ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.5.15(土) J1リーグ第14節 サンフレッチェ広島vs徳島ヴォルティス ~徐々に見えてきた全体像~

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スタメン

 

広島サブ・GK林、DF荒木、MF青山、藤井、長沼、FW鮎川、ジュニオール・サントス

徳島サブ・GK長谷川、DFドゥシャン、藤田、MF小西、渡井、西谷、FW河田

 

 ガンバ大阪ACL日程のあおりを受け、中2日で今節を戦うサンフレッチェ広島。アウェイで2-1の勝利を収めたガンバ戦からスタメンを5名変更。試合前にJ1通算400試合出場のセレモニーがあった青山敏弘はベンチスタート。城福浩監督は、言わずと知れた徳島県出身の重鎮。

 ポヤトス新監督が合流以降、リーグ戦は四連敗中と苦しむ徳島ヴォルティス。こちらはルヴァンカップを挟んだ長い連戦がようやく終わり、中5日で迎える今節。コンディションの再調整、戦術の浸透など、要素は何でもいい。とにかく再浮上のきっかけが欲しい試合。注目された二列目は、右からバトッキオ、宮代、杉森の並び。センターバックはカカと福岡の組み合わせでスタートする。

 

雨ニモマケズ 

 例年より大幅に早く、中国・四国・九州北部で梅雨入りが発表されたこの日。それを象徴するかのように断続的に雨が降るエディオンスタジアム広島。気象条件が影響したか定かではないが、広島は開始早々FW永井龍が右太もも裏を痛めた様子を見せ、ジュニオール・サントスとの交代を余儀なくされる。雨にも負けず、過密日程にも負けず、ケガ人にも負けず。前半まずペースを握ったのは広島だった。中継でも「岸本の上がった裏のスペースを狙いたい」と広島側のコメントが紹介されていたが、印象的だったのは徳島の右サイドを狙った攻撃。2トップの脇に立つセントラルハーフ、大外レーンに立つサイドバックインサイドレーンに入るサイドハーフ、その裏を狙う選手と役割を分担して、徳島のチャンネル攻略を目論む。

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広島ボール保持時の基本的な狙い

 とはいえ、徳島守備時の一列目の選手のボールホルダーの追い込み方。特に体の向きから「サイドを変えさせない」が優先されていることが見てとれ、同サイドで相手の攻撃を完結させる分には、ポヤトスにとって想定内なのかもしれない。広島の攻撃は、浅野がカカと入れ替わって決定機を迎えた以外にそれほど肝を冷やすものはなく、またチャンネルを使われても、徳島のセンターバックが芋づる式に引き出されてピンチを迎えるようなシーンも無かった。

 

[3-2]とオプションの[4-1]

 飲水タイムという現行の制度上、クォーター制のスポーツになった感のあるサッカー。ボール非保持はハイプレス、ボール保持では左サイドのスペースを狙う。明確な狙いをもって試合に入った広島に対して、飲水タイムを挟んだあたりから、徳島のボール保持の時間が長くなっていく。岸本を上げジエゴを最終ラインに残すお決まりの[3-2]の形だけでなく、岩尾を落とした[4-1]で広島の守備の基準点を横に広げ、空いたスペースへ顔を出す宮代の落とし。鈴木徳がパスコースを空け、福岡から楔のパス。また[3-2]でビルドアップを行う際、岩尾・鈴木徳のセントラルハーフコンビは相手の立ち位置を見ながら、一人は2トップの間、もう一人は2トップの脇といった様相で、段差を設けながら最終ラインからのパスを引き出す。2トップの脇に立つ選手に、広島のセントラルハーフが食いついてきたら、ハーフスペースで待つバトッキオや宮代へ。

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[3-2]ビルドアップと三角形の構成

 

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[4-1]の場合はバトッキオや宮代が登場。広島のセントラルハーフを動かして楔のパスを狙う。

  いずれのシーンでも象徴的なのは、前体制下でよく見られた「フリーの選手がドリブルで持ち運ぶ」プレーは優先度が低く、「時間を得た選手に、より効果的なパスを出させる」ために、他の選手がパスコースを空けたりサポート役となる動きだった。

 

動き過ぎた広島と逆手に取った徳島 

 最初の1/4は広島のゲーム、次のピリオドは徳島のゲームで前半は終了。広島は後半開始からエゼキエウ→青山の交代で、茶島を右サイドへ。比較的スムーズな連携を見せる左サイドに比べ、光るプレーはあるものの若干の異物感が否めないエゼキエウを下げる選択に出た。中2日でチーム全体に疲労感の残るなか、試合をコントロールすることを期待しての青山の起用だろうか。

 前半同様「斜めのポジショニング」で常に三角形を作りながら前進を試みる徳島と、プレッシングから浅野の突破に賭ける広島。佐々木翔からの対角フィードで好機を伺うも、そこで待つのはエゼキエウではなく茶島。どのみちオープンな展開を受け入れるのであれば、エゼキエウを残された方が徳島としては嫌だったかもしれない。そして実況で何度も指摘される「ジュニオール・サントスの使い方が整理されていない」問題。「それはサロモンソンをチームに上手く組み込んでおけば解決したのでは?」と感じたのはここだけの話。

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広島のサイドハーフが動けばサイドバックを、セントラルハーフが動けばハーフスペースを使う。

 徳島は61分にバトッキオに代えて小西を投入。両サイドハーフに逆足の選手を配置。戦術上、幅をとる役割が求められることが多い左サイド。対して岸本との関係性でレーンを移動したり、列を下りてゲームメイクにも携わる必要のある右サイド。また鈴木徳がプレッシングに参加するシーンが多くなったため、空いたスペースを埋めてほしい狙いもあっただろうか。

 広島の攻撃は、よく言えば流動的。高いポジションをとる両サイドバック、内へ絞るサイドハーフに加えてスペースを突撃するセントラルハーフ。そしてボールを失えば、人への意識マシマシで突進する。岸本の虎の子の一点は、広島の構造を上手く逆手にとったものだが、前半に宮代の抜け出しを今津がファウルで止めたシーンも、ビッグチャンスに繋がる可能性があったプレー。宮代を右サイドでなく中央で使った意図を考えると、カウンターからセントラルハーフが動いたあとの二列目三列目の間は、チームの狙いとして共有されていたのではと思う。

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雑感

 中2日の広島に対して、コンディション面で徳島が優位にあったのは間違いないが、とにもかくにもポヤトス体制リーグ戦初勝利。試合後、選手一人一人を長く抱擁して声をかける姿からも、喜びと安堵が伝わってきた。

 [4-4-2]でセットし、人への意識を強く守備を行う広島。 [3-2]でビルドアップを行う徳島には、配置上の優位性があったのも確かだろう。例えば、[4-4-2]のままだと広島は一列目の枚数が足りない。徳島の[2]をセントラルハーフが監視すれば、二列目と三列目のスペースが空きやすくなってしまうなど。

 徳島は時に陣形を変えながら広島の出方を観察し、大外、インサイド、中央と前進のパスを使い分けていった。とりわけ配球役を担った福岡には、心身共に大きな負担がかかっただろう。ドゥシャンとの交代時、疲労困憊といった表情だったのもうなずける。

 おそらくポヤトスの目指すサッカーは、リカルドのそれよりもノーマルなものなのだと思う。四局面において、満遍なく強くなることを志向しているような。セントラルハーフを動かしたがらないメリットとして、ハーフスペースや前線へのセカンドボールの回収役となる。また後ろを3枚確保することで、カウンター一閃のような失点を避ける。まさに、相手がこの日見せた脆さのように。

 一方で「隣り合うポジションは同じレーンに立たない」など、ボール保持における基礎は、チーム全体にしっかり叩き込まれているように見える。相手を背負った選手が斜め後方へフリックを見せるのは、その証左だろう。リカルドのチームほど派手ではないが、脆くもない。徐々にではあるが、全体像が見えてきたように思う。

 

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順位表

次節・5/22(土)18:00KO vs名古屋グランパス@鳴門大塚