ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.9.18(土) J1リーグ第29節 徳島ヴォルティスvs川崎フロンターレ ~ゴール割れども勝点は遠く~

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スタメン

徳島サブ・GK松澤、DFドゥシャン、ジエゴ、MF小西、渡井、藤田譲、FWバケンガ

川崎サブ・GK丹野、MF塚川、小塚、家長、FWダミアン、小林、宮城

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 ホームの徳島ヴォルティスはリーグ戦5連敗、その間5試合連続無得点中。この日は垣田・一美とセンターフォワードを前線に2枚並べ、[4-4-2]でスタートする。川崎からレンタル移籍の宮代は出場不可。右サイドバックの岸本は前節のレッドカードにより出場停止。サブには待ちに待ったバケンガの名。救世主となるか。

 川崎フロンターレは、火曜日に行われたACLラウンド16からスタメンを4名変更。キーパーとディフェンスラインは不変だが、シミッチがメンバー外となりアンカーに橘田、インサイドハーフに旗手と脇坂の並び。3トップは総とっかえで、マルシーニョはJリーグデビュー戦となる。

 

少しでも差を埋めるために

 この試合の構図を端的に表現すると、J1王者の川崎に挑むJ2降格圏の徳島。ただし川崎は、火曜日に韓国でACLを120分戦ったあとの中3日。チームは関東に戻らず、帰国後は大阪のホテルで調整を行ったようだ。中7日の準備期間を経て、ホームで迎え撃つ徳島。川崎との実力差は大きいが、コンディションの差を生かして少しでも勝利の確率を引き上げたい。ではポヤトスはどう考えたか。

 徳島は直近の5試合連続無得点。撃ち合いになると分が悪い。可能な限りリスクを避けて、コンディションの差がより明白になる後半勝負。よって攻撃の切り札となりうる渡井とバケンガはサブから。困ったときのロングボールに備えて、垣田・一美とターゲットを二枚用意する。そしてもう一つは、ボール保持時に中央からの前進は避けて、サイドバックをボールの逃しどころにすることだった。

 

 川崎の序盤のプレッシングは[4-3-3]の形を維持したまま行われた。ACLの[家長・ダミアン・小林悠]の並びから、3枚全てを取り替えた意欲と体力に満ちた面々。遠野・マルシーニョの両翼も、積極的にセンターバックまで追いかける。徳島はキーパーを上福元に戻したこともあり、キーパーを活用しながら両サイドバックタッチライン際へ開き、川崎のウイングの頭上を通過するパスでサイドバックへボールを届けていく。

 加えて効果的だったのが、一美の列を降りる動きだった。福岡へ届けられたパスをハーフスペースで受ける一美。岩尾へ落としてから展開。一美に山根が付いてきた場合には、その裏でジェジエウと1on1になる西谷。サイドバック以外の選手が捕まっている場合にはセンターバック(キーパー)まで戻して、攻撃をやり直す。

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序盤のかみ合わせ

 前線にストライカータイプの選手を二人並べたことで、一人が列を降りて中盤の選手と競る、サイドへ流れてサイドバックと競るなど、フィジカルの優位性を生かして起点を作るプレーが増える。シュートは枠外へ飛んだが、16分過ぎの一美の決定機はこの試合の徳島の狙いが凝縮された攻撃だったように思う。ウイングの裏、アンカーを動かす、一人が囮になりもう一人が空いたスペースへ飛び込んでくる2トップの関係性。

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 この試合の序盤は徳島の狙いがハマり、西谷の幻のゴールも含めて押し気味に試合を進める。

川崎の変化と効果

 20分前後あたりから、徐々に本来の姿を取り戻しつつあった川崎。この試合はシミッチを温存したことで、中盤から後ろで左利きの選手は登里だけという状況。よって正対した状態で徳島の圧力を受けてしまうと左サイドに展開しづらいという問題があったと思う。垣田のプレッシャーを受けたソンリョンが左足でフィードを蹴ったが、読んでいた藤田と浜下に回収されて、西谷の幻ゴールに繋がったシーンなどはその典型だろう。

 時間の経過と共に試合が膠着の色を強めていくと、川崎の選手たちの正確なキック、狭いスペースでのパス交換、ターンからのシュートなど、技術が目立つプレーが増えてくる。非保持時にも、ウイングをインサイドハーフと同じ列まで下げて[4-1-4-1]でセットしてから旗手を押し出す[4-4-2]へ変更してきた。鬼木監督の頭の中にも「徳島のビルドアップが普段と少し違うな」との考えもあっただろう。「簡単にサイドバックをフリーにさせないよ」という意思表示だ。

 これによって徳島は、福岡→一美のパスラインを遠野に消される。徳島のフリーになる選手を消すことでボールを奪い、素早く攻撃に転じる川崎。反転やカットインから積極的にゴールを狙う遠野、スピードに乗ったドリブルでDFを翻弄するマルシーニョと個の質が輝き始める。

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 三笘、田中が抜けてレギュラーが入れ替わっても川崎の攻撃の基本的な構図は不変で、連携で崩していく右サイド、ドリブラーとそれを後方や内側で支える登里の左サイド。この日がJリーグデビュー戦となったマルシーニョは、まるでテスラ社の電気自動車のごとく素早い加速を見せ、徳島の守備網を切り裂いてPKを獲得。知念が決めて川崎が34分に先制。徳島は岩尾のフィードを受けた一美が、最初のタッチでジェジエウを躱すとペナルティエリア外から豪快に右足を振りぬき4分後に同点。さらにその4分後、またも川崎。中央の細かいパス交換から脇坂が素早い足の振りでコントロールショットを沈めて2-1。

 6試合ぶりのゴールに加えて、内容も悪くなかった徳島だったが1点のビハインドで試合を折り返す。

 

痛かった3点目

 個人的には「後半開始からバケンガ投入もあるかもな」と感じていた。1点差ならば試合の行方は分からない。川崎もある程度は前がかりにくるだろう。バケンガが「本物」だとしても、よりゴールに近づけそうなのはスコアが均衡している状況ではないか。だがその思惑は外れ、前半と同じ22人が後半のピッチに現れた。

 後半も徳島のボール保持に対して、旗手を押し出した[4-4-2]気味にプレッシングをかける川崎。徳島にとって厄介だったのは攻→守へと切り替わった時に、列を上げた旗手が前残りになりボールを収めて捌かれることだった。この日1トップに入った知念が、幅広く動いてボールを引き出すタイプだったこともあり、知念が空けたスペースへ顔を出す旗手。旗手がボールを収めると、前向きのランニングで徳島の最終ラインをアタックする知念と両ウイング。そこへパスを供給する旗手。このような関係性で、少ない人数でも決定機やその一歩手前まで辿り着いてしまう。そして後半7分、右コーナーキックから石井のマークを振り切った知念が頭で合わせて3-1。

 

「本物」感の漂うバケンガ

 流れを変えたい徳島は62分に垣田に代えてバケンガを投入。2点リードの川崎は68分に遠野・脇坂に代えて家長・塚川と、試合を「閉じる」意図の見えるカードを切る。徳島はどうしても知念・旗手と攻撃の起点を潰しきれず、最終ラインだけでは川崎の攻撃を断ち切ることができない。ボールをキープされる間に全体がズルズルと下がってしまい、前半のように高い位置で奪って攻撃へ繋げる回数は減っていった。

 一方でバケンガは、サポートが少ない中でも果敢に川崎の最終ライン相手に仕掛け、ジェジエウを躱してシュートまで到達する。投入後の数プレーで「本物」の匂いを感じ取ったであろうバケンガの位置取りを、こまめに確認しながらラインコントロールを行う川崎のディフェンス陣。

 

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 特にバケンガと周囲が輝いたのが、渡井と小西が投入された74分以降だろう。小西、岩尾、藤田譲といった選手が、バランスをとりながら流動的に動き、列を降りる動きとバケンガの裏狙いによってスペースを得られる選手が出てくる。右サイドから鋭いフィードを突き刺す小西と、ゴール前へ顔を出す徳島のセントラルハーフ。2点差でも諦めずにゴールへ迫った徳島だったが、ラインを割ることはできず。3-1で川崎の勝利。

 

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雑感

 垣田・一美の2トップ、バケンガのプレーと周囲の選手の絡み方など、見どころも多かった試合。一方でリスク管理も兼ねてサイドからボールを前進させても、川崎がそこへ蓋をしてくると効果的な手立ては見つけられず、逆に中央で簡単に起点を作られて展開されるなど、彼我の差を感じさせられたのも確かだろう。旗手・マルシーニョと、好パフォーマンスを見せていた2人がいずれも負傷で退いたのは川崎の今後の懸念点だろうか。

 徳島は運も無かった。岸本が出停の右サイドに未知の存在マルシーニョ。VARによって取り消された幻の先制ゴール。バケンガがジェジエウに脚を引っかけられて倒された際どいシーン。良い立ち上がりを見せただけに、先に一点とれていれば…との思いもある。

 バケンガはタッチ数は限られていたものの、仕掛けからのシュート、裏抜けやクロスへ入っていく動きの鋭さなどモノの違いは十分に感じられた。本来攻撃のバリエーションというのは、裏を使うからライン間が空く、中央を使うからサイドが空く(その逆も然り)と、相関関係にあるものだと思う。相手がバケンガを意識すればするほど、徳島の攻撃は幅もライン間も使いやすくなる。あとは、誰がどのような形でシュートへ辿り着くか。このあたりは今後の擦り合わせが必要な部分だろうか。泣いても笑っても残り9試合。諦めるにはまだ早い。