ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

リカルド・ロドリゲスと過ごした四年間を振り返る ~そしてそれぞれの道へ~

 みなさまご無沙汰しております。お元気ですか。私は絶賛結膜炎中です。ブログを長らく放置しておりました。この間、徳島ヴォルティスさんはJ1昇格、J2優勝、まさかまさかのリカ将退任と、激動のシーズンを駆け抜けた感があります。ようやく昇格!しかもJ2チャンピオン!という成果が残ったのは素直に喜べることですよね。大いに注目された戦術面も含めて、結果と内容の両立という点からも、ヴォルティス史上最強と断言できるチームだったと思います。

 一方で、サポーターの心にまるで霧がかかったかのように快挙を手放しで喜べないのは、リカルドとJ1を戦えないという現実が突き付けられたからでしょう。マジかよ。あんた私を捨てていくのかよ。昇格が目前に迫ったとき、その成果はもちろん嬉しかったけれど、なによりサポーターが心を躍らせたのは「とうとうこのチームをJ1で披露できる」という喜びでしょう。残念ながらそれは叶わぬ夢となってしまいました。けれど来年以降の新体制に希望を繋ぎ、ピッチ上の現象を正しく評価していく意味でも、リカルドとともに戦った四年間を振り返ることは意義のあることだと考えます。全ての試合を網羅しているわけではないので、ところどころ記憶が曖昧だったり事実と異なる点があるかと思いますが、その際は遠慮なくご指摘くださいませ。それでは、時計の針を巻き戻す旅に出発しましょう。

 

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 この記事を書く前に、リカルドが新監督に就任する浦和レッズのサポーターである96さんと対談を行う機会に恵まれました。その内容を96さんが記事にしてくれていますので、こちらも是非ご覧ください。

www.urawareds96.com

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2017年・変革と限界(J2・7位)

 今から四年前の冬、一人のスペイン人が徳島の地へ降り立った。彼の名はリカルド・ロドリゲス。当時、徳島はおろか日本全国を見渡しても、彼の人となりや監督としての能力を知る人は数えるほどだっただろう。そんな彼は、新体制発表会で自分の哲学を熱く語りかけた。曰く「11の大事なこと」

 当時のヴォルティス界隈の反応は、半信半疑といった様子だったように思う。なにか熱そうな人だなと。理想は高そうな人だなと。だが彼には大きく欠けているものがあった。それは監督としての実績と経験である。

 

 彼の作り上げたチームは、開幕カードの東京V戦から強烈なインパクトを残す。前線からの連動したプレッシングとピッチを広く使った攻撃。「相手を窒息させる」という表現がピッタリの威圧的な守備から攻撃へ。サイドを深く抉り折り返したボールには、後方からの選手が次々と飛び出してくる。「これが徳島ヴォルティスか?」と、他チームのサポーターはもちろん、ヴォルティスのサポーターですら驚嘆した。

 その後もチームは、昨年までとは明らかに変わったところをピッチ上で表現し続けた。渡大生・山崎凌吾という若き2トップが前線で躍動し、島屋八徳・杉本太郎・前川大河らがライン間でアイデアを発揮する。相手の守備網を縦に広げるのが2トップの役割なら、横に広げ続けたのが馬渡和彰だった。SBとは思えない高い位置でボールを受けると、あとは彼の独壇場。岩尾憲が中盤の底でゲームをコントロールし、稼働率は高くなかったがカルリーニョスも武器のロングフィードで欠かせない活躍をした。悔やまれるのは、広瀬陸斗が故障で離脱がちだったのと、外国籍選手が1人でも当たりだったら…という点だろうか。

 

 一方で今思い返すと、このチームには明らかに足りないピースもあった。その代表格は、アタッカー陣に比べるといささか心許なく見えるディフェンス陣だろう。新加入の大崎玲央こそドリブルでボールを運んだり前線へパスをつけたりと新しいサッカーへの適応を見せていたが、前体制からの主力や他の新加入組はリカルドの要求に応えられていないように思えた。かといってとりわけ1on1が強いわけでも、スピードに長けたわけでもないスカッドは、カウンターやセットプレーでたびたび脆さを見せた。

 「押し込んでも勝てない」という試合が多かったのは「ロングボールなどで局面をひっくり返されるとDF陣の脆さが露になる」という要素とともに「試合をコントロールできていない」という点も大きかったと思う。「ビルドアップで時間とスペースを前線に繋いでいく」という作業が未成熟であるため、苦しくなると個人技やアイデア頼みになってしまう。このため「良くない形でボールを失う」というケースが多かったように思う。

 

 「ハマった時はとんでもなく強いが、脆さも同居するチーム」は、最終節の東京V戦で高い授業料を払うこととなる。何度も守備陣形を変えながら試合を狡猾にコントロールするロティーナと、それでも突っ込んでいくしかないリカルド・ロドリゲス。天下分け目の大一番を落としたチームは7位でシーズンを終え、すんでのところで昇格プレーオフ進出を逃すこととなった。

 

2018年・希望と崩壊(J2・11位)

 前年にインパクトを残す試合を続けながらも、昇格に失敗したヴォルティス。こうなると心配なのは主力の流出であった。幸いなことに「バリバリのレギュラー格」の移籍は渡・馬渡(→ともに広島)の2名に留め、シシーニョ、大本祐槻(←ともに岐阜)、ブエノ(←鹿島)、呉屋大翔(←G大阪)など新戦力が加入。「上手くいけば前年より強いんじゃないか?」というのが前評判であったように思う。

 が、蓋を開けてみれば移籍した2選手の穴は大きかった。リカルド体制二年目なので相手も徳島のやりたいことは痛いほど理解している。ボールは持たせてもかまわない。そのかわり5バックでレーンを埋めてしまおう。馬渡を失い大本も出遅れたチームはサイドで優位性を創出できず、渡の流出と山崎のケガが重なった前線は呉屋が潰される。「ボールは保持するがゴールの匂いが感じられない試合」が前年より明らかに増加した。DFラインからの運び出しに関しても、ベテランの石井が新境地を感じさせるプレーを増やしたり、二年目の井筒の台頭はあったが、期待のブエノにそれを求めるのは酷だった。

 

 山崎、大本といった負傷者の復帰に伴い、内容も順位も上向いてきたチーム。だが次に待ち受けていた試練は「夏の移籍市場」だった。DAZNの上陸によってJ1とJ2の格差が広がり、これまでの常識が通じない移籍市場。その最初の犠牲者が「選手を育てて売る」を掲げ、欧州の手法を先進的に取り入れてきた徳島ヴォルティスというのも皮肉な話だった。夏だけで大崎(→神戸)、山崎(→湘南)、大本(→長崎)、島屋(→鳥栖)と立て続けにレギュラーを失ったチームは、大幅な軌道修正を余儀なくされる。強化部もウタカ、バラルと前線をテコ入れし得点力不足の打開を計ったが、あとの祭り。昇格の望みが事実上絶たれたあとは、9試合(約二か月)にわたって白星なしという低空飛行でシーズンを終える。

 この年だけはリカルドの続投の発表が遅かったことを考えても、強化部と監督の間で相当な話し合いが重ねられたのだと思う。主力の流出にどう対応するか、またリカルド自身もいかにして引き出しを増やし戦い方をアップデートしていくか。両者に課題の残るシーズンだった。

 

2019年・上昇と落涙(J2・4位、J1参入PO決勝進出)

 このシーズンは補強の段階で、これまでとは異なる方針を感じ取ることができた。「20代前半の伸びしろの大きそうな若手」とともに「20代後半のJリーグで実績がある選手」を大量に確保。代表格がヨルディ・バイス(←長崎)、野村直輝(←横浜FC)、河田篤秀(←新潟)、清武功暉(←千葉)といった面々であった。リカルド勝負の三年目に向け、強化部も出来るかぎりの後押しはしたというスカッド

 

 だがしかし、チームは前年の流れを引きずったまま低空飛行を続ける。チームの最適解を見つけるのに苦心し、16節を終えた段階で4勝6敗6分。バイス・清武という「武器はあるがチームに組み込むのが難しい」選手が増えたこともあり、意思統一に時間がかかったのかもしれない。いずれにしろ、2018年終盤から2019年序盤にかけては、普通のチームならリカルドは首を切られてもおかしくない体たらくだった。

 選手の後日談によると、上昇のきっかけは13節の柏戦だったそうだ。0‐1で敗れた試合後、選手同士でミーティングを行い長時間話し合ったという。なんのために徳島に来て、このチームでサッカーをするのか。個人名は挙げないが、おそらく利己的なプレーを戒められた選手もいただろう。

 

 腹を割って話し合ったチームは徐々に上昇気流に乗り、終盤には破竹の快進撃を見せることとなる。前年までと異なり、バイス内田裕斗石井秀典とボール扱いを苦にしないメンバーを最終ラインに並べ、ボール保持時には[3-4-2-1]、非保持には[4-4-2]となる可変システムを披露。サポーターの間でも「運ぶドリブル」の重要性が徐々に浸透していったのはこの時期だったように思う。

 また左サイドをドリブルで切り裂く杉本竜士の台頭、チャンスメーカーかつ自分で決める能力も兼備した野村直輝、その野村を兄貴分として慕う渡井理己の成長によって、「攻撃に幅と深さを作ってライン間を攻略する」という2017シーズンの黄金パターンが復活。ただし一年目と大きく異なるのは、最終ラインから運び出すプレーが増えたことによって、より確実な形でアタッカー陣にボールが供給されるようになったことだった。

 「ボールを保持しながらリスク管理も行う」術を身につけたチームは、28節からの12戦負けなしを含め、ラスト15試合を11勝1敗3分で駆け抜ける。J1参入プレーオフでも甲府(1-1)、山形(1-0)を撃破し敵地で湘南に挑んだものの、あと一歩及ばず1-1。終了間際の鈴木徳真のミドルシュートは、リカルド体制下やヴォルティス歴史上の「if」として語り継がれることになるだろう。

 

2020年・継続と成熟(J2優勝)

 GK梶川(→横浜FM)、DFバイス(→京都)、内田裕(→鳥栖)、MF野村(→大分)、杉本(→横浜FM)とレギュラーの約半分を失いシーズンに臨むこととなったヴォルティス。一方で、上福元直人(←東京V)、ドゥシャン(←横浜FM)、西谷和希(←栃木)、杉森考起(←名古屋)と、穴埋めを期待できる選手を的確に補強し、前線には垣田裕暉(←鹿島)の加入。可能な限り戦力を維持しつつ、前線は明らかにパワーアップというスカッドでスタートする。

 コロナの影響でシーズンの中断、その後の過密日程でモノを言ったのは継続による積み重ねだった。肝となるDFラインからの運び出しは福岡将太、内田航平、石井秀典といった既存戦力が実行。加えて、足下の技術ならJ2でも随一の上福元の加入でビルドアップに安定感が増した。また各ポジションに2選手ずつ揃えられるほどの分厚い戦力層と小西雄大、渡井理己の成長。そして、加入一年目となるアタッカー陣もすんなりとリカルドのサッカーを理解しピッチ上で体現。抜けた選手の穴はおろか、補ってあまりある新加入選手の活躍と既存戦力の成長で「ヴォルティス史上最強」のチームは誕生した。

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 ドゥシャン・ジエゴが故障がちだったこともあり、スタメン・サブが全員日本人選手という試合も珍しくなかった今季。キャプテンの岩尾憲も「スペシャルな選手はいない」と常々口にする。監督の続投と一貫した補強による継続性。若手の成長。レギュラーの流出が激しいなかでも、リカルドサッカーの伝道師・岩尾を中心に新戦力の融合に心を砕いた既存戦力。そこへ新たな風を吹き込んだ新加入のアタッカー陣。どれが欠けてもJ2チャンピオンには届かなかっただろう。

 就任1、2年目あたりまでは一本調子な感じもあったリカルド。彼もまた、徳島の地でヴォルティスの選手とともに経験を積むことで成長し、見事なチームマネジメントを見せた。過密日程のなかターンオーバーを積極的に活用し、目先の一勝だけでなく先々の結果まで見据えた選手起用。それに応えた選手たち。私利私欲ではなく、まさに「何があっても助け合う」チームの、一つの集大成だった。

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それぞれの道へ

 リカルドが徳島の地に残した最大の功績はなんだろうか。今でもふとした瞬間に考えることがある。私のように戦術が好きな人、個々の選手が好きな人、スタジアムに通うのが好きな人、それぞれの立場で意見は異なるのかもしれない。一つ確かなのは、彼が徳島ヴォルティスのサッカースタイルを確立させ、スタジアムに熱狂を巻き起こしたことだろうか。

 「攻撃的で面白いサッカーをする監督」だったリカルド・ロドリゲスは「J2優勝監督」へ肩書を変え、浦和レッズという国内屈指のビッグクラブに挑戦することとなった。きっとその道は厳しく険しい。我々が彼のことを懐かしく思い出すように、いつの日か彼もまた、徳島で共に過ごした選手・スタッフ・サポーターの有難さを噛みしめる日がくるのだろう。

 リカルドという太陽を失った我々も、彼抜きでも自立したチームであることを証明する必要がある。岩尾をはじめ主力の多くが残る来シーズン、J1という力を証明するにはこれ以上ない舞台が用意された。

 

さあ、ダニエル・ポヤトスとともに旋風を巻き起こそう。

 

 

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 最後に。さようならリカ将。あなたが魅せてくれた最高に楽しく魅惑的なサッカーを、私たちは忘れないでしょう。心からの感謝を。そして、良い旅を。

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