から素早く攻撃に移りゴールへ迫る。セレッソは形らしい形をほとんど作れなかったが、34分に藤田のロングスローを進藤が頭で押し込んで同点。数少ない好機を決められ、1-1で折り返す。
1-1の時間が長く続き、試合の趨勢は大きく変わらない。ボールは保持するが、セットプレー以外では良い形でゴールまで運べないセレッソと、浮いた浜下+河田・宮代でトランジションからゴールへ迫る徳島。
後半の飲水タイム前後辺りから、さすがに徳島の選手の疲労の色が濃くなり、対応の遅れが誘因となってファウルが増えていく。加藤、中島、松本と「もはやそれはJ2オールスターではないのか?」なメンバーを次々投入するセレッソ。徳島は杉森に続いて、鈴木徳、渡井の投入で流れを引き戻しにかかる。
セレッソのコーナーキックから松本のボレーはポスト。徳島は上図のビルドアップから杉森のシュートも、これまたポスト。このまま終了するかと思われた試合だったが、終了間際、残った体力を振り絞ってオーバーラップした岸本のクロスが西尾のクリアミスを誘いオウンゴール。徳島が劇的な勝利を収めた。
雑感
昇格したにもかかわらず監督が引き抜かれ、さらに新監督とコーチが開幕に間に合わないという異例づくしのシーズンとなった徳島ヴォルティス。10試合を終え4勝2分4敗の五分。勝点14の暫定9位で、甲本監督代行はダニエル・ポヤトスに役目を引き継ぐこととなった。
ビルドアップのミスから失点を重ね、圧倒的な個の力の前に愕然とした試合もあった。だがチームは試合を重ねるごとに本来の姿を取り戻し、厳しい試合を重ねるなかで若手は目に見えて成長を果たした。
覚醒の香り漂う宮代に、圧倒的な存在感で君臨し続ける藤田譲。離脱者が続出するなか左サイドから2列目を支える志龍。岩尾が欠場してもそれを感じさせないチームへ変貌し、この試合では河田の生かし方にもヒントが見えた。
監督が不在でも、甲本ヘッドコーチを中心にチーム一丸となり結果を残してきた。「自立したチーム」に新たな風が吹き込まれたとき、どんな化学反応を見せてくれるのか。今から楽しみでならない。2021シーズン・徳島ヴォルティス第二章。乞うご期待。