2019明治安田生命J2リーグ第29節 徳島ヴォルティスvsFC琉球 ~生まれ変わった要因を探っていく~
徳島サブ・GK松澤、DF田向、MF杉本、表原、鈴木徳、島屋、FW押谷
琉球サブ・GK石井、DF徳元、福井、MF小野、小松、河合、FW上原
徳島交代・79分 清武→杉本、85分 渡井→島屋、85分 河田→押谷
琉球交代・62分 風間希→小野、65分 ハモン→河合、78分 風間矢→上原
徳島ヴォルティスは、連敗脱出となった前節・福岡戦からスタメンの変更はなし。杉本が累積警告による出場停止から復帰したが、WBは引き続き、岸本・清武の組み合わせとなった。
昇格組のFC琉球は激動のシーズンを送っている。ポゼッションサッカーで旋風を巻き起こした序盤戦も束の間、中川風希・朴一圭と立て続けに主力を引き抜かれ、夏のマーケットではエースストライカーの鈴木孝司も失った。魅力的なサッカーを展開したチームの主力は容赦なくぶっこ抜かれるという、DAZN時代の洗礼を受けることとなった。ちなみに、わずか半年と少しの間に主力を6人引き抜かれたチームもあるので、気を強く持ってほしい。
琉球の守備の狙い
J2で多くのチームが見せている、あるいは見せていた、3バックでスタートし守備時には5-4-1⇔5-2-3へと変換するシステムではなく、4-5-1で守備をセットする琉球。狙いは3CHで最も危険なエリアを封鎖しつつ、サイドへ出たボールに対してはスライドしながらアプローチを仕掛ける。当然ながら、一番人数を割いている2列目の選手たちの役割が最重要となるわけだが、徳島は45分間この琉球の守備に手を焼くこととなる。
前半の徳島は琉球の素早いスライドと、ライン間へのパスに対する2列目のプレスバックに苦戦。困った時のバイスのロングフィード!は健在だったが、逆に言えば攻め筋はロングフィードを受けた清武・岸本のクロスぐらいしか無かった。
琉球の攻め筋を見ていこう
攻めあぐねる徳島に対して、琉球の攻撃は流動的で美しいものだった。夏のマーケットで鈴木孝司というストライカーが流出し、1トップに入る上門の身長は166センチ。2列目にも高さのある選手はいない。このため、彼らが立ち上がりから繰り返し狙っていたパターンは、サイドを深く抉ってからのマイナスのクロスだった。
ではどうやってサイド深くまでボールを届けるか?まず徳島の5-3-2に対して、上里もしくはカルバハルを含めることでビルドアップで数的優位を作る。運ぶドリブルは多用しないけれど、代わりにポジションチェンジを多用する。これはビルドアップでも崩しの局面でも共通していて、ある選手がポジションを移動する→空いたスペースに代わりの選手が移る、といった動きを、連続的に繰り返すことにより徳島の守備を混乱させていく。
特に見事だったのは左サイドからのアタックで、風貌からも「生え抜きのベテラン?」と思わせるほどの貫禄と戦術理解度の高さを見せていた鳥養、レーンが被らないように細かいポジショニングをする富所、裏狙いも引いて受ける動きもできる上門へ効果的な縦パスが入る。琉球の司令塔・上里が左利きであるためこちらのサイドへ流れてくることも多く、ポジションチェンジを繰り返す前線へパスが供給されていく。
また、守備時には5-3-2でセットするため、両サイドに1人ずつしか配置されていない徳島にとって、サイドの低い位置にポジションをとる選手を誰が捕まえるか?は、前半を通しての課題だった。ファーストディフェンダーが定まらないので、後続の選手の守備も後手後手に回ってしまう。右HVの石井が、富所、上門、鳥養と、異なる選手に対するチャージであわや二枚目のイエローカードとなりかけたことが象徴的。琉球のポジションチェンジに対して、取りどころが定まらない徳島だった。
サイド深くへ侵入する事で徐々に徳島の陣形を押し下げ、それによってライン間への楔のパスが増えていった琉球。35分、ここまで出色の出来だった上里から楔のパスを受けた上門が、ミドルシュートを梶川の頭上へ突き刺し、琉球のリードで試合は折り返す。
リカ将の修正と狙い
後半開始。両チーム選手交代は無かったものの、徳島は4-2-3-1へと変更。一見すると選手の並びが大きく変わったわけではないが、約束事の明確な変化は幾つかあったように思う。
①後方でのボール回しは、可能な限り2CB+α(最小人数)で行う。
②ビルドアップは左サイド(内田裕)からの展開を基本とし、その際には渡井も同サイドに流れて間受けやチャンネルラン(琉球のSB-CB間への走りこみ)を狙う。
③両SHのプレッシングは琉球SBを基準点とし、撤退時にはSBの外まで戻ることで、琉球にサイドで数的優位を作らせない
①と②に関しては、CBが開いてパス交換を行うことで上門の監視から逃れる。距離と深さを確保する事で、琉球の2列目が簡単にアプローチできない状態にして、クリーンなパス出しを行う。
また、内田裕がハモンの背後をとり、清武がライン間へ入っていくことで、琉球の守備陣、特にSHとSBに対して過負荷の状況を押し付ける。ハモンは背後の清武が気になるので中を締めたい。でも内田裕が空いてしまう。西岡が大外で対応しようとするとSB-CB間が空くこととなり、清武や渡井に対してチャンネルを空けてしまうことになる。あるいはバイスがハーフスペースからドリブルで持ち運ぶことで、琉球のMF-DF間を間延びさせ、清武のカットインからライン間を横断する攻撃を見せる。
守備に関しても、河田・野村がコースを限定したうえで、サイドで低い位置をとる琉球の選手に対してはSHがアプローチする。前線の守備の基準点が明確になることで、後続も連動したプレッシングが可能になる。前半は苦しめられた琉球のポジションチェンジに対して、各々が責任の所在を明確にしながら密着することで解決を図った。
微修正により、高い位置からのプレッシングとサイドからの攻略で攻守にリズムを取り戻した徳島は、後半怒涛のゴールラッシュ。CKとFKから2点ずつ、PKで1点。困った時には河田が中央で起点となり続けてくれたことも大きかったか。いつもの対戦相手のお株を奪うかのように、セットプレーがことごとく火を噴き、最終的には6-1で大勝した。
雑感
後半の大量得点によってお祭り騒ぎとなったが、前半だけで琉球にもう1~2点入ってもおかしくない試合内容。もう少し決定力の高い相手だったなら、前半で試合の大勢が決しかけていたことは、大きな課題として残った。
相手が思わぬシステムで試合に入ってきたとき、もう少し早い時間帯に修正を施すことができればベストであるように思う。あるいは、それを助言できるコーチや分析官が必要なのかもしれないが、クラブの規模的にも出来ることと不可能なことがある。というのが現実なのかもしれない。