ヴォルレポ

徳島ヴォルティスを分析するブログ

2018明治安田生命J2リーグ第29節 徳島ヴォルティスvsモンテディオ山形 ~選手は去っても魂は消えず~

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徳島サブ・GK吉丸、DFキム、MF内田航、内田裕、杉本太、狩野、FWウタカ

山形サブ・GK児玉、DF山田、松本、田村、FW阪野、北川、ブルーノロペス

 

 徳島ヴォルティスは前節の山口戦後、夏の移籍マーケット期限ギリギリで、大本が長崎、島屋が鳥栖へ完全移籍という、まさかまさかの事態が発生。負ければ確実にチームの士気にも影響するであろう、重要な意味を持つ一戦だった。悪いことは重なるもので、そんな試合に岩尾が出場停止。現有戦力の厚みと、残された者たちの意地が試される戦だったと表現できるかもしれない。

 

 モンテディオ山形天皇杯で柏・FC東京とJ1勢を相次いで降す健闘を見せている一方、リーグ戦は直近五試合を2勝3敗と一進一退の様相。とりわけウノゼロでの敗戦が二つ、複数得点は前節の東京V戦のみと、得点力不足に悩まされているチーム状況が窺える。「木山チルドレン」の一人でもある内田、楠神など夏のマーケットで加入した選手もスタメンに名を連ねる。

 

 

分水嶺となる一戦 

 プレビューでも触れたが、この試合が徳島にとって計りしれない重みを持つ一戦だったことは間違いない。大崎、山崎と、既に主力二人を引き抜かれていたところに、誰も予想出来なかったトドメの一撃。いや二撃。とりわけリカルド就任以降一年半の間、様々なポジションに適応しながらチームを支え続け、副主将兼ムードメーカーでもあった島屋の移籍は、サポーターだけでなくチーム内にも大きな影響を与えたであろうことは容易に想像ができる。(徳島加入から約半年、しかも怪我で出遅れていたにも関わらず移籍を選択した大本には違った意味で驚かされたが)

 まずこの試合で印象的だったのは、徳島の試合への入りが非常にアグレッシブだったことだ。最近は多くの時間帯で「ブロック形成からのカウンター」がお馴染みになっていたが、涼しくなった気候や前線に佐藤が入った構成の変化、なにより選手たちのこの試合に賭ける意気込みが大きかったのだろう。佐藤やバラルのプレッシングに連動して小西が高い位置まで出て行く。ボールを奪うと、前線のスペースやゴール前に次々と選手がなだれ込んでいく。奪われたボールは、二度追い三度追いで、あっという間に相手ボールホルダーを取り囲んでしまう。立ち上がり数分間で、期待を抱かさせるには十分すぎる内容だった。

 

試合を左右した3on2

 さて、試合のテンポが少し落ち着いてからの内容を振り返ってみよう。山形が、というよりも木山監督のチームが、3-4-2-1で挑んでくることは容易に想像できたなか、注目された徳島の左WBは杉本竜、そして前線はバラル・佐藤の2トップという構成だった。

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 試合を通して特徴的だったのは、バラルと佐藤のポジショニングである。今季はこれまで島屋が前線の一角に入ることが多く、彼の特徴でもあるライン間で受けてから反転するプレーや、DFライン裏への飛び出し、さらにサイドに流れて数的優位を作り出すといったプレーを見せることが多かった。

 この試合で前線に入った二人は、共に攻撃の基準点としての役割が果たせる選手で、ロングボールでの競り合いや相手を背負った状態でも質の高いプレーができる。このため、徳島としては中央に起点が二つ作れる状況。特にゴールキックスローインからの再開時には二人が近いポジションをとり、一人がボールを引き出す、もう一人はDFラインの裏を狙う動きを交互に繰り返すことによって、攻撃に深さをもたらすタスクも果たしていた。

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 山形のように、ミドルゾーンでは5-2-3でセットするチームにとって「いかに5-4-1で守る時間を短くするか」が、課題の一つになるだろう。前からのプレスがかかりにくい→5-4のブロックが押し下げられると1トップが孤立して陣地回復が難しくなる→更に押し込まれる時間が増えるといった悪循環に陥るからだ。

 一方で5-2-3の場合には、「2」の脇は相手が当然のごとく狙ってくるスペースとなり、ここは5バックからの迎撃守備で対応したい。ところがこの試合では、バラルと佐藤が中央に構えている。ボールが収まるうえに、一人は裏を狙う動きを繰り返すためにDFラインが押し下げられる。結果として3CBが中央にピン留めされたうえに、迎撃に出て行くには距離がありすぎるシーンが頻出することとなる。

 

 ダイレクトなビルドアップで佐藤とバラルを生かすだけでなく、山形のボランチ脇を利用する下準備も整った徳島は、低い位置からショートパスを繋いだ前進が増えていく。

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 多く見られた形は、まず広瀬が低い位置へ下りる、井筒がタッチライン際まで開くことによって擬似4バックを形成。井筒を経由する場合は、前川、シシーニョ、バラルと足技に長けた選手が近い距離でパス交換を行ってから、小西へボールを届ける。またある時は、杉本竜がタッチライン際でボールを持つと、井筒がハーフスペースを突撃。逆サイドの広瀬を経由する場合は、直接2トップへ送るボールや、杉本竜へのサイドチェンジなど、よりダイレクトな展開が目立っていた。

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杉本竜がボールを持てば井筒がハーフスペースへ突撃


 対する山形は、本田・安西の脇のスペースへ度々突撃してくる井筒・小西を捕まえるために、両シャドウが中盤から後ろのラインまで下がらざるを得ないシーンが増える。徳島のボール保持時間が長くなるほど、徳島の選手のポジショニングによって位置どりが左右され、フェリペ・アウベスが孤立する。序盤こそ1トップ+2シャドウで、徳島の3CBへプレッシングを見せていた山形。だが4バック化で守備の基準点をずらされたことを契機に、5-4-1で押し込まれる時間が長くなっていった。

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トランジションで窒息させる 

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 上述の「左サイドの数的優位を生かしながら前進していく」スタイルは、守備(主にネガティブトランジション時)においても重要な役割を果たしていた。徳島はたとえボールを失っても守備対象が明確なので、アプローチをかけやすい。加えてボールホルダーが出しどころに迷っていると、シシーニョが猛然と加勢してきて数的優位を作り出す。このため、徳島左サイドからの攻撃→山形がボールを奪う→徳島の守備網から抜け出せずに奪い返される、という展開が繰り返される事になる。本田・安西へのマークが緩くなると見ると、FWが積極的にプレスバックを行っていたのも見逃せない点だ。逆サイドへの展開を許してもらえない山形は、小林・内田というストロングサイドをなかなか生かせない時間が続く。序盤はカウンターからキレのある動きを見せていた小林が、時間の経過と共に徐々に存在感が消えていったよう見えたのは、このような理由もあったのではないかと考える。

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 山形のロングボールを用いたダイレクトなビルドアップに対しては、こちらもシシーニョが加勢してセカンドボールを拾う。徳島の佐藤・バラルが一人二役なのに比べると、こちらはターゲットになるフェリペ、セカンドボールを狙う小林・楠神と役割分担が比較的はっきりしている。まずはフェリペを潰すことに注力できるため、山形に比べると守備陣は対応しやすかっただろう。

 

シシーニョ対策を用意するも・・ 

 バラル・佐藤が近い距離感を保ちながら抜け出しを図ったプレーから得たFK。内田の裏のスペースへ走りこんでペナルティエリアに侵入して得たPK。自ら獲得したセットプレー2つを沈めたバラルの活躍で、2-0で折り返した徳島に対し、後半山形の戦い方には大きく二つの変更点が見られた。

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 徳島のビルドアップに対して、5-2-1-2に変形し楠神をシシーニョ番として用意する。2トップはボールサイドのCBから捕まえていき、4バック化にはWBの「根性見せろ縦スライド」で対応する形をとった。これにより、シシーニョがオープンな状態でボールを配球するプレーは減ったが、2DHの脇が空きやすい構造は変わらない。そしてWBの縦スライドによってフリーになった杉本竜や小西が、カットインから積極的にシュートを放っていくようになる。

 山形のポジティブトランジション時にも、フェリペ・小林・楠神の3枚が中央付近に密集してしまうことになり、その前に陣取るシシーニョにカットされてしまう。「シシーニョ番を用意した結果、シシーニョ防波堤を越えられなくなる」というのは皮肉な光景だった。

 

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 続いて山形は、この日もキックの精度がなかなか定まらない櫛引からロングボールを蹴っ飛ばすのを諦め、本田がDFラインの間に降りてくるなど、繋ぎながら前進を図ろうとする姿勢を見せる。

 だが3枚ビルドアップにしろ4枚ビルドアップにしろ、数的優位による貯金を前線まで送り届けることに苦労していた。例として上に示したシーンでは、坂井がドリブルで持ち上がろうとする姿勢は見せるが、小西がアプローチをするとすぐ、斜め後ろのCBに返してしまう。徳島は中盤においてもCBのマッチアップでも、数的優位の状況からスタートしているため、前向きのベクトルで守備を行える時間が続いていた。

 たとえば解決策の一つとして「櫛引をビルドアップに組み込めば徳島がどういう変化を見せるか?」は興味深いところであったが、前半のキックの精度を考えると、キーパーを積極的に使うのは怖いという山形側の考えも理解できる気がする。

 

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 山形は65分の選手交代を機に、3-1-4-2へ変更。2点を追いかける状況でもあり、時間の経過と共にロングボールや低い位置からのクロスボールが増えていく。徳島のDF陣がそれを跳ね返すと、安西の脇でボールを収めるウタカとバラル。途中交代で投入された杉本太が積極的に絡むことによって、少ない人数でフィニッシュまで持ち込む。結果的にバラルはこの日4ゴール。ニューヒーローの誕生によって、徳島の大勝で試合は幕を閉じた。

 

雑感

 バラルの活躍が頼もしかったのは勿論ですが、選手の反発心のようなものをプレーの一つ一つから感じ取ることができたのが何より嬉しかった。ナニクソ魂。去年からリカルドの下で牙を研いできた者、主力の移籍によって再びチャンスが与えられた者、そして主将不在の穴を埋めるべく奔走した者。インテンシティは最後まで落ちることなく、球際の攻防で負けない。一人が交わされても二人目三人目が連動して動く。シシーニョは圧巻の出来。選手が入れ替わっても、チームのスタイルと魂は確かに根付いていた。