ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.4.24(土) J1リーグ第11節 柏レイソルvs徳島ヴォルティス ~いきなりの試練~

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スタメン

柏サブ・GK佐々木、DF田中、MFヒシャルジソン、アンジェロッティ、イッペイ・シノヅカ、FWペドロ・ハウル、細谷

徳島サブ・GK長谷川、DF田向、ドゥシャン、MF小西、浜下、バトッキオ、FW佐藤

 

 シーズン序盤は苦しんだ柏レイソルだが、ここにきてリーグ戦連勝中。スタメンも左ウイングバックが三丸→高橋峻希に変わっただけで、ほぼ固定。開幕前にオルンガを失ったが、アンジェロッティ、ペドロ・ハウルがチームに合流。ヒシャルジソンやイッペイ・シノヅカがサブに控えるなど、選手層に厚みが出てきたことを感じさせるメンバー。

 前節は鹿島に持ち味を殺され、0-1で敗れた徳島ヴォルティス。ようやく中2日のリーグ戦連戦から解放され、仕切り直しといきたい一戦。渡井、河田、鈴木徳、西谷あたりがサブからも外れドゥシャン、バトッキオがメンバー入り。右サイドのスタメンは杉森。ミッドウィークのルヴァンカップでも出番のなかった渡井は、状態が良くないのか、あるいは戦術的な理由か。

 

柏の狙いを推察する

 敵将は百戦錬磨のネルシーニョ。徳島とも2019年にJ2で対戦があり、柏の2勝。とりわけ、大半の時間で試合を支配しながら終了間際に立て続けにゴールを許し、逆転負けを喫したホームでの試合が記憶に残っているサポーターは多いと思う。当時とはお互いにスタッフや選手が入れ替わったものの、徳島の基本的なスタイルは不変。J1では「徳島のやりたいこと」と「徳島への対策」を最も熟知している監督の一人、と表現して差し支えないだろう。

 柏の選手は序盤から激しいプレーを見せる。垣田へ背後からアタックする上島。立て続けに華麗なスライディングを披露する仲間。仲間のプレーは、いずれもアフター気味のスライディングで競技者の脚を削っていること、またファウルの繰り返しという観点からも悪質なプレーだったと思うが警告は無く試合は続行。とはいえ「全体をコンパクトに保ちながら、捕まえた相手に対しては激しくアタックする」という柏の狙いを象徴するプレーでもあった。

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 前半、よく見られた両チームのかみ合わせの代表例は上図になる。徳島はジエゴを残し気味に最終ラインでボールを回す。これに対して、呉屋は福岡へ、江坂はジエゴへ素早くアプローチをかけ、考える時間とパスの選択肢を消す作業を繰り返す。ジエゴ→福岡→鈴木大とパスが回ったとき、闇雲に距離を詰めずに中間ポジションをとる神谷。これによって何が起こるかと言うと

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誰に出しても複数で囲まれる徳島

 ハーフスペースで受ける杉森には古賀が、大外の岸本には高橋が、岩尾には椎橋がマーク。全体の陣形をコンパクトに保ち、神谷に中間ポジションをとらせることでそれぞれのパスコースへ複数人で対応することが可能となり、徳島の攻撃を遮断していく。結果として柏が鈴木大を浮かせるような対応をとったことについて、幾つかの狙いが想像できる。考えられる理由としては

①鈴木大と福岡のビルドアップ能力を比較した

②徳島の左サイドからの攻撃を警戒していた

③徳島の攻撃を右サイドへ誘導したかった

などである。これについては、後述する柏のボール保持の分析の項でも触れてみたい。

 

息のできない徳島

 さて、徳島の攻撃は基本的に「相手の陣形を間延びさせたうえで、ライン間のスペースを攻略する」ことが狙いとなる。このとき重要なのは「ライン間でフリー、あるいは前向きで仕掛ける選手を作り出す」ことで、狭いスペースで反転できる渡井を欠いたことは痛かった。

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岸本へパスが出ても斜めのパスコースを消される

 そして恐れていたことが起こる。自陣ゴール前でのパス回しを、呉屋が上福元へ、江坂が福岡へ寄せていき、福岡→ジエゴを狙ったパスを江坂がカット。パスを受けた呉屋が冷静に蹴りこみ、開始早々柏が先制する。

 これは大分あたりにも該当することかもしれないが、J1の中で傑出した選手を擁するわけでなく、自分たちの攻撃を繰り出すには「相手に動いてもらう」必要がある徳島にとって、先制点は大きな意味を持つ。柏の球際の激しさも相まって、ゲームプランが大きく狂うこととなった。

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上福元がボールを持てば完全マンツーマンへ移行する柏

 神谷のポジショニングで徳島の前進を防ぎつつ、徳島がキーパーまでボールを戻すと完全マンツーマンで出しどころを消す柏。一方で横パスに対しては、呉屋のアプローチを機に全体を押し上げる。背中でパスコースを消しながら前向きに圧力をかけることで、素早く攻撃へと移行する。

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徳島の横パスに対しては全体を押し上げていく柏

 

右サイドへ誘導する意味

 柏はボール保持においても、徳島の弱点を的確についてきた。[4-4-2]でセットする徳島に対して、3バックが大きく開いて距離をとる柏。主に左サイドから組み立てられる攻撃。ここで神谷を浮かして鈴木大にボールを持たせる意味が生きる。

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セントラルハーフの脇で浮いたポジションをとる江坂と大外を駆け上がる北爪

 柏は神谷が下りることで、徳島の2セントラルハーフに対して数的優位を作り出してボールを動かす。フィードが得意な古賀や神谷に、呉屋のポストプレー。左サイドでボールを保持してから右へ展開し、セントラルハーフの脇で浮く江坂、大外を駆け上がる北爪がスピードに乗った攻撃を繰り出す。つまり「左で作って右へ展開」というパターンを繰り出すためにも、徳島の攻撃を右サイドへ誘導することは理に適っていた。

 

 前半だけで3点を失い、事実上試合は終わってしまった。徳島はHTに藤田譲→バトッキオ、杉森→浜下。前半と異なり岩尾をアンカー気味に残した[3-1-6]でビルドアップを行う。

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 徳島にとっては、たとえ岩尾を消されても、仲間・椎橋に対して浜下・バトッキオ・宮代と3枚あてることで、数的優位を作り出したい狙いがあっただろう。呉屋は、岩尾を背中で消しながら福岡にも寄せるという難しいミッションをこなしていたが、徐々に時間を得た福岡や上福元からライン間へ縦パスが入るようになる。

 ここでも威力を発揮したのが、江坂・北爪の右サイドコンビである。ジエゴも上げて前がかりになる徳島に対して、江坂のパスから再三駆け上がっていく北爪。岸本・浜下に比べると、スピードでも強度でも不安の残る左サイドの守備が晒されていく。小西の投入以降、相手のセントラルハーフの間でボールを受けてパスを捌くプレーによって、流れは多少改善したがあとの祭り。

 

 5バックで5レーンを埋めてしまい、マンマーク基調の守備でハーフスペースへのパスにも強く対応。バックパスや横パスには積極的にプレッシングに出る。ボールを奪えば素早くカウンター。クロスやセットプレーからゴールを狙う。徳島がJ2でも幾度となく痛い目にあってきた相手のやり口であるが、個の能力の高い柏の選手たちに90分間それをサボらずやり続けさせるところが、ネルシーニョの凄さなのかもしれない。

 

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雑感

 ポヤトスが指揮を執るようになってまだ二試合(ルヴァンを含めると三試合目)。何かを結論づけるには早すぎるし、彼の狙いがどこまで浸透しているかもわからない。だがこの試合で見えてきたこともある。

 一つは、ポジションの流動性が低いということ。これまでの徳島には、ビルドアップにしろ崩しの局面にしろ、良い意味での「遊び」があった。大枠は決まっているが、誰が降りるか、どこへ降りるかなど、選手が状況に応じて判断を変える。これによって相手は、様々なパターンに対応しなければならなくなるし、考えることも多くなる。この試合ではそれが殆ど見られなかった。

 攻守のシームレス化を進め、トランジションの局面で後手を踏まないために「選手を本来いるべき場所から大きく動かさない」考えは重要なのだろう。一方で、この日の柏のようにスペースを消して人に強く当たってきた場合、どこかで相手を剥がせる選手が必要になる。しかも相手の圧力を受けた状態で。

 それが徳島では宮代や渡井の仕事になるのだろうが、この試合での宮代が上手く機能したとは言い難い。そして柏のこの戦法は、今後おそらく他チームも参考にしてくるはずだ。それは徳島の左サイドのスペースをスピードで突くフィニッシュまでの展開を含めてだ。

 リーグ戦連敗スタートと、ポヤトスにはいきなりの試練となった。次節は現在リーグ戦で3位につけ、戦術面でも非常に評価の高い鳥栖との対戦。難敵が続くが、今節からの改善点に注目して見守りたい。