ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.4.7(水) J1リーグ第8節 徳島ヴォルティスvsベガルタ仙台 ~待ってろリカルド~

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スタメン

徳島サブ・GK長谷川、MF小西、藤田譲、浜下、杉森、FW河田

仙台サブ・GK小畑、DF蜂須賀、吉野、MF富田、中原、佐々木、FW皆川

 

 ホームの徳島ヴォルティスは前節・清水戦(A)に3-0で快勝。中2日の移動ゲームだったが、スタメンは動かさず今節に臨む。はずだったが、試合前のウォーミングアップ中、石井にアクシデントが発生。急遽ジエゴが左サイドバックに入り、田向が石井のポジションへ移動。このため、サブも一人少ない状態でのキックオフとなった。

 今季から手倉森新監督を招聘したベガルタ仙台。昨シーズンの長崎戦前後のインタビューにより、徳島サポにとってのヒールと化したTGRM氏。チームは開幕戦の広島に引き分けたあと5連敗中。中3日となる今節は、前節・神戸戦(A)からスタメンを三名変更。シマオ・マテ、マルティノス、富田を休ませ、平岡、上原、加藤を起用。流経大から加入の加藤は、これがリーグ戦初スタメンとなる。

 

大切なのはメリハリ

 互いにミッドウィークの移動ゲームという条件。徳島はいつものように、ボールを保持しながら試合を制御したい。対して仙台は「どこまでやらせてどこからやらせないか」の守備のメリハリが求められる試合だったと思う。

 [4-4-2]で守備をセットする仙台。頻繁にハイプレスを行うことはせず、センターサークル付近からセットディフェンスを行う。徳島対策が分かりやすくピッチ上に現れていたのは、徳島がジエゴを残し岸本を上げる[3-2-4-1]の形をとった時だった。

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ジエゴへ睨みをきかせつつ渡井へのパスコースを消す加藤

 徳島は今年、左サイドバック残しの3バックでビルドアップを行うことが多い。それは吹ヶだろうが田向だろうがジエゴだろうが、人選に関係なくチームの基本形となっている。対して仙台は、加藤が2トップと並ぶような高さまで進出。ジエゴへアプローチできるよう距離を詰めつつ、背後の渡井へのパスコースを消すポジションをとる。ジエゴやボールの前進を防ぐだけでなく、2トップの左右へのスライド回数を減少させ、少しでも体力を温存させたい狙いもあっただろう。

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 一方で真瀬の注意は藤原に向いているため、ジエゴから渡井へ浮き球のパスが通った場合には、渡井→岩尾→渡井の展開で垣田へのスルーパスなど、ライン間を攻略した効果的な攻撃もあった。だが、藤原がいつもほど目立たなかったことを考えても、仙台の守備の狙いは一定の効果を発揮していたように思う。

 

左が駄目ならあの人の出番

 徳島にとってはストロングの一つを消された形だが、このような展開になると威力を発揮するのが福岡の存在だ。運ぶドリブル、グラウンダーのパス、ロングレンジのキックと何でもござれの福岡。右サイドで日に日に存在感を増す岸本。起点を作れ、反転からのシュートもある宮代の関係性。

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右サイドの関係性

 面白い動きだなと感じたのは、徳島のセントラルハーフが仙台一列目の眼前に出現したあと、背後へ消える動きを何度も見せていたことだ。おそらく仙台の一列目を牽制しながら、この動きによって徳島のバックラインに時間を与える。福岡は時間を得たことで、DFラインの裏、MF-DFの間、大外の岸本、たまに垣田の頭と選択肢が幾つもできる。特に仙台の左サイドは、跳ね返す力に長けていると言えない構成。たとえ縦パスを跳ね返されても、ここで徳島が仙台2トップの背後にセントラルハーフを二枚置いている意味が増す。という流れで、セカンドボールにも徳島が先に触れる回数が増えていく。

 上記に加えて、仙台より休養日が一日少ない徳島が、効果的に活用したのがコーナーキックだった。岸本の得点シーンに関して「スカウティングであそこが空くのは分かっていた」とのコメントが徳島側から出ていた。このシーン以外にも「ニアに一人流れてセンターバックを引っ張り出したあと、ストーンを越えるボールに合わせる」パターンで決定機を創出。キーパーから逃げていく弾道のため頼みのスウォヴィクも飛び出せず、岩尾のキックに岸本や福岡が合わせる。スウォヴィクのスーパーセーブや身体を投げ出したクリアに凌がれるが、三度目の正直が実り徳島が先制する。

 

時計の針を進めるために

 仙台はハーフタイムに氣田→蜂須賀。蜂須賀は左サイドバックに入り、石原がサイドハーフへ上がる。

 中二日で一点をリードする徳島は、不用意にオープンな形を作らず時計の針を進めたい。[3-2][2-2][3-1]などビルドアップのパターンを使い分けていた前半と異なり、後半はジエゴを残しながら鈴木徳がサイドバックの位置に落ちる[4-1]のような形でボールを保持していく。

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キーパーを含めると6vs4

 岩尾が2トップの背後に立つことで中締めさせつつ、サイドバック然として振る舞う鈴木徳・ジエゴに時間を与える。たとえ仙台のサイドハーフが出てきても、上福元まで戻してしまえば6vs4の出来上がり。この構図でリスクを抑えつつ、時間が過ぎるのを待つ。

 [4-1-4-1]を選択したことで、前半のようにライン間やハーフスペースを狙った攻撃から、サイドバックサイドハーフと外→外のパス交換が増えていく徳島。サイドでボールを回すとビッグチャンスに繋がるリターンは望めないが、奪われた場合のリスクも小さい。追加点を狙うよりも失点しないことを重要視した変化といえるだろう。

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□のエリアで人が余る徳島

 もう一つの変化は、[4-4-2]でセットする仙台に対して、中央のエリアで人が余ることだった。ゴールが欲しい仙台は2トップを前線に残したい。対して徳島は、2トップの後ろに残る岩尾がボールサイドに寄ることで、仙台のセントラルハーフに対して数的優位をもたらす。「前に残りたい。でも自分たちが戻らないと岩尾を消せない=自分たちの攻撃のターンにならない」と、仙台の2トップに心理的な負荷を与える効果もあったように思う。

 徳島は64分に鈴木徳→藤田譲、宮代→杉森、藤原→浜下と同ポジションの選手同士の交代。とりわけ藤田譲、浜下の投入で、コンディションが厳しいなか走力や球際の戦いで後手を踏まないメンバーを揃えつつ「ボールを狩りに行く」メッセージを打ち出した交代だった。

 

 徳島が重心を下げたこともあって、ボールを保持する時間が増えた仙台。左からのクロスに合わせた加藤のヘッドや吉野のシュートなど、肝を冷やすシーンもあったが徳島が逃げ切りに成功。J1での連勝を3に伸ばした。

 

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雑感

 今回は作図の時間がとれなかったので、ここで仙台の攻撃にも触れていくことにしたい。松下を下ろした[3-1]ビルドアップから、サイドハーフインサイドサイドバックが大外レーンを担当。これに赤崎が列を降りることで数的優位を作り出し、縦パスを収めてサイドへ展開というのが基本パターンだった。特に光ったのが松下・上原のセントラルハーフコンビ。前線がボールを収めたりサイドで時間を作り、彼らが前を向いてボールを持てば質の高い攻撃が繰り出された。まさに、攻守においてチームの心臓という印象だった。

 徳島は厳しい日程とコンディションのなか、貴重な勝ち点3。特に横浜FCや仙台と、自分たちよりも順位が下のクラブに勝ち切った意味は大きい。石井の状態は心配だが、結果を出すなかで上福元が自信を取り戻し、岸本や志龍の成長、田向や杉森の復帰など、明るい話題が続く。

 雰囲気も結果も上向きのなか、次節はいよいよリカルド・ロドリゲスが率いる浦和との対戦。昨年、昇格争いの真っただ中で激震が走ったリカルド退任報道。その時からチームは一貫して、リカルドの存在に頼らなくとも結果を出せるチームになったことを、ピッチで証明してきた。今度は埼玉スタジアムのピッチで、J1の舞台で、それを証明してほしい。徳島のスタイルで、徳島のやり方で、リカルドのチームを倒すだけだ。