ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2019明治安田生命J2リーグ第30節 徳島ヴォルティスvs京都サンガF.C. ~派手さの陰にあった一丸力~

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徳島サブ・GK永井、DF田向、藤田(71' 清武)、MF杉本(71' 岸本)、鈴木徳、島屋(86' 渡井)、FW押谷

京都サブ・GK清水、DF闘莉王(85' 一美)、冨田、MF重廣(75' 宮吉)、ジュニーニョ、金久保、FW中坂(64' 石櫃)

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 福岡・琉球相手に連勝中の徳島は、上位を叩いての三連勝を目指す。スタメンの11名は三試合続けて同じメンバー。サブには今シーズン序盤、サイドからのクロスで幾度もチームを勢いづけてくれた藤田が、約三ヵ月半ぶりに戻ってきた。京都は上位の難敵ではあるが、徳島が昇格争いに生き残るために勝点3がマストな試合だった。

 

 昨シーズンまでとは異なり、組織的なサッカーで内容と結果を両立させてきた今年の京都。ここ三試合は1敗2分とやや失速気味。前節・福岡戦からのスタメン変更は金久保→宮吉の一名のみ。こちらは自動昇格圏を手繰り寄せるために、取りこぼしは許されない。神戸から育成型期限付き移籍で加入した中坂勇哉が早速のメンバー入り。中坂は徳島が育(以下略)

 

 

リカルドの継続と京都の誤算

 選手の並びが注目された徳島だが、[3-2-4-1]でスタートし、守備時には岸本が右サイドバック、渡井が右サイドハーフに入る[4-4-2]でセットする形を採用してきた。これは、45分間で6得点を奪った前節・琉球戦の後半の流れを継続する選択ともとれるだろう。

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攻撃では幅をとる岸本がSB、渡井がSHに入る[4-4-2]でセット守備を開始

  一方で、今年のJ2リーグにおいてボール支配率が一位(京都)と二位(徳島)の対戦ということもあり「ボールを動かす相手に対して、いかに制限をかけつつ効果的に守備を行うか」が注目点となる試合でもあった。特に徳島のキックオフで始まった前半立ち上がりは、ボールを動かす徳島vs高い位置からプレッシングを行う京都、の構図が明確だった。

 スタートポジションでは前線が一美だけの京都は、徳島の3バックでのボール回しに対しては、宮吉・福岡がヘルプに駆けつけることで対応する準備をしてきたのだと思う。

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中央の数的優位を生かし、マンマークで徳島の選手を捕まえにいく

 ただし、この選択には2つの点で誤算があったように見えた。インサイドハーフの選手が前線へ出て行くと、京都も[4-4-2]のような並びになるが、中央部のフィルターとしての強度は低くなる。徳島は京都のインサイドハーフ~ウイング間に野村・渡井を配置することで、ラインをスキップするパスを狙いつつ、京都の2列目が簡単にアプローチに出られない状況を作り出す。

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アンカー脇に立つ野村・渡井と、三択を突きつけられる仙頭

 こうしてボールを自陣から運び出すことに成功した徳島にとって、次に有効だったのは清武・岸本の配置による京都ディフェンスラインのピン留めである。ここまで記してきたように、京都はボールを保持したいチームの当然の振る舞いとして、前線から人を捕まえにいく姿勢が強い。全体をコンパクトに保つためには4バックも連動して押し上げたいところだが、徳島は清武・岸本を京都のサイドバックの外側に立たせることで、MF~DFのライン間に活動スペースを創出。サイドに立つ選手にシャドウが連動することで、京都のSB~CB間を攻略し、クロスから決定機を作る。

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ピン留めでライン間を分断してからサイドを攻略

 

鍵を握る小屋松vs徳島の右サイド

 可変システムにより、守備時は[4-4-2]でセットする徳島。守備のコンセプトもオーソドックスなもので、2トップは中央を封鎖しながらボールをサイドへ追いやる。京都は庄司がCB間に降りることで対応。徳島の2トップに対して数的優位を作った上で前進を図る。庄司を真ん中に加えることで、距離が広がる京都の両センターバック。徳島は、サイドハーフがハーフスペースに立つことでライン間へのパスコースを消すことからスタート。京都がサイドにボールを展開したあとも、ボールとは逆サイドの徳島の選手が庄司をマークすることで、サイドチェンジを許さない守り方を徹底していた。

 徳島は立ち上がりから、京都のウイングに入るボールを、サイドバックとプレスバックしてきたサイドハーフで挟み込みながら対峙する。特に小屋松に入るボールに対しては、かなりの確率で岸本+二度追いの渡井で挟み込み自由を与えない。最終ラインの裏へ蹴られたキックに対しても、ヨーイドンで岸本が追いつき、小屋松を試合から消すことに成功していた。

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2トップで中央、サイドハーフでハーフスペースを封鎖しながらサイドへ誘導。

 特に前半、徳島と京都の守備で最も違いを感じたのは、チャンネル(SB~CB間)へのケアに対する意識の差だ。徳島は京都のウイングにボールが渡ると、プレスバックに伴って全体を下げ、コンパクトな陣形を維持する。これによって京都が攻略したかったであろうチャンネルを、ある時はマンマークで付いていき、ある時はマークを受け渡して対応するなど、自由を与えなかった。

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ボランチマンマークで付いていくパターン

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マークを受け渡して対応するパターン

 ボール支配率やシュート数では差は無かったものの、徳島は渡井がフリーでヘディングシュートを放つなど、あわやのシーンを創出。一方で京都はペナルティエリア外からのミドルシュートが多く、徳島の守備陣を崩したシーンは少なかった。ただ前半の半ばあたりから、福岡が2トップの脇に降りてゲームを作るようになり、これによって右サイドからの攻撃も活性化した感があった。徳島にとっては、この変化への対応も求められる後半ということになるだろう。

 

徐々に盛り返す京都のサイドアタック

 後半も徳島がボールを握る展開で始まる。前半途中から京都がプレス開始位置を下げてきたため、簡単にはライン間へ侵入出来なくなった徳島。それでも、困った時の大外クロス!とばかりに、野村の右サイドからのクロスに対して清武が京都のサイドバックの視野外から飛び込み、決定機を作る。

 京都も、前半に続いて徳島の2トップ脇を起点に前進。石櫃の”偽SB”のポジショニングから右サイドへ展開し、ポジションチェンジを交えながら最後は仙頭のクロスにペナルティエリア内で一美が合わせるも梶川の正面。

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”偽SB”を起点にハーフスペース~サイドを攻略する

 また左サイドでは小屋松が中に入って一美と2トップのようなポジショニングをとったり、ライン間でパスを受けて反転するなど、マークする岸本が混乱に陥れられるようになる。ただでさえ最前線からサイドバックの位置まで、アップダウンの多い岸本にとって、この試合の60~70分あたりの10分間は長く感じられたことだろう。

 64分に中坂を投入した京都に続いて、徳島は71分二枚替え。杉本・藤田を投入して、両サイドを一気にフレッシュな選手に変えてきた。

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 これにより徳島は、両サイドをサイドバックが本職の選手で固める。「特定の選手に過剰な負担がかからない布陣」とでも表現できるだろうか。藤田に期待されたのはもちろん、オーバーラップからのクロスと、対面の小屋松を封じ込めることだ。

 

誰をどうフリーにするか、それが問題だ

 ミドルゾーンあたりで待ち受ける守備の多くなった京都に対して、徳島が多く見せていた攻撃。それは小西と岩尾が近い位置でパス交換を行いながら相手を引き出し、出来たスペースへ縦パスを打ち込む。一度中央を見せることで京都の陣形を中央へ引き寄せ、それからサイドへ展開するパターンだった。

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近い位置でパス交換を行いながら、相手が出てきたら縦パス→サイドの流れ

 渡井の先制ゴールも、岩尾と小西のパス交換から岩尾→杉本のライン間へのパスで安藤・福岡を引きつけ、河田のマークに執心の本多の裏へ渡井が走りこむ形から生まれた。黒木も渡井に付いてきていたが、岩尾のパスの正確性と受け手への優しさ、そして渡井の無駄のないワントラップ→シュートの流れと、時間とスペースが限られるなかで両者の技術の高さが凝縮されたゴールでもあった。そして相手選手を引きつける役割を果たしていた、野村・河田の動きも見逃せない。

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徳島の先制ゴール

 値千金の先制点を奪った徳島は、河田・野村に加えて残体力の多い藤田・杉本を中心にカウンターを繰り出す。88分にはゴールキックを河田が胸で落とし、野村のロビングを受けた杉本が、強烈なミドルを突き刺し追加点。このシーンにおいも、杉本にボールが入ったあと、河田のサイドへ流れる動きによってシュートまでの時間とスペースが与えられることとなった。試合は、京都の反撃をアディショナルタイムの1点に抑えて徳島が逃げ切りに成功。

 


第30節 徳島ヴォルティス vs 京都サンガF.C.

 

雑感

試合後のインタビューでリカルドも言及していたが、この可変システムを継続する以上、岸本には大きな負担がかかる。岸本個人の運動量とタスクの多さという側面からもそうだし、チームとしてもシステムを変形させる時間を稼ぐ必要がある。幸いこの試合においては、京都の前プレがハマらなかった(徳島が上手くいなした)。また攻撃でもミドルシュートを多発してくれたため、トランジションの連続といった展開は少なかった。今後の試合においても、いかにボールを握って自分たちの時間を長くするか。また、ネガティブトランジションの局面をいかに制御できるかが、鍵を握ることになるだろう。