ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2022.2.27(日) J2リーグ第2節 ファジアーノ岡山vs徳島ヴォルティス ~叩き良化の二戦目~

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 ファジアーノ岡山は、昨年のJ2で11位。オフには有馬賢二前監督が退任し、木山隆之氏を新監督に招聘。木山監督といえば思い出されるのが、山形時代の「腹いせ肩ドン事件」。この件以来、徳島サポの一部の間ではあまり印象の良くない氏であるが、愛媛・山形・仙台・岡山と監督職に困らないところを見ると、J強化部の間では評価の高い人物なのだろう。上門・白井・安部など主力級の流出も少なくなかったが、バイス・柳・チアゴアウベスと意欲的な補強を敢行。監督交代と相まって「勝負の年」を感じさせるスカッド。4-1と大勝した甲府戦に続いて徳島撃破を目論む。

 ホームの開幕戦は0-0の引き分けだった徳島ヴォルティス。右サイドバックが藤田→エドと変更があったほか、サブに児玉が入るなどルヴァンカップ組がアピールに成功した格好。一方で、開幕戦に途中出場を果たしたサンデー・坪井はメンバー外へ。様々なポジションで競争が生まれ、監督の選択肢が増えていくのは良い傾向ではないだろうか。柳・バイスを擁する岡山相手にカカの起用もあるかと思ったが、センターバックは内田・安部のコンビを継続。

安部ちゃんの恩返し

  • 立ち上がりの岡山は、徳島の4バック+アンカーで始まるビルドアップに対して、デュークが背中でアンカーを消す+両ウイングは徳島のサイドバックとアンカーの間に立つ形でスタートする。徳島は左サイドの攻撃が詰まったところから、新井→安部→内田とボールを下げていくが、安部から内田へのパスがズレたところをチアゴアウベスが強襲。そのまま抜け出して逆サイドネットへシュートを叩き込み、開始早々に岡山が先制。
  • この先制点の前にも、安部がボールを持って切り返す素振りを見せると、チアゴアウベスが内田との距離を詰めるアクションを起こしていて、戦前から狙っていた形の一つだったのだろう。

 

  • 徳島サポが去年J1でも見た光景……と言うと安部ちゃんに怒られてしまうかもしれないが、ともかく「そんな形で岡山に恩返しする必要はないんだよ!」と思いたくなる失点。その直後にもチアゴアウベスのスルーパスにデュークが抜け出して決定機を作るも、角度がなかったこともあって長谷川が好セーブ。徐々に落ち着きを取り戻した徳島が、本来のボール保持攻撃を展開するようになる。
  • 岡山の先制点のシーンでは徳島の両センターバックが横並び気味になってしまい、パスがズレたことも重なってボールロストから被弾。以降、パスを受ける側のセンターバック(主に内田)はバックステップを踏みながら斜め後方のポジションを取り、安全な距離を確保してからボールを持ち出していく。
  • 10分ほどまでの岡山の守備の立ち位置を見ていると、上述したような前3枚の立ち位置は不変。これはおそらく前線の選手、とりわけ外国籍選手に、より攻撃面に専念してもらう狙いだったと推測する。守備面で走り回らせて体力を消耗するよりも、攻撃面での脅威を優先することで収支をプラスに持っていく。

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徳島のボール保持と岡山のセットディフェンス


アウベス大作戦の収支

  • 先制点以外にも、デュークへのスルーパス、29分過ぎには長谷川の頭上を狙ったロングシュート。このどちらかが決まっていれば、チアゴアウベス作戦大成功だった岡山。
  • 徳島としてはおそらく「チアゴアウベスの裏」というのは共通認識としてあって、ルヴァンカップで存在感を示した(らしい)エドを使ってきた理由もそこだろう。チアゴアウベスは一たびボールを持つとJ2で反則級のプレーを繰り出すものの、守備では帰陣が遅く二列目の守備に参加するまで時間がかかる。もちろん攻撃性能を最大限発揮してもらうために、あえて前残りさせている面もあるだろう。このため浜下や白井は、岡山の中盤の[3]の脇でボールを触るシーンが多く、9分過ぎの一連の攻撃などはこの試合の徳島の狙いが凝縮されていたように見えた。

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アンカーを使ってサイドを変えると岡山3センターの脇がフリーになる
  • 徳島のセンターバックから縦パスを差し込まれる岡山。20分を過ぎたあたりから、河井が積極的に列を上げる動きを見せ[4-4-2]に近い形で圧力をかけてくるようになる。徳島の2センターバックに対して同数。とはいえ、アンカー櫻井をどうするか?問題に対しては有効な手立てが見えず、徳島は櫻井・渡井・白井の3人のパス交換からチャンスを創出する。

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4-4-2のセットだと中盤が足りない
  • 41分にはエドのオーバーラップと浜下で、徳元に対して2on1を作り、浜下のクロスに合わせた藤尾のヘッドで同点。クロスへ持ち込むパターンもだが、白井が岡山のセンターバック間に走り込んで柳の注意を引き付け、バイス・柳を越えたファーサイドで待つ藤尾。これもこの試合で繰り返し見られた型であり、開幕戦から際立っていた白井の運動量が報われた瞬間でもあった。

 

再現性のあった徳島の攻撃

  • 後半に入っても、ボールを保持する徳島vsカウンターを狙う岡山の構図。両チームともセンターバックを起点に攻撃を開始する点では似ているのだが、相手を引きつけたり躱すアクションを起こす徳島に対して、岡山の柳・バイスは比較的簡単にボールをリリースするシーンが多い。
  • これは優劣の問題ではなく、センターバックに何を優先的に求めるかという両監督の考え方が反映されていると言えるだろう。ポヤトスは空中戦を多少犠牲にしてでも、ボールを運ぶ能力や配球力を重視して内田と安部を優先する。木山監督なら内田のところはカカになるかもしれない。ともあれ岡山が継続的に攻撃を行うためには、フィードの先でターゲットとなるデューク・スペースへ走るウイングなど前線のどこかで優位性を作る必要がある。
  • ここでポイントになったのが列を上げる河井で、徳島のアンカー脇でパスを受ける・運ぶ・捌くをこなしながら岡山の攻撃の潤滑油となる。
  • 徳島は引き続き、ウイング・インサイドハーフサイドバックの関係性でインサイドレーンの攻略を目指す。

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徳島の攻撃の基本パターン
  • 徳島の攻撃の基本はニアゾーン(ポケットでもハーフスペースでもなんでもいいけど)の攻略。ここを深く抉ってマイナスの折り返しが、繰り返し見られたパターンになる。図では渡井の折り返しから白井のシュートで終わったシーン。
  • インサイドハーフの縦に抜ける動きは他の役割もある。センターバックがボールを持つ場合だと、ウイングへのパスコースを空ける役割。ウイングがボールを持っている場合には、ドリブルのコースを空ける役割。そしてカットインした西谷の視界に入るのは、シュートコース、4バックの大外で待つウイング、インサイドに絞ってくる逆サイドのサイドバック
  • 前線の運動量がカギを握る岡山は、58分にデューク→川本、72分にチアゴアウベス→木村。徳島は72分にエド→藤田のあと、78分に3枚替え。杉森・児玉・バケンガが投入される。
  • 短いプレータイムでも存在感を示したのは、渡井と交代でインサイドハーフに入った児玉だった。80分、ハーフスペースでパスを受けると大外へ走りこんだ杉森へピンポイントクロス。87分には中央から、またしても4バックの大外から走りこんできた杉森へスルーパス。いずれも「足下に合えば1点」のシーンだったが、僅かに及ばず。
  • 徳島が試合を支配する時間が長かったものの、決定機の数を抽出すればドローは妥当な結果か。

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雑感

 大勝スタートを切った岡山を相手にアウェイで、新生徳島の真価が問われた第一関門。内容は上々だった。攻撃では相手陣地へ人数をかけて出ていき、3人の連携でニアゾーンを攻略。岡山がパスを繋ぐ素振りを見せるとハイプレスで素早く回収。波状攻撃に繋げるなど、攻守両面で開幕戦から良化したように見えた。

 対戦相手として見たとき、今の徳島はなかなか厄介なチームであるように思う。2センターバックサイドバック(新井)+アンカーと攻撃の起点が4つあって「誰かを捨てる」という判断が難しい。全部潰そうと思うと最低でも4人のプレッシング隊が必要で、しかも3人は中央の3レーンに配する必要がある。中途半端に2トップで出ていくとアンカーが空くし、アンカーをケアするとインサイドハーフが浮いてしまう。この難題に、有効な解決策を提示するチームはどこだろうか。噂では"マンツーマン風味"の横浜FCなどは、徳島のビルドアップを破壊する可能性があるかもしれない。

 一方でミスからの失点やデュークの決定機・その後のPKなど、長谷川のビッグセーブがなければ前半で試合が終わっていた可能性もあった。昨年もJ1で、ミスによって自ら試合を壊してしまったことが何度もあった。昇格のためにはどこかで連勝を重ねる必要があり、イージーなミスは早い段階で無くしていきたい。

 櫻井の体でボールを隠しながら反転するプレーや、藤尾のポストプレーエドミドルシュートに、児玉のスルーパスなど、個々のプレーでも開幕戦とは異なる良さが垣間見えた。これからコンビネーションを深めていけば、さらに面白いチームが出来上がるのではないか。そんな期待を抱かせてくれる二戦目だった。