ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.2.27(土) J1リーグ第1節 大分トリニータvs徳島ヴォルティス ~表出したパッション~

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大分サブ・GKポープウィリアム、DF刀根、MF松本、町田、下田、FW伊佐、長沢

徳島サブ・GK長谷川、DF安部、MF小西、藤田征、エド、FW河田、渡井

 プレビューで書いた予想スタメンが、全く当たらなかったこの試合。ここまで盛大に外すと清々しささえ覚える。大分は、新加入の坂を3バックの中央、右には小出を起用。ウイングバックは井上と高畑の組み合わせ。「高さ」という徳島の弱点を効果的に突くため、前線は長沢でくるかと思ったが高澤。カタノサッカーへの適応を優先させたのだろうか。

 大分以上に驚かされたのが徳島のスタメンだった。左サイドバックは田向でもジエゴでもなく、J2での出場も無かった二年目の吹ヶ。左サイドハーフは西谷でなく藤原。ディフェンシブハーフは岩尾と藤田譲(以下ジョエル)の組み合わせ。宮代はセカンドトップのような立ち位置での出場となった。西谷、ジエゴ、田向はサブからも外れており、長引くようなアクシデント等でなければいいが。

 

新生徳島は左から

 片野坂監督お馴染みの[5-4-1]ではなく、[4-4-2]でボール非保持のセットを行う大分。徳島は前評判どおり、可能なかぎりディフェンシブハーフがポジションを落とすことなく、DFラインの選手のみで組み立てを行おうと試みた。とりわけ印象的だったのが左サイドからの攻撃で、サイドバック・吹ヶの縦パスやポジショニングによって大分の守備陣形を崩していった。

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大分の二列目の後ろへ複数のパスコースを用意する

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藤田が落ちて吹ヶをフリーにする

 昨年までのチームなら岩尾やジョエルがDFラインに落ちて後ろを三枚にし、そこからフリーの選手が運び出す形を採っていただろう。だが新チームは、セントラルハーフは大分の一列目(高澤、渡邉)の後ろで我慢し、吹ヶの左足を中心に組み立てていった。

 大分の長谷川、小林は、眼前に徳島の選手がいるためポジションを動かしづらい。このため徳島は、大分の二列目の背後に容易にパスを通すことに成功していた。藤原にパスが渡ると、宮代はそのままSBCB間を走り抜ける動きを見せるなどして、藤原のカットインをアシスト。このようなデザインによって、徳島はシュートまで辿り着く。

 

成長を続ける岸本 

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 大分が徳島の左サイドアタックに慣れてくると、次は逆サイドの出番となる。徳島が攻撃を一度やり直すため、後ろにパスを戻すタイミングは大分にとってディフェンスラインを上げる好機でもある。このとき徳島は、浜下が右サイドから斜めに走りこむことで、右サイドにスペースを作り出し岸本をフリーにする。岸本から放たれるクロスの向かう先には、垣田と宮代と、二枚のターゲットがいる。そして弾かれたボールを回収するのは中央に鎮座する岩尾とジョエル。昨年までのチームからスタイルは継続されているものの、キャスティングの変化とその狙いは明確に感じ取ることができた。

 

 前半途中まで、大分は全くと言っていいほど良いところがなかった。「片野坂監督が動くのも時間の問題か」と思っていたが、飲水タイムを機に慣れ親しんだ[5-4-1]へ変更。それまでボール非保持は[4-4-2]、保持時には片側のサイドバックを上げて3バック化を行っていたが、徳島のプレッシングの前にタジタジとなっていた。可変している場合ではない!と思ったか定かではないが、攻守の切り替えをよりシームレスに行いたい狙いがあったのは確かだろう。

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高澤の周囲でスペースを得られるようになった徳島

 大分の[5-4-1]への変化によって、[1]の高澤の周囲にはスペースが発生する。これを生かして、福岡がドリブルで持ち上がる、岩尾が長いパスを配球するプレーが増えることとなる。徳島の先制ゴールも、岩尾が顔を上げたタイミングで高畑の裏をとった岸本が、混戦を押し込んだことで生まれた。

 その後も岩尾のロングフィードを、ゴール前で宮代が高木に競り勝ってあわやというシーンもあった。Twitter上でも軽く話題になっていたが、前半のスタッツから、徳島は一点しかとれなかった、大分は一失点で済んだと表現できる内容だった。

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徳島が圧倒した前半

 

流れを左右した選手交代 

 大分は前半終了間際に野村が負傷したため、後半開始から町田を投入。町田が右シャドウ、渡邉は左へ移動する。徳島のボール保持時には町田が少し高めの位置をとり、対面の吹ヶを牽制するような動きを見せていたところに、徳島は55分に吹ヶ→川上(エド)と交代。映像を見るかぎり吹ヶがどこかを痛めたような素振りは無かったので、吹ヶの体力面やコンディションを考慮して、試合前から予定されていた交代なのだと思う。が、この交代が試合の流れを大きく左右することになった。

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 3バックのような立ち位置でビルドアップに積極的に携わっていた吹ヶと異なり、エドタッチライン際に張ったポジションをとることが多い。対して大分は、町田がエドに睨みを利かせつつ、石井の前進を阻害する。5バックによる迎撃によってサイドでの優位性も消すことに成功していた。
 また、ボール保持時は3バック、非保持時は4バックだった前半には、可変のための時間を稼ぐ必要があった大分。このため、ディフェンシブハーフの一人をDFラインの間に落とし、最終ラインでのボール回しを円滑に行いながら、野村や高畑のポジションを調整する狙いがあった。

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大分の前半のビルドアップと徳島の守備

 対して徳島は垣田と宮代が、自エリアのセンターバックとアンカーを交代で監視する役割を行いながらボールをサイドに誘導。サイドバックに出たタイミングでサイドハーフがアプローチに行く手法で、大分の攻撃を無効化することに成功していた。

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後半の大分のビルドアップ

 後半は可変を行う必要が無いので、3バック前提でビルドアップを行う大分。徳島の前線の選手たちは、前半から強く圧力をかけにいった疲労もあっただろう。またJ1開幕戦の高揚感による、精神的な疲労もあったと思う。大分は早めにサイドを使って一度中央の選手へ戻し、そこから逆サイド奥へロングフィードを蹴る形で徳島の守備を揺さぶっていった。

 同点に追いつかれた徳島は、77分に脳震盪を起こした石井から安部へ交代。なかなかうまくいかないビルドアップにおいて、岩尾が左に落ち、エドを押し上げるなどの工夫を見せたが、センターバック陣のパスミスも目立つようになり、流れはなかなか好転しなかった。安部・福岡と慣れないコンビだったこともあるだろうが、センターバックには相当負担のかかるサッカーなのだと推測できる現象だった。

 

雑感

 ただでさえJ1での経験が乏しい選手が殆どだった徳島。加えて藤原や吹ヶの起用で「J2でも出番が少なかった(無かった)選手」がスタメンに名を連ねることとなった。「J1の舞台でプレーできる」という喜びは大きかっただろう。選手たちの抑え切れない情熱は、積極的なプレーの数々となってピッチ上に表出した。それがことごとく上手くハマった前半。大分がやり方を変えてきたこともあり、苦しんだ後半。

 収穫と課題の両方が見つかり、勝ち点も持ち帰ることができたという点で、完璧とは言えないまでも悪くない開幕戦だったように思える。キックオフ前は不安が先行していたスタメンも、吹ヶ・藤原は今後に期待を抱かせる出来。岩尾とジョエルのコンビや、宮代のセカンドトップと昨年の徳島には無かった武器も加わった。

 この試合で出場時間は少なかった渡井や、欠場した西谷・ジエゴ・田向など、まだまだオプションとなるカードが残っていることもポジティブに思える。ただし、そのカードを生かすも殺すも監督次第。このあたりの生かし方や試合中での修正力は、当面の間、甲本ヘッドコーチが経験を積みながら身につけていくしかないのだろう。完成度もそれなりに備わっており、まだまだ楽しみな点も多い。いずれにしろ、前評判を覆す可能性を大いに示した一戦だったことは確かだ。