ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2018明治安田生命J2リーグ第38節 東京ヴェルディvs徳島ヴォルティス ~因縁の相手に突きつけられた現実~

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東京Vサブ・GK柴崎、DF田村、MF李、渡辺、梶川、FWドウグラスヴィエイラ、林

徳島サブ・GK松澤、DF藤原広、大屋、MF内田裕、藤原志、FW佐藤、ウタカ

東京Vvs徳島の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年10月21日):Jリーグ.jp

 

 スペイン人の名将・ロティーナの下、今年も安定した戦いを続けるヴェルディ。失点36は松本に次いでリーグ二番目の数字。Wアンザイを引き抜かれた影響で苦しんでいた時期もあったが、泉澤、レアンドロと夏のマーケットで的確な補強を行った。順位は7位だが、4位の福岡とも勝点差はわずか1であり、十分に昇格プレーオフ進出が狙える状況。レアンドロは移籍後初スタメンとなる。

 

 まさかの三連敗を喫した徳島。この間の停滞で4~7位グループとは勝点差を9も離されてしまった。厳しすぎる状況ではあるが、一縷の望みを繋ぐためには勝点3がマストな試合。杉本太、バラル、石井とスタメンを三名入れ替え。昨年の最終節で屈辱を味わったスタジアムで、チームとしての意地と成長を見せたい試合でもあった。

 

 

ヴェルディの完成度とリカルドの対策

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 徳島が慣れ親しんだ5-3-2ではなく4-5-1でこの試合に臨んだ理由は、試合開始から程無くして明らかになる。SBも低い位置に留まり、その上で大きく開く。これに両CBと内田・井上を加えた6人でビルドアップを開始するヴェルディに対して、徳島は杉本太・表原の両SHがヴェルディのSBを監視。CB間のパス交換に対しては、井林にボールが入るタイミングで、前川が列を上げてアプローチに出る。そして泉澤にはシシーニョ、アランには井筒と、ヴェルディサイドアタッカーにもSBを用意して自由を与えない。もっとも「ヴェルディが4-3-3でこの試合に臨んでくる」という予想の確度は定かではなく、単に「ヴェルディのストロングポイント(泉澤・アラン)に自由を与えない」との側面が大きかったのかもしれない。

 

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 ヴェルディが最初に見せた変化は佐藤のポジショニングだった。佐藤が、時には杉本太の裏に顔を出し、時にはサイドラインを踏んでシシーニョにマークされている泉澤との間にパスコースを作り出すなど、変幻自在な動きで徳島の守備の基準点を曖昧にさせていく。キムの迎撃やDFラインのスライドなどで何とか対応していた徳島だったが、ヴェルディの執拗な左サイドアタックに小西も加勢せざるを得なくなっていく。これにより岩尾は内田、前川は井上を見る形となり、ヴェルディは左サイドだけでなく井林も空く。ヴェルディの攻撃を制御しきれなくなった徳島は、自然と重心が下がっていくことになる。

 

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 「特定のサイドに選手を集合させることにより、ネガティブトランジション時にもプレスをかけやすくなる」。これはポジショナルプレーにおけるメリットの一つだと思うが、ヴェルディの左サイドアタックにはもう一つ見逃せない点がある。シシーニョの右SB起用は、泉澤対策として守備力を考慮したものだったとともに、ヴェルディのプレッシングに対してサイドに逃げ道を確保したいとの狙いもあっただろう。事実、徳島のDFがボールを奪うとシシーニョに預けたがるシーンは多かった。

 だが、シシーニョにも泉澤が寄せてくる。自らのバックパスのミスからヴェルディに先制点を許していたシシーニョは、前への選択肢を探すも、岩尾、小西、前川は相手選手に捕まっている。杉本太へのパスは、身体の向きや視線でパスコースを感知した内田にカットされる。プレッシング時にはマンマークで人を捕まえパスコースを限定させた上で、守備力の高い内田のところでボールを奪い返すのも、立ち上がりのヴェルディに多く見られた形だった。

 

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 逆サイドに目を転じると、こちらはアラン・ピニェイロの働きが目立った。徳島がこちらのサイドからビルドアップを行うとき、アランはまずSB-CB間のコースを切りながらアプローチする(カバーシャドウ)ことによって中央へとボールを誘導。レアンドロのプレスバックと、内田・井上のポジショニングで中央を封鎖し、徳島のパスを刈り取る。押し込まれる徳島は、表原の推進力を生かして陣地回復を図りたいところだったが、ヴェルディの完成度の高い守備の前に、なかなかボールを前進させることが出来ずにいた。

 

 なお、勝敗を大きく左右することになったシシーニョのSB起用については、一言添えておかなければならないだろう。リカルドは、コンディションが万全ではなかった(ミスをかばってそう発言しただけかもしれないが)ことを試合後に語っていた。ただ失点に繋がったミス以外にも、スローインで度々怪しい動きを見せるなど不慣れな様子は明らかで、この大一番でシシーニョをSBで起用せざるを得ないチーム状況そのものがマズイ。結局、夏のマーケットで大本を抜かれ、頼みの綱だった広瀬も怪我を再発と、懸念していたSBの駒不足が露呈することになった。

 

「ポジショニングおじさん」の本領

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 13:30ごろ、DAZN中継でもリカルドが身振り手振りを交えて選手に指示を与えている様子が映し出される。これを合図に徳島は3バックへシステムを変更。シシーニョは本来のポジションである中盤の底に移り、小西が右WBへ入る。

 

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 ヴェルディの守備は4-1-4-1でセットした状態から、サイドへボールが出るとSHが寄せる。CB間でのパス交換に対するプレッシングは、IHが列を上げる4-4-2への変換で行われていた。徳島が4バック時には守備対象が定まっていたヴェルディだが、3バックへ変更すると怪しさが見え始める。石井の周辺はレアンドロが警戒する、井筒が持つとアランが寄せる。ここまでの流れは同じだが、佐藤がキムに繰り返しアプローチするのは、なかなかの重労働である。おまけにアランほど若くはないレアンドロ。よって石井がドリブルで持ち上がったり、CB間でのパス交換によってフリーになったキムから、ライン間で活動する前川や杉本太へのパスが通り始めるようになる。徳島は守備でも、ヴェルディの4バックに対して前線の三人でコースを制限し、余ったサイドのSB(主に奈良輪)にはWB(表原)がポジションを上げて対応。ライン間へ下がってくる選手には5バックからの迎撃で対応する解決策を見出し、ペースを手繰り寄せていく。

 

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 シシーニョの負傷交代による内田裕の投入以降、左サイド偏重が顕著になっていく徳島。3バックでありながら、まるでSBのように振る舞う井筒と縦のラインを形成し、ヴェルディのブロック守備を横方向へ広げていく。ハーフスペースの入り口に陣取る岩尾を中心にボールを循環させ、守備ブロックを広げる選手、ゾーンの隙間で受ける選手、裏を狙う選手とタスクを分担しながらヴェルディ陣地へ攻め入っていく。

 65分に徳島は、表原が二人に囲まれながらも粘って右サイドを突破。グラウンダーでマイナス方向へ折り返すと、バラルが冷静にゴールへ流し込んで追いつく。この同点弾と前後して、ヴェルディは61分にレアンドロドウグラスヴィエイラ、徳島は69分に前川→ピーター・ウタカとそれぞれ攻撃の切り札を投入する。

 

肉を切らせて骨を断てなかった代償

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 昇格プレーオフに僅かな望みを繋ぐためには勝点3が必須の徳島。このため止むを無い選択だったとはいえ、ウタカとバラルの併用によってヴェルディのSBからのビルドアップが息を吹き返していく。SBが低い位置でボールを保持したとき、しかもWBが縦スライドできる大外レーンではなく1つ内側のレーンでボールを持ったとき、どうすんねんという問題。逆に守備時にも前線に3枚残すことによって、ボールを奪うと3枚+両WBの押し上げで、ヴェルディの4バックに対してポジショナルな攻撃を仕掛ける。

 ヴェルディも1トップに続いて、運動量の要求されるIHに渡辺と李を投入。細かくパスを繋ぎながらライン間の攻略に執念を見せる徳島と、ドウグラス、アランに加えて時には李も前線に上げ、よりシンプルに前線のタレントやスペースを使おうとするヴェルディアディショナルタイム、徳島の左サイドから小西が上げたクロスは上福元がキャッチ。上福元はロングスローで素早く逆サイドへ展開。徳島はこちらの守備を担当する表原、藤原志が共にゴール前へと詰めており、フリーになった泉澤がタッチライン際を爆走。藤原志が懸命に戻るも泉澤のクロスにあと一歩届かず、ファーサイドで李が井筒の頭上からヘディングを叩き込み勝負あり。徳島にとっては二年連続、同じスタジアムで同じ相手に、事実上の引導を渡される形になった。

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雑感

 徳島はシーズン序盤の出遅れを取り戻すべく怒涛の巻き返しを見せていたが、ここにきてまさかの四連敗。コンパクトな4-4-2から、インテンシティの高さと速攻にやられた町田・金沢戦。セットプレーからの一発と、ロングカウンターに手を焼いた京都戦。そして去年の悪夢を想起させるかのような展開となったこの試合。

 ヴェルディ戦は、前線からのプレッシング、デザインされたビルドアップからのポジショナルな攻撃と、リカルドが積み上げてきた長所が多く見られた。この選手たちだからこそ、このサッカーが出来る。編成も含めたチーム力の高さを顕示したのは確かだろう。一方で、広瀬の離脱によるサイドバックの不在、バラル・ウタカ頼みだった得点力、高さ不足のCBとシーズンを通しての課題も一気に露呈されることになった。

 善戦はしたが弱点を誤魔化しきれなかったという重い現実。すべてが終わったあと、リカルドはどのような思いでピッチを眺めていたのだろうか。