ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.4.4(日) J1リーグ第7節 清水エスパルスvs徳島ヴォルティス ~記念すべき二歩目~

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スタメン

清水サブ・GK永井、DF奥井、MF原、中山、中村、鈴木唯、FWカルリーニョス・ジュニオ

徳島サブ・GK長谷川、DFジエゴ、MF小西、藤田譲、浜下、杉森、FW河田

 

 国際Aマッチデーをはさみ、二週間ぶりのリーグ戦再開。今季からロティーナを新監督に招聘し、ストーブリーグでも大暴れした清水エスパルスエウシーニョは今季初出場。鈴木義、福森、後藤、サブには奥井、中山など、徳島にとってはJ2時代から対戦してきた選手が名を連ねる。徳島の元恋人・原輝綺も健在。北九州から新加入の永井堅梧は元ヴォルティス戦士。

 J1で初の連勝を目論むアウェイの徳島ヴォルティス。ほぼ予想通りのスタメンだったが、左サイドバックに田向、セントラルハーフには小西でもジョエルでもなく鈴木徳を起用してきた。中断期間中にダニエル・ポヤトス監督、マルセルコーチ、バトッキオの来日が相次いで発表され、この試合でさらなる上昇気流に乗ることができるか。

 

余白の重要性 

 今さら言うまでもないことであるが、敵将のロティーナは徳島ヴォルティスにとって、J2での対戦時に幾度となく痛い目に合わされてきた相手だ。とにかく「相手の嫌がることをやってくる」監督との印象が強い。この試合でも、徳島のビルドアップに対して前線から積極的にプレッシングを行う立ち上がり。特に後藤がキレのある動きを見せ、それに二列目、三列目が呼応する形で人を捕まえる。苦し紛れの藤原のバックパスを上福元がキャッチするも、ノーハンドの判定。チアゴサンタナのシュートは上福元がセーブと、危ういシーンを凌ぐと徳島のボール保持が徐々に落ち着きを取り戻していく。

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徳島のボール保持と清水の動きによって空くスペース

 

 徳島のボール保持時の特徴は2センターバックが大きく距離をとることから始まる。センターバックが大きく開くことでパス交換の距離が長くなり、ミスキックやパスが届くまでに相手にアプローチされる可能性など、高まるリスクもある。福岡&石井のコンビだからこそ出来る芸当かもしれない。(余談になるが、いまだに進化を続けているように見える石井の存在は本当に素晴らしいと思う)

 得られるメリットも大きい。まず清水の選手の移動距離が長くなる。左右に振ることで一列目のスライドが間に合わなくなる。キーパーを使われれば数も足りない。すると二列目から援軍が出てくるのだが、こうなるとしめたものだ。清水の選手が動けば動くほど、徳島にとっては使えるスペースが増えることになる。清水のプレッシングに合わせて2トップの間や脇に降りるセントラルハーフ、サイドバックへ届ける上福元とボールを循環させていく。

 

輝きを取り戻した上福元

 ホームである鳴門の強風に苦しんだり、J1に昇格してから毎試合失点が続いたこともあってか、やや自信を失っているようにも見えた上福元。この日はセービング、キックともに序盤から安定したパフォーマンスを見せた。サイドバックへ届けるボールで清水の守備を空転させ、渡井へのフィードで先制点を演出。勝利の立役者の一人となった。

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徳島のボール保持に対して徐々に間延びしていく清水

 清水は立ち上がりから2トップが献身的に走り、逆サイドの選手が徳島のセントラルハーフを消すなど、効果的な守備を見せいていた。だが徳島の深さと幅をとるビルドアップの前に、徐々に全体が間延びしていく。ライン間を分断されると徳島のセントラルハーフがフリーになる。前向きの渡井にボールが届けられたり、ライン間で数的優位を作られるなど、徳島のチャンスが増えていく。

 

清水はサリーと偽サイドバック

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清水のボール保持の構造

 [4-4-2]でスタートする清水のビルドアップは、センターバックが開いた間に竹内が落ち、エウシーニョインサイドレーンに入る動きを見せる。サイドバックは左が福森、右がエウシーニョというキャスティングを見ても、右サイドから攻めたい意思は感じられる。これまでの徳島の試合を分析した結果、藤原-吹ヶのラインの方が攻めやすいとの結論に達したのかもしれない。

 だが残念、この日の左サイドバックは田向。渡井がヴァウドへ寄せると金子へのパスは身体を寄せて反転を許さず、攻撃を遮断する。福森から左サイドの奥を狙うパスは、岸本がコースを読んで対応。前半の数少ない効果的なシーンは、左から右へ展開してエウシーニョのオーバーラップからクロスというものだった。

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前半終了間際の清水の展開

 

 1-0で折り返した後半。おそらくスコアにも内容にもおかんむりだったであろうロティーナは、ハーフタイムに怒りの三枚替え。カルリーニョス・ジュニオ、中山、原輝綺を同時投入する。

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後半開始~

 反撃に意気込む清水だったが後半開始早々、垣田のクロスを鈴木義が腕でブロックする形となり、徳島にPKが与えられる。これを岩尾が中央に蹴りこんで2-0。カピタンの記念すべきJ1初ゴールとなった。

 

 

 2点が必要になった清水は、西澤に代えて中村、河井に代えて鈴木唯と、71分までに5枚のカードを使い切る。 ウイングとして振る舞うことで能力を発揮する中山・インサイドに入るエウシーニョの右サイドと、原・中村・鈴木唯とよりマルチなタスクをこなす選手が揃う左サイド。[4-4-2]でセットする徳島に対して、大外レーンに一人、インサイドに二人配置し攻略を目論む。

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後半、よく見られた清水の配置

 クロスに対しては逆サイドのサイドバックペナルティエリアのすぐ外まで進出するなど、攻勢を強める清水。徳島も苦しい時間に頼りになる浜下、今年リーグ戦初出場となる杉森、和製カンテ藤田譲を投入。運動量と球際の攻防で後手を踏まないよう抵抗。岸本や浜下を清水のサイドバックの裏へ走らせることで陣地を回復する。そして最後まで最前線で走り続けた垣田。アディショナルタイムには鈴木唯→原へのパスをカットした岸本がそのまま持ち上がり、タメを作ってからクロス。垣田のヘディングがサイドネットに吸い込まれ3-0。90分間頑張った2人にもたらされたご褒美によって、試合は幕を閉じた。

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雑感

 徳島にとってはJ1の舞台で初の連勝。ホーム初勝利を飾った前節に続いて、前回昇格時には達成できなかった記念すべき二歩目を記した。徐々にJ1の強度に慣れてきたのか、鳴門の気象条件がアレなのか、前節の勝利が大きかったのか。おそらく原因は一つではないだろう。昇格して以降(といってもまだ7節だが)徳島にとってベストゲームだった。

 プレッシングをやり過ごすと、相手の出方を観察しながらボールを循環させ、ポジショニングとパスによって空いた選手を的確に使っていく。失ったボールに対しては連動したプレッシングでパスコースを限定させて回収。二次攻撃に繋げる。継続して取り組んできた数々のプレーが、J1の舞台でも披露された。

 チームとしてカードの切り方が定まってきた感があり、離脱者も戻りつつある。バトッキオやカカの来日も発表された。一方で垣田や岸本など「絶対に替えがきかない」ポジションもある。チームの成熟を進めるためにも、これ以上の負傷者が出ないことを祈ろう。監督・コーチを含めた全員が揃ったとき、さらに強力なチームが披露されることだろう。