ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

ここまでの総括とダニエル・ポヤトスに期待すること

はじめに

 18試合を終えて5勝4分9敗。積み上げた勝ち点は19。20チーム中13位。J2チャンピオンとしてJ1に昇格。だがリカルド・ロドリゲスを失い、新型コロナウイルス下での入国制限の措置によって、新監督・コーチ・外国籍選手がチームに合流できないまま開幕を迎えた徳島ヴォルティス。チームの先行きを不安視する声が方々から聞こえ、ほとんどの識者や解説者が「降格枠の4つに入るだろう」と予想していた前評判に比べると健闘しているといえるだろうか。

 一方で、一桁順位に位置していた時期があったことを思うと、現在の順位に不満を覚える方もいるだろう。ダニエル・ポヤトス新監督の来日が遅れたため、甲本ヘッドコーチが指揮を執り「リカルド体制の延長戦」との趣もあった序盤戦。ポヤトスの合流に伴い、本格的な指導の下で再構築を余儀なくされた中盤戦。そして、本格的な残留争いの火ぶたが切って落とされるこれ以降の戦い。大まかにではあるがそれぞれを総括し、今後の戦いの展望に繋がればと思う。

若手の台頭と誤算

 自分たちの力が、トップカテゴリーでどこまで通用するのか?見守る私たちも不安を抱くなか、サポーターを楽しませて勇気を与えてくれたのは、生え抜きの若手の台頭だった。西谷、杉森が怪我による離脱、バトッキオが来日できない中、二列目の左サイドで奮闘した藤原志龍。左サイドバックには推進力とテクニックを兼備した吹ヶ。そして徳島の中盤に欠けていた力強さをもたらした宮代、ジョエルの新加入組。

 同じく期待の若手でも、安部や鈴木大誠といった、J2でもほとんど出番の無かったセンターバック陣には大きな負担がのしかかることとなった。「セントラルハーフが列を下りずにDFラインからの球出しを重視する」ポヤトスのスタイルに加えて、J1の強力なアタッカー陣との対峙が要求される。とりわけ上位陣相手に、ビルドアップのミスから失点から喫する試合も少なくなかった。またJ2では絶対的な存在感だった上福元が、得意のキックでミスを連発したり、集中力を欠いたようなプレーが散見されるのも誤算だった。確かに徳島へ移籍する以前から、サイズの無さによるハイボールへの脆さを指摘されることはあったが、得意な領域のプレーでもここまで精彩を欠くとは思わなかった。

 左サイドバックを最終ラインに残し、右の岸本を上げて[3-2]の形でビルドアップを行うのは、前体制の時からオプションの一つとして見られた。そこに鋭い動き出しとプレッシングでJ1でも強みを見せた浜下、ターンから力強い突破を見せる宮代がアクセントを加えた。ただ垣田の献身性や岸本の突破力、岩尾のゲームメイク、福岡の運ぶドリブルなど、チームの骨格を担う部分は変わっておらず、J2で積み上げてきたものの確かさを色濃く感じさせる試合が多かったことも事実だろう。

 

待望の監督合流も…

 風向きが変わったように見えたのは、ポヤトス新監督・マルセルコーチに加え、バトッキオ・カカと補強の目玉たちがチームに合流してからだ。まずチーム内の序列が明確に変化した。カカが不動のセンターバックに君臨し、相方にはドゥシャン。セントラルハーフは岩尾と鈴木徳真の組み合わせ。バトッキオや小西を二列目で重用する起用からも、プレーの強度や連続性を重視し、それぞれのポジションにおいてよりノーマルな能力を求めているように見える。センターバックなら高さ・強さ。セントラルハーフはボックストゥボックスの動き。そしてライン間にスペースを探す二列目の選手たち。

 岩尾がZISOの中で、ポヤトスとレアル・マドリー時代のエピソードを話したことを明かしていた。アンチェロッティジダンといった、サッカーファン垂涎の名前が次々に飛び出したわけだが、要は「最終的にピッチで決断するのは選手の仕事だ」と。そして「その助けとなるために私は日々のトレーニングを指導している」と。戦術が目まぐるしく変化する欧州のトップレベルにおいて、監督の指示を待っていては対応が間に合わない試合も往々にしてあるのだと思う。同時にそれは、難しいチャレンジでもある。しかも4チーム降格という例年にないレギュレーションの中で。

(レアルでのエピソードは19分ごろから)

 

 このポヤトスのエピソードは、彼のサッカーを理解する上で重要な視点を示しているように思う。選手の判断によって即興的に相手の戦術に対応するためには、ボール保持・非保持、攻守・守攻の切り替えと、四局面に満遍なく強くないといけない。特定のスタイルのチームを苦手としないためにも、それぞれのポジションにおいて原点的な能力を重視する。戦術を突き詰めて完成させてしまうよりも、選手の判断によるのりしろを多めに残しておく。

 

これからポヤトスに期待すること

 現段階でチームが表現している明確なスタイルもある。福岡が「袋を作る」と表現したボールの奪い方。一列目の選手がサイドを限定させ、二列目三列目の選手が網を張る。右肩上がりの[3-2]ビルドアップ。らいかーるとさん曰く「5-5の間を旅する人」の役割を担うセントラルハーフ。ボールホルダーに対して複数の斜めのコースを作り出す立ち位置。

 

 この中断期間でチームの上積みに期待するのは、相手ゴール近くでの崩しの質になるだろう。昨年は、相手とのかみ合わせで渡井をフリーマンにすることで、彼の個の質を最大限に生かしチームに還元していた。ポヤトスもまた、効果的にゴールへ迫る術を見出す必要がある。レアル・マドリーとは大きく異なる、リーグ内での徳島の立ち位置、選手の質によって。

 現段階ではまだ「昨年までの貯金で食っている」感が否めない。もっとも、監督・コーチ不在のままキャンプ・シーズン開幕を迎え、コロナ禍による過密日程でまともなトレーニング期間もとれなかった事情を鑑みれば、やむを得ないだろう。ヴォルティスとポヤトスにとって幸運だったのは、約3週間の中断のあと4試合(天皇杯を含めると5試合)を戦うと、再び五輪による中断があることだ。シーズン中にも関わらず、約二ヶ月分のまとまった時間がとれることになる。今はまだ、基礎の部分しか見えていないポヤトス式が、一級の建築物として積み上がっていくのか。それとも選手の判断を重んじた結果、船頭多くして船山に登るとなるのか。過酷な挑戦ではあるが、厳しいシーズンを生き残ってほしいと切に願う。