ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2018明治安田生命J2リーグ第27節 徳島ヴォルティスvs水戸ホーリーホック ~トレンドを取り入れた知将同士の駆け引き~

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徳島サブ・GK吉丸、DF鈴木、MF内田裕、小西、杉本竜、狩野、FWバラル

水戸サブ・GK本間、DF浜崎、福井、MF田中、白井、FW岸本、齋藤

徳島vs水戸の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年8月4日):Jリーグ.jp

 

 徳島ヴォルティスは一週前に開催される予定だった岡山戦(A)が、台風接近の影響に伴い順延。このため10日ぶりの公式戦となる。前節からスタメンは内田裕→広瀬と一名の変更のみだが、吉丸、鈴木、バラルと、夏に加入が発表された選手(鈴木は特別指定)がサブに名を連ねている。

 

 水戸ホーリーホックはリーグ戦7試合負けなし。前節も愛媛(H)相手に4-1の快勝。だがこの試合ではエースストライカーのジェフェルソン・バイアーノが怪我の影響で不在。代わりに宮本がCFに入る。システムは長谷部体制以降お馴染みとなった4-4-2。

 

 

数的優位の活用法

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 まず、3-1-4-2と4-4-2のチームが戦った場合、前者がビルドアップにおいてどのようにボールを前進させられるかを考えてみる。

 一般的な解決策とされるのは上図のケースだろうか。アンカーで2トップをピンどめして、サイドCBのドリブルで前進。対面の選手が出てきたところ、引きつけてから二択を迫る。相手SBがWBに食いついてくれば、SBの裏にロングボールを蹴ってもいいだろう。徳島では、大崎玲央がこのプレーを得意としていた。運ぶドリブルと相手を引きつけるドリブル。今となっては懐かしい思い出だ。

 

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 だがこの日の徳島は、3CB間でパス回しを行う際にアンカーが2CF間に降りてくる動きはあまり見せず、その背後に位置する。数的優位に立つ徳島のビルドアップに対して、水戸はまず2CFでサイドを限定させ、サイドのCBに出たところでSHが加勢に来る仕組みになっていた。

 対して徳島は3CMFのうち、主に岩尾とシシーニョが前寛と小島の前に立ってピンどめ。この間に前川が水戸の二列目を越える動きで背後をとる。大本のポジショニング、前川と島屋の動きによって数的優位を作り出し、井筒からのパスで左サイドを中心に攻撃を仕掛けていくパターンが目立った。これは大崎が抜けたことの影響、あるいはネガティブトランジション時のリスクを考えて、水戸の2CFに対して3CBは元のポジションから大きく動かしたくない、との考えかもしれない。

 

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 また徳島は、4-4でブロックを組む水戸に対し、ブロックの中へパスを通すことによって全体を収縮させ、圧縮してきたら外で待つWBへ。サイドに寄ってくれば再び中を使って、今度は逆サイドへという王道パターン。先制ゴールもGK梶川のスローから、中→左サイド→中→右サイド→クロスと、 両サイドの位置的優位を上手く活用して生まれたものだった。

 

ピンどめとハースペースの入口

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 対する水戸は、序盤こそサイドにおけるSB-WBの関係性で大本をつり出し、右からダイレクトなビルドアップを行う場面も散見された。おそらくリスク回避の意味合いもあったのだろう。だが時間の経過と共に試合が落ち着くと、ポジションチェンジを行いながら徳島を自陣に押し込んでいくようになる。

 

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 水戸のビルドアップは徳島のWBをピンどめしたうえで、幅をとって左右に振る。スライドが間に合わなくなったタイミングで2トップの脇(ハーフスペースの入口)へボールを供給。ここをビルドアップの出口として活用していく。右サイドは、茂木が大本を中へ誘導して、日向がオーバーラップからクロス、という比較的シンプルなパターンが多かった。より厄介だったのは左サイドである。こちらは木村、伊藤涼と狭いスペースでもテクニックを発揮する選手に加え、ビルドアップから解放されるとレフティの小島も加勢してくる。そして大外で待つのは推進力のあるジエゴ。タイプの違う各選手が、ジエゴの引く動きに対して裏を狙う伊藤、伊藤が内へ絞れば空いたスペースへ飛び出す小島、と多様なパターンの攻撃を繰り出す。

 徳島はビルドアップ時に左から攻撃を組み立てていくことが多かった。当初は、現時点での大本と広瀬のコンディションの違い、井筒と藤原のビルドアップ能力の違いなど徳島側の事情によるものかと思っていた。だが広瀬が4バック気味に低い位置からスタートすることが多かったのは、ジエゴを含めた水戸の左サイド対策という側面もあったのかもしれない。

 

対抗策と対対抗策

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 後半、先に動いたのは徳島だった。リカルドは試合後に「2シャドーで相手のSBにプレッシャーをかけたかった」とコメントしていたが、それ以外にも幾つかの効果があった。

 まず5-4-1でセットした状態から守備を開始することにより、水戸が前半に再三活用していたハーフスペースの入口を封鎖する。これにより水戸は「ボールを運ぶ経路」の再考を余儀なくされる。

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木村が降りてきても眼前に島屋がいる

 

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 また攻撃時にはCBと競るウタカ、4-4-2の泣きどころであるハーフスペースに立つシャドウ、の構図が出来る。ゴールが必要な水戸は、徳島のバックラインでのパス回しも積極的に追いかけてくることが多い。上図は梶川を使って前線へフィードを送った時の一例であるが、このあとウタカがキープしたボールを島屋へ落とし、島屋は広瀬とのコンビネーションで右サイドを抜け出した。
 SHがハーフスペースへ移動するということは、徳島のポジティブトランジション時には大外レーンに水戸の選手が1人しかいない。また逆サイドにボールがある場合はSHが絞ってくる。そこでサイドチェンジ。リードする徳島はリスク管理も考慮して、WB・シャドウの関係性で外・外ビルドアップからチャンスを創出する狙いもあったのではないだろうか。

 

 互いに選手を入れ替えながらも、3-4-2-1vs4-4-2という骨格は変わらない。前半と同じ手が通用しづらくなった水戸だが、75分あたりから猛攻を仕掛けてくる。

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 徳島は5-4-1でセットする代償として、CB間でのパス回しには制限をかけにくい構図になっている。水戸にとっては「セーフティにボール保持できるエリア」に2DHも顔を出し、SBとのパス交換で徳島のシャドウをつり出す。徳島の2列目は四枚で守っているが、シャドウはSBを基準点に守備を行うタスクがあるため、前半の3CMF時に比べると中央部の強度は落ちている。水戸はこれを見逃さず、岩尾・シシーニョの間に伊藤涼が顔を出してボールを引き出す。また、ライン間にパスが通ると、小島が徳島の守備列を越える動きで数的優位を作り出す。

 

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 徳島の守備は、人数は揃っているものの水戸の攻撃をなかなか潰しきれなかった。これは水戸が、間受けをする選手を用意して徳島の守備陣形を間延びさせると共に、流行の言葉で言うところの「一つ前の選手と同じレーンに立たない」ことによって常に斜めのパスコースを作り出していたことも大きかった。

 特に伊藤は1.5列目のようなポジショニングをすることにより、ポジティブトランジション時にはカウンターの起点としてボールを収める。ポゼッション時には間受けから反転してドリブルで仕掛けるなど、存在感を発揮。さすが高卒でビッグクラブから声がかかった選手、との印象が強く残った。

 

雑感

 早い時間に先制点をあげたことで、徳島が優勢に運ぶかに思われた試合だったが、ボールを持つことになった水戸がデザインされたポゼッションで反撃。終了間際の決定機(判定はオフサイド)も含め、どちらに勝点3が転がってもおかしくない試合だった。

 徳島は多くの選手が終了のホイッスルと同時に膝をついたように、厳しい気象条件下でのキツイ試合だった。リカルド就任以降、これだけ相手のポゼッションに走り回された試合は、あまり記憶に無い。それほど水戸の戦いぶりは見事だったし、両監督の戦術的な駆け引きを含めて、見所の多いナイスゲームだった。