ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2023.2.19(日) J2リーグ第1節 徳島ヴォルティスvs大分トリニータ

 ダニエル・ポヤトスがガンバ大阪へと転職し、ベニャート・ラバインを後任に迎えた徳島ヴォルティス。事前の情報にあった通り、中盤をダイヤモンド型に配した[4-4-2]のシステムで開幕戦に臨みます。移籍組では柿谷がトップ下、森がFWでスタメン出場。既存メンバーではサンデーのサイドバック起用と、白井のベンチスタートが目を引きます。

 対戦相手の大分トリニータ三竿雄斗が京都へ、井上健太がマリノスへ移籍。穴埋めに獲得したデルラン、茂が左センターバックと右ウイングバックへ。アタッカーにはお馴染みのメンバーが揃う一方で、西川・安藤・弓場とセンターラインは若手の台頭を感じさせます。

前評判通りの圧力 

 ラバインで3人連続のスペイン人指揮官招聘となった徳島ですが、キャンプの時点から「縦への意識」に関するコメントが現場から多く聞こえました。これはラバインの個人的な志向もあるでしょうし、昨季あまりにも引き分けが多くプレーオフ進出を逃したチームが、上のステージを目指すために避けては通れない課題でもあるでしょう。大分も「今季はハイプレスに取り組んできた」との情報が中継でも紹介されていたように、徳島のボール保持に対しては前から人数をかけて積極的に圧力をかけてきます。

 徳島は前半風上という好条件もあり、大分の同数プレスに対してロングボールを有効活用します。ロングボールの的となっていたのは新加入の森海渡。昨年までの大分であれば三竿とのマッチアップだったはずが、今年の相手は187センチのデルラン。さらに3バックの中央は190センチの安藤と、ロングボールを苦にしないメンバー構成。

 大分は徳島のハイプレスに対する対策として①セントラルハーフを縦並びにしたアンカー+3バックで徳島の一列目の[3]に対して数的優位を作る、②構造上、徳島のプレスが届きにくいウイングバック(主に左の藤本)で時間を作り梅崎・弓場がフォローすることでサイドを攻略するという明確なパターンを披露していました。徳島からすれば、①の数的不利を解消しようと児玉が列を上げると藤本が空き、サンデーの前のスペースが晒されるピンチがありました。

 もっとも徳島からすると[4-3-3]の中央に人を厚く配した並び、右サイドバックにサンデーという起用を見ても、引いて守る局面はそれほど重要視していなかったはずです。多少のリスクを負ってでも、前から圧力をかけて高い位置でボールを奪ってシュートまで持ち込む。実際にプレッシングが成功した場面では、大分の2列目・3列目の間で余りがちになる柿谷や児玉を経由して、西谷のクロスからあわやのシーンまで辿り着くことに成功していました。

 立ち上がりの両チームの攻防の構図は分かりやすくて、大分のビルドアップに対してアバウトなロングボールを蹴らせるor中央で攻撃を詰まらせることができれば徳島の速攻に。逆にサイドにボールの逃がしてピッチの幅を広く使われると、大分のチャンスに繋がる機会が多く見られました。

 おそらく徳島のプレッシングのトリガーとなっていたのはセンターバック→キーパーへのバックパスで、これを一列目の選手が二度追いします。西川からすれば近くの味方は全員捕まっているのでロングボールを選択。カカがヘディングで跳ね返したボールを徳島のアタッカーが回収して速攻へ繋げます。

 大分は敵陣では[5-2-3]っぽく振る舞い、自陣深くでは[5-4-1]でセットしますが、このブロックを崩すの大変です。5バックの大外からクロスを放り込んでも、ましてや単純な中央突破では、なかなか得点にたどり着けない。よって徳島としては、ボール奪取の速攻から大分が5バックを形成する前にシュートまで持ち込むか、ボール保持の局面ではサイドバックインサイドハーフの立ち位置によって、大分のウイングバックを誘い出してからその裏のスペースをアタックする(主に西谷)ことが徹底されていました。

 大分は25分頃からビルドアップの形をマイナーチェンジ。3バック+セントラルハーフの形から、ペレイラを一列前に出して2バック化します。ペレイラ番の西谷をゴール前から遠ざけたかったのかもしれません。あるいは茂をウイング化することで推進力を生かしたかったか。いずれにせよ徳島は、右肩上がりに攻めてくる大分に対して田向の出番が増えていく展開になります。

 38分には田向の縦パスを受けた西谷が、この試合何度目かのドリブル突破でペレイラを躱してクロス。大分の2センターバックに対してニアに柿谷、ファーに森というお誂え向きの流れに。デルランの伸ばしたつま先をすり抜けていった先に待っていたのは森……のはすが。ゴールを奪えたかどうかはともかく、これは最低でもシュートまで持ち込んでほしいシーンでした。

 

若手の希望と劇的な結末

 後半開始早々、大分が野村のゴラッソで先制。被恩返し弾には定評のある徳島ヴォルティスさんが本領を見せつけます。野村はゴールもスーパーでしたが、タメを作るプレーや茂へのスルーパスで大分の攻撃を牽引。ケガさえなければJ2では変わらずスペシャルな選手であることを証明した試合だったように思います。味方を生かしてもよし、自分でフィニッシュに持ち込んでもよし。

 流れを変えたい徳島ですが、後半は守勢に回る時間が長くなります。大分が風上に立った上に、右サイドから押し込むようになったのも大きかった。現在の徳島の守り方では、自陣でサイドバックの前のスペースを埋めるのは2トップの役割になっています。つまり大分が茂のサイドで押し込む時間が長くなるほど、西谷は帰陣する機会が増えます。大分は徳島のビルドアップに対しても、サイドバックにはウイングバックが当たる、サイドに流れるインサイドハーフにはセントラルハーフがついていくことでミスマッチを解消。組織的守備の局面に持ち込まれる前に徳島の攻撃を寸断します。

 大分にとってはアンラッキーなPK判定の取り消しがあった後、徳島は69分に櫻井→白井、杉本→坪井。このあたりから白井が列を降りてパス回しに参加することでビルドアップが安定。徐々に試合の潮目が変わり始めます。

 さらに83分には田向→山下、児玉→西野でスクランブル体勢に。アタッカーをずらりと並べ、後ろでは白井・山下がポジションを入れ替えながらパスを繋いでいきます。リードする大分は徐々に1点を守り切る雰囲気に。そんななか、89分には西野太陽がゴール前のこぼれ球を押し込み同点ゴール。西野のゴールはもちろん値千金でしたが、直前のプレーでプレスバックから相手パスをカットし、さらにライン間でパスを受け直してシュートを枠に飛ばした坪井のプレーは称賛に値するものでした。

 

 徳島サポーターが沸いたのもつかの間、アディショナルタイムにはコーナーキックから繋いだボールを宇津元に決められて万事休す。両チームともに新時代を感じさせる選手たちが躍動した試合は大分の勝利で幕を閉じることとなりました。

 

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雑感

 リアルタイムで見ていた時はもっと一方的な内容だった印象がありましたが、改めて見直すと狙い通りの形が作れていた場面も少なくなかったかなと思います。特に西谷が少し内側のレーンでパスを受けるシーンが多く、この形が次節以降も継続されるのであれあば、クロスからの得点期待値は上がるのではないかと。ボールを失った時のリスクも大きいですが、西谷のドリブルの勝率と2列目のフォローで収支はプラスになるとの計算でしょうか。

 リカルド後期~ポヤトス期における試合運びに慣れていると、この日のようなハイテンポな試合はどうしても「がちゃがちゃしている」と映りがちですが、そこは選手たちのプレッシングに対する意識と同様に、観る側も慣れていくしかないのかもしれません。

 この試合の終盤には、安部・サンデー・坪井・山下・西野と、新卒で育てた選手が5人ピッチに立ちました。これまで「他クラブの選手を発掘して育てる」ことには定評がありましたが、真の意味での「育成型クラブ」に少し近づいた気がします。サンデーのパスを受けた坪井のシュートの跳ね返りを西野が押し込むという展開にも痺れましたね。そして西谷の運動量は相変わらず圧巻。

 「アンカー脇」とはしばしばネガティブな意味で使われますが、スペースがあるというのは味方も自由に出入りできるわけで、このスペースを誰がどのように使うかというのも今シーズンの見どころの一つになるような気がします。