ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2018明治安田生命J2リーグ第32節 徳島ヴォルティスvs栃木SC ~相手を見てサッカーをするということ~

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徳島サブ・GK吉丸、DFキム、MFシシーニョ、狩野、内田裕、藤原志、FW杉本太

栃木サブ・GK石川、DF菅、MF西澤、二川、西谷優、端山、FWアレックス

徳島vs栃木の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年9月8日):Jリーグ.jp

 

 徳島ヴォルティスは、快勝した讃岐戦(A)からスタメンを二名変更。負傷離脱の広瀬に替わって杉本竜が入り、表原が右WB、杉本竜は左WBへ。またシシーニョ→ウタカの変更で、ウタカとバラルの2トップ、前川は中盤三枚の左でスタート。

 今季から戦いの場を再びJ2へと移した栃木SCは、ここまで13位。特に後半戦となる22節以降は6勝3分1敗と好調。前節、岡山に敗れるまで約二ヶ月のあいだ黒星が無かった。この二ヶ月間、9試合中7試合がクリーンシートという派手さは無いが手堅く勝点を積み上げてきたチームである。

 

 

手堅さの源と弱点

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 栃木の戦い方は立ち上がりから明確だった。守備時には大黒を最前線に残して「5-4-1」でブロックをセット。攻撃時にはボランチのヘニキが大黒のサポートのために前線に上がり、岡崎は中盤にステイしてビルドアップに参加。 ヘニキが攻撃に加わる右サイドは浜下がサイドに開くなどポジションを移しながら、川田との関係でサイドを突破。ヘニキはロングボールの的としての役割も担い、その場合は大黒と浜下が斜め後方にポジショニングして裏抜けを狙う。左は夛田がアイソレーション気味に開いた位置からスタートし、空いたスペースにはシャドウの西谷が降りてきてボールを引き出したり、左CBの福岡がボールを運びながら前進していく。

 栃木としてはヘニキの移動と、右サイドに人数をかけることによる中盤の守備圧力の低下。さらに大黒にはファーストディフェンダーとして多くを期待できない事情もあってか、積極的にミドルシュートを放ち攻撃を完結させる。シュートが枠に飛ばなくとも、徳島の選手に当たってコースが変わるなどすれば、コーナーキックを獲得できる。「フィジカルで全てを解決しそうな感は異常」なヘニキとパウロンを最大限生かすには、セットプレーも大切にしたいところだ。

 

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 対して徳島の攻撃は、栃木の左CB・福岡を徹底的に狙い撃ちすることから始まった。ゴールキックフリーキックなど、長い距離のキックはウタカと福岡をバトルさせる。特にゴールキックは、栃木の前線が同数でハメに来る姿勢を見せていたことや、雨が降りしきるなかアクシデントでの失点を避けたい(足を滑らせてボールを奪われるなど)との思惑もあったはずだ。いつになく長いボールが目立っていた。また、栃木のCB陣を見てみると右のパウロンが192cm、センターの服部も188cmあるのに比べると、福岡は180cm。それほど身体能力が高そうなタイプにも見えない。ここならロングボールでもマイボールにできるという分析だったのだろう。実際にウタカはかなりの確率で福岡に勝利していた。

 また先に見たように、栃木の攻撃は、右サイドにおけるパターンが比較的明確な一方で、左は夛田の1on1や福岡のオーバーラップなど個の力に頼ったものが多い。単にウタカにロングボールを送って陣地を回復するだけでなく、表原がウタカからの落としを狙って縦や斜めにランニングすることにより夛田を低い位置へと押し込むことが出来る。栃木の左からの攻撃を機能不全にしたい、との狙いもあったのではないだろうか。

 

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 また栃木のように5-4-1でセットするチームは、中盤から後ろの守備においては人数がかけやすい一方で、ビルドアップに対するファーストディフェンスが課題となるだろう。最前線に残るのが大黒という点を差し引いても、1人で出来ることには限界があり「2ライン守備」になりやすい。一方で人数が余っているぶん、自分たちのブロック内に入ってきたボールや人に対しては強く対応する守備が求められる。

 

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 栃木の選手はボールを失うと「まずポジションに戻る」という意識が強く、素早いブロック形成が手堅い試合結果に繋がっているのだろう。これはピッチ上の現象からも感じ取ることが出来た。だが徳島のポジションチェンジや斜めのランニングに対しては、対応が緩くなってしまう場面も散見された。例として徳島の先制点に繋がったシーンでは、徳島のポジティブトランジション→ポゼッションとフェーズが移行していく間に持ち場へ帰っていく栃木の選手たち。パスを捌いた前川が列を上がる動きを見せると、右シャドウの浜下が一度は最終ラインまで下がり前川に付いていく。だが徳島が後方でゆっくりボールを回し始めたのを確認すると、浜下と川田が再びポジションを入れ替える。それぞれがオリジナルポジションに戻る隙に、杉本竜に対する対応が緩くなり、オープンな状態でディフェンスラインの背後へボールを送られてしまった。

 このシーンは最終的に、足を滑らせボールの落下点での処理を誤った服部の対応もいただけないが、サイドに人数をかけているにも関わらず簡単に精度の高いボールを蹴らせてしまったことも大きい。このマークの受け渡しの不備は逆サイドでも似たようなシーンがあり、DFの背後への対応も含めて、人数をかけて守るなら整理しておきたい点ではないだろうか。

 

右が駄目なら左から

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 徳島は7分にウタカの先制ゴール。11分にはCKからバラルが頭で合わせ、讃岐戦に続いて早い時間帯に2点リードを奪うことに成功する。

 攻撃のギアを上げたい栃木は、左CBの福岡がサイドチェンジを受けるとスペースへドリブルで積極的に持ち出してクロスを上げるなど、攻撃に厚みをもたらそうと試みる。ただしヘニキがややタスク過多気味で、肝心なクロスの時にゴール前にいなかったり、クロスの精度の欠くなどしてチャンスまで辿り着けない。大黒のゴール嗅覚は今だ健在であるものの、この日のようにブロックを敷かれてスペースを消されると持ち味が十分に発揮できない選手でもある。またクロスを上げる場合でも、彼の動き出しに点で合わせてあげる必要があり、ミドルシュートやセットプレーを除くと攻撃の多くが大黒という点へ収斂していくさまは、徳島が呉屋を起用していたときの攻撃を彷彿とさせるものでもあった(誰が悪いとかではなく、プレースタイルの問題です。念のため)。

 

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 リードする徳島は、ビルドアップ時にライン間に位置する前川、栃木のMFの前に立つ小西という形も織り交ぜる。両サイドのCB+岩尾・小西の2DH化で、あえて栃木の守備の基準点を明確にさせることによって二列目の陣形を動かし、空いたパスコースへバラルが顔を出すと、さらに斜め後ろへポジショニングする表原へパスを繋いでいく。

 栃木はヘニキがポジションを上げ、攻撃時には右サイドに人数をかけることが多い。こちらには最終ラインに迎撃能力の高いパウロンも控えているため、ポゼッションからボールを失っても、右サイドでは一定の確率でボールを回収し二次攻撃に繋げることが出来ていた。だが徳島が岩尾を使ってサイドを変えると、逆サイドでは対人プレーの脆さが露わになることが多く、なかなか徳島の攻撃を制御しきれなかった。

 

サイドに逆足の選手を配置する意味

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  徳島の攻撃でもう一つ印象的だったのは小西の働きである。この日の小西は、表原やウタカのフォローに入るなどピッチの右半分での活動が多かった。レフティの小西が右サイドでボールを持つと、身体でボールを隠しながらカットインして栃木の守備列を越えるパスを送る。ライン間を圧縮するような守り方ではなく、ブロックを組んでから前へ前へと対応してくるチームに対しては、サイドに逆足の選手を置くとボールを相手の脚が届かない位置に置いてから前方へパスを送ることが出来る。これは先制点に繋がった杉本竜のシーンでも、同じ特徴が指摘できるのではないか。例えば町田のようなチームならば、小西のカットインに対してFWがプレスバックしてきてサンドしようとするだろう。だが栃木の守り方は異なる。シシーニョではなく小西と前川が選ばれた理由も、右からスタートしてレーンを横断する動きやパスが期待できる小西、ライン間でのプレーが得意な前川という関係性を期待してのことではなかったか。

 

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 2つのセットプレーも含めて、前半のうちに3点をあげた徳島に対して61分、栃木はパウロンが2枚目のイエローカードで退場。10人の栃木は5-3-1にシステムを変更。

 攻め急ぐ必要の無い徳島は、3CB+岩尾で菱形を形成しながら大黒のプレスを無力化。栃木のMFが焦れてアプローチに出ると端山の脇が空くことになり、岩尾や石井から縦パスが入る。栃木がボールを奪いに出て来ない場合は、「3」の脇にバラルや前川、小西が顔を出してポゼッションを行いながら、栃木の守備を左右に振っていく。栃木に攻め込まれても、ロングボールを足下にピタリと収めると、反転してから独力でチャンスを作り出してしまうウタカ。二試合続けての4得点で3連勝を達成した。

 

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雑感

 徳島は讃岐戦に続き早い時間帯に複数得点を奪えたことで、試合運びが非常に楽になった。高い位置からのプレッシングよりもブロック形成を優先する今の守り方では、相手を引き出して攻撃のためのスペースを創出する必要がある。リードを奪ってしまえば後方やサイドなどリスクの低い位置でボールを回しながら、相手の「穴」にボールと人を送り込んでいくことが出来る。攻撃に人数をかけてくれば、カウンターも成立しやすい。「相手が前がかりにならざるを得ない状況」に持ち込めるかどうかは、現在のチームにおいて勝敗に直結する重要な要素だ。

 栃木は前半の3失点でゲームプランが完全に崩壊してしまったと言えるだろう。ただし前回の記事でも書いたが、ここ数年でJ2は正確なビルドアップ、ポゼッションを行うチームが劇的に増えている。残留ではなく中位以上の順位を目指すならば、前線からの守備でパスコースを制限していき高い位置でボールを刈り取るような、プランBの試合運びも求められるのではないだろうか。それは必然的に、大黒への依存度をどうするか?という課題ともリンクすることになるのだろう。