ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2019明治安田生命J2リーグ第36節 徳島ヴォルティスvsファジアーノ岡山 ~風だけではない勝因~

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徳島サブ・GK永井、DF内田航、MF狩野、清武、表原、FW岸本、押谷

岡山サブ・GK金山、DFチェ、椋原、MF三村、武田、FW赤嶺、福元

 

 前節、栃木を相手に苦戦を強いられたものの、岩尾のゴールで何とかドローに持ち込んだ徳島。下位チーム相手に痛い取りこぼしだったものの、連続無敗試合は8に伸びた。この試合では小西と野村が出場停止から復帰し、サブも含めて現時点でのベストメンバーで、目の上のたんこぶ・岡山戦に臨む。

  対戦相手の岡山も6試合連続無敗中と好調。覚醒した!と噂の仲間・イヨンジェといった既存戦力に、シーズン開幕後に獲得した中野、増谷も加え、戦力の充実を感じさせるスカッド。「PRIDE OF 中四国」ということもあり、アウェイにも多くのサポーターが駆けつけた。

 

 

荒ぶる風と岡山のプレッシング

  強い風が吹き荒れていたこの日のポカリスエットスタジアムコイントスによってエンドが変更され、追い風の岡山、向かい風の徳島という構図で試合がスタートする。背後からは風の援護を受け、眼前にはゴールと、アウェイに駆けつけた大応援団を望む岡山の選手たち。昂ぶる感情を抑えきれないかのように、積極的に高い位置からプレッシングを行う。2トップが二度追いで梶川まで追いかけていくのは日常茶飯事。さらに[4-4-2]のチームとしての鉄則を守り、2トップが中を切りながらボールをサイドへ誘導。SH、SB、DHの選手が連動し、徳島の選手をマンマークで捕まえる形へ変化する。

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サイドへボールが出るとマンマークで捕まえにいく岡山

 特に、攻撃のキーマンとなる仲間を速攻で生かすべく、石井へボールが出ると仲間が勢いよく距離を詰める。試合開始早々の5分、徳島のバックパスを梶川まで追いかけた中野の執念が実り、中途半端なキックを誘う。喜山が中盤でパスカットすると縦へ繋ぎ、岩尾を背負いながら関戸が粘る。この流れから、小西・岩尾の背後をとった仲間がカットインから石井を置き去りにし右足を振りぬく。バイスの足下を抜けたボールは、梶川の指先をすり抜けゴールネットに吸い込まれ、岡山が先制。

 向かい風、早い時間での失点と、二重苦を背負うことになった徳島。だが徐々に落ち着きを取り戻し、流れを手繰り寄せていく。岡山がハイプレスに出てくる習性を逆手に、内田のロングフィード、岩尾のクイックリスタートで、ともに河田が立て続けにDFラインの裏を突き決定機を迎える。

 

ボール保持のときこそリアクション

  ちなみにこの試合の前半は、4バックの岡山に対して[5-3-2]で対峙する徳島、3バックの徳島に対して[4-4-2]で対峙する岡山という、互いのミスマッチをどう生かすかに要点があった。つまり、岡山のSBがボールを保持したときの徳島の対応。徳島の左右のCBがボールを保持したときの岡山の対応。そして互いの狙いが明確に現れた、見応えある前半でもあったと思う。

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 徳島のポゼッション時によく見られた構図は、上のような形である。内田裕が2トップの脇から持ち出したとき、大外に位置する杉本、SHとDHの間(ハーフスペース)に立つ渡井という関係性で、岡山に幾つかの選択肢を突きつける。以下、岡山がとった選択と徳島のリアクションについて見ていきたい。

  

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 関戸が内田裕、喜山が岩尾、上田が小西と、本来のマッチアップを遵守すると、渡井にライン間で前を向かれることになる。

 

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 では渡井を自由にさせないよう、岡山が対峙する徳島の選手を順番に捕まえていった場合。つまり関戸-内田裕、渡井-喜山、岩尾-上田というマッチアップが発生するが、今度は逆サイドの小西が空く。小西が持ち上がれば、仲間を低い位置に押し込んで、カウンターの威力を半減させることにも繋がる。

 

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 そして関戸が内田裕のドリブルを無理に詰めず、ステイを選択した場合。あるいは内田への対応が遅れた場合。このときには杉本が引く動きで増谷をつり出し、入れ替わるようにSB-CB間へ走りこむ渡井という関係が成立する。このように徳島の攻撃は主に左サイドを中心に展開されていく。

 

戦術兵器にも囮にもなる仲間 

 対する岡山。こちらは徳島が前プレを仕掛けてくると、シンプルなロングボールを利用して陣地を回復。空中戦ならイヨンジェ。裏抜けなら左に流れる中野を狙う。また、早い時間に先制したこともあり、被カウンターを避けたいという思惑もあっただろう。ショートパスはサイドへの展開を中心に、クロスからチャンスを創出する。サイドを変えながら、[5-3-2]でセットする徳島の3の脇が攻略順位の1番目。

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右→左の展開で徳島の[3]の脇で仲間が前を向く

 

 また徳島が、上田や喜山を経由しての最短でのサイドチェンジを警戒してきた場合には、CBまで戻して攻撃をやり直す。この場合には、SHとSBがポジションを入れ替えるような動きで、徳島のDFに一つずつズレを作っていき、サイドからのクロスを狙う。いずれのパターンでも、攻略の起点となるのは仲間・廣木に、中野や上田も流れてくる左サイドが中心。左からのクロスにヨンジェが合わせる。左からのクロスを大外で増谷が折り返す。追加点の可能性を感じさせる攻撃もあった。

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得点を生んだ左と失点を防いだ右

 序盤は追い風に乗って攻め込んだ岡山、苦しい時間を一失点で凌ぎ、ボールを握りながら徐々に押し返した徳島という様相だった前半。風向きが変わる後半は、前半以上に期待できそうだね!という徳島サポの大方の予想が早速的中。運ぶドリブルでイヨンジェを振り切り、岡山の二列目を引きつけた内田裕から、ライン間で待つ河田へパス。河田→野村→杉本と左サイドの裏を突いた徳島。杉本のクロスに河田が頭で合わせ、開始二分足らずで同点に追いつく。

 ボールを持つと必ずと言っていいほどドリブルを仕掛け、岡山の一列目を突破、最低でも引き付けてリリースを繰り返す内田裕。追加点もこちらサイドのビルドアップから生まれた。だが岡山の攻撃を封じる上では、より重要だったのは右サイド(岡山の左サイド)にボールが渡ったときである。もし奪われても、仲間にボールを入れさせない、あるいは孤立させたり低い位置に押し込む陣形が重要になる。

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 主に左から攻撃をスタートするため、アイソレーション気味に大外で待つ藤田。彼にボールが渡ると、スライドする岡山の守備陣系を縦貫するように渡井がハーフスペースへ突撃する。4バックの岡山は2CBをゴール前から動かしたくない。なので、喜山・仲間のいずれが対応するにせよ、二列目が押し下げられることになる。さらに、被カウンターに備えて然るべき位置に立つ小西。

 向かい風のため、ロングボールを使えずに苦しむ岡山。特にDFラインの裏へアタックする攻撃は殆ど見られなくなった。そして上述のようにMF-DFが押し下げられ、FWは孤立し陣地回復が難しくなっていった。ビルドアップの面でいえば、濱田の負傷退場も影響したかもしれない。

 

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 さらに追い討ちをかけるかのように、徳島は渡井が上田を監視するようになる。岡山のビルドアップといえばこの人の左足!に自由を与えない事で、大きな展開や効果的な縦パスを封じる。サイドから中に入ってきてボールを受けようとする仲間に対しても、岩尾と小西がフィルターとなり、反撃を試みる岡山の攻撃をシャットアウトした。

 

 

雑感

 徳島にとっては最悪の相性と言える相手にも、普段通りのサッカーを貫き、いつものように後半に逆転した。岡山は立て続けに負傷者が出たことで、カードの切り方や戦術の幅に影響があったとは思うが、特に後半の内容としては徳島の完勝に近かった。ハイプレスから高い位置でボールを奪いたい岡山に対して、幅と深さを使ったビルドアップ。特に左サイドは、内田裕のドリブルから始まり、大外→インサイド→大外とレーンを斜めに貫きながらパスを繋ぎ、岡山の守備陣を翻弄した。チームの完成度の高さを感じさせるのは、この手のサッカーにありがちな、つまらないミスでボールを失い縦パス一本でチャンスを作られる、といったシーンが非常に少ないことである。それは、攻守いずれの局面においても、選手の立ち位置が素晴らしいことの証明に他ならないように思える。