ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

【プレビュー】2021 J1リーグ第1節 大分トリニータvs徳島ヴォルティス

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 はじめに 

 2021シーズン、いよいよ新生ヴォルティスの航海がはじまる。7年ぶり二度目のJ1の舞台。初戦の相手は大分トリニータ。ほんの3シーズン前まで同じカテゴリーで戦っていたことが信じられないほど、随分と水をあけられた印象がある。地方(平たく言えば田舎)のクラブという共通点がありながら、大分は確固たるスタイルと的確な補強で着実に前進を続け、エレベータークラブの立ち位置から脱却しつつある。徳島にとって見習うべき点の多い対戦相手と言えるだろう。

 その大分は、地方クラブの宿命として今オフも多くの選手を失った。とりわけ大きな変化があったのはDFラインで、岩田(→横浜FM)や鈴木(→清水)が退団。これで、J1昇格に貢献した3バックは全員がチームを去ったことになる。その他にも田中達也、小塚、知念の移籍など少なからぬダメージを負ったものの、上夷(←京都)、渡邉(←新潟)、福森(←北九州)などの補強で「J2有望株コレクター」の面目躍如。さらに最前線に長沢、最終ラインに坂を加え、チームに芯が通った。

 徳島は、ダニエル・ポヤトス新監督、マルセル新コーチ、バトッキオ、カカといった新戦力がいまだに来日できていない状況。J2優勝に貢献した主力勢はほぼ残留させることに成功したものの、現時点でチームに上積みをもたらす選手が、藤田譲瑠チマ、宮代大聖に留まりそうな点がどちらに転ぶか。極めて好意的に現状を解釈すれば、何度も変身のチャンスを残しているともいえる。

 

試合のみどころ

 それでは試合内容を展望をしていきたい。この両チームはピッチ上でも目指すべき方向性が似てくるだろう。J1レベルで見たとき、ともにスペシャルな選手はいない。このためボールを保持しながら試合をコントロールし、アクシデントや個の力による失点のリスクを減退させたうえで、自らは少ない好機を確実にモノにしたい。

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 徳島は、漏れ聞こえてくる甲本ヘッドコーチや選手の声から察するに、今年はビルドアップの局面をセンターバックの選手たちに託し、セントラルハーフには可能なかぎり相手陣内で勝負してほしい、との狙いがあるそうだ。よって、福岡・内田には空いている選手を探す、相手が来ない時にはドリブルで運ぶなど、判断の正確性が昨年以上に求められることになる。

 左が田向、右が岸本でスタートすると仮定すると、ビルドアップの枚数は田向のポジショニングによって調整することになるだろう。たとえば徳島の2-2ビルドアップに対して、大分が片側のシャドウを上げてプレッシングにきたとき。徳島は田向を下げて最後列を三枚にし、空いた選手が持ち上がるパターンが増えることが予想される。この時は田向が対面の選手を引き付け、西谷に時間とスペースを当たることを意識させたい。

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田向の持ち上がりと西谷のカットインからクロス

 昨年のパフォーマンスを見ると、西谷のドリブルとカットインは今年も徳島の武器になるはずだ。逆足の西谷から放たれるクロスは、垣田を囮に一つ奥の選手を使うパターンも面白いだろう。特に三竿(175㎝)、香川(177㎝)はさほど上背がないので、徳島にとっては狙い目の一つとなる。おそらく右サイドハーフのスタメンは浜下が起用される(杉森が間に合わないと仮定して)のだろうが、ワイドストライカー的な役割を期待して宮代の起用もあり得るだろう。あるいは岸本の、眠っているストライカーとしての資質を解放させるか。

 

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 各媒体で[4-2-3-1]が予想されているところをみると、徳島は今年もボール非保持を[4-4-2]でセットするだろう。対して大分は3バック。おそらく徳島の出方を見ながら、3バックが横幅をとる、高木をビルドアップに組み込んで片側のセンターバックを上げるなどして、徳島のディフェンスにズレを生み出すことを狙ってくると思われる。特に4バックの泣き所でもあるチャンネル(CB-SB間)へ走る選手のマークの受け渡しなどは、徹底しておきたい。

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 もう一点、大分の新たな攻め筋になりそうなのが、坂のロングフィードだろう。これは2019年のJ1参入決定戦・湘南戦でも、苦しめられた彼の大きな武器。特に「[4-4-2]で中央を締めてサイドへスライド」といった守り方をするチームには効果的なはずで、これは徳島も例外でない。厄介なのは坂が右利き、キーパーの高木は左利きのため、左→右、右→左とどちらの展開も苦にしなさそうな点である。徳島の両サイドハーフにはハードワークが求められそうだが、頑張ってほしい。

 

まとめ

 徳島は監督交代の影響もあり、依然として不透明な部分も多い。対して大分は、片野坂体制6シーズン目。継続の強みもあるが、相手からすると「やりたいことは織り込み済み」な面もある。徳島は、大分の相手を引き込むビルドアップに対して、どのラインからプレッシングにいくか?後ろの選手がどれだけ連動できるか?も大きなポイントとなる。

 大分で楽しみなのは長谷川。昨年あたりからtwitter上でも評判をよく耳にする選手だ。徳島で期待したいのは宮代と藤田譲。宮代は上述の通り、ワイドストライカー的な役割で。無論ワントップでいきなり覚醒してくれてもかまわない。徳島が耐える時間も長くなりそうで、しかも大分はピッチを広く使ってくることが予想されるので、藤田譲の運動量も見てみたい。バランサーの岩尾と組めば、彼の推進力やボール奪取力は一層生きるだろう。

 「ダニエル・ポヤトス新監督、いまだ来日の目途立たず!」といった面ばかりが取り上げられるが、今のチームには団結力がある。なにより昨年から主力が入れ替わらず、お互いのやりたいことや長所が分かっているのは強み。リカルドが抜けて弱くなった、と思われるのも癪だろう。誰が監督だろうがピッチで戦うのは選手たち。「徳島の選手は逞しかった」と感じさせてくれる試合を期待したい。