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徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2018明治安田生命J2リーグ第22節 徳島ヴォルティスvsロアッソ熊本 ~個が組織をぶち破る~

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徳島サブ・GKカルバハル、DFブエノ、内田裕、MF前川、狩野、FW佐藤、藤原志

熊本サブ・GK畑、DF高瀬、植田、MF上原、中山、林、FW巻

徳島vs熊本の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年7月7日):Jリーグ.jp

 

前回対戦時の記事はこちら

2018明治安田生命J2リーグ第2節 ロアッソ熊本vs徳島ヴォルティス 〜チームの核となる優位性〜 | ヴォルレポ(仮)

 

 この試合から、二回り目の対戦に入るJ2リーグ。前節はホームで、首位・大分に快勝を果たした徳島ヴォルティスは、引き続き3-1-4-2のシステムを選択。湘南への完全移籍が発表された山崎に代わり、杉本竜がCFに入る。

 

 18位と、徳島以上に苦しい戦いが続くロアッソ熊本。1-3の敗北を喫した松本戦(H)から多々良→小谷とCBを一名変更。前回対戦時は第二節。徳島にとっては開幕二連敗となる苦杯をなめさせられた相手だ。

 

 

熊本による新生・徳島対策

 大分戦では新たな一面を披露した徳島。引き続きこの試合でも、守備時には5-3-2でセットするを採用した。前節の試合後に、大分・片野坂監督が「徳島は勝ち星から遠ざかっていることもあり、戦い方を予測するのが難しかった」という趣旨のコメントを残していたが、熊本は当然ながら徳島-大分の試合をスカウティングしてこの試合に臨んできたはすだ。そして立ち上がりから、その対策を存分に披露してきた。

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 熊本は3CB+1DHで菱形を形成。村上が低くポジショニングすることによって徳島の一列目の監視から逃れ、パスの配球役となる。下りてくるDHは徳島の2CFの間に位置する。2CFをピンどめする役割を担うと共に、村上とパス交換を行う。DHにパスが入ると、前進を阻害しようとする徳島のCFが寄せてくる。すると村上へリターンパス。村上はそのパスを適宜左右に振り分けることによって、徳島のCFを動かしたサイドから前進し、再現性のある形として徳島の一列目を突破していった。

 また、2CFの間でパスを受けることの多い米原は、大柄の割に細かなステップが巧みで、徳島の寄せが甘いと見ると素早く反転して前進する。高い位置からプレッシングをかける必要がないため体力の温存には繋がったかもしれないが、ボールに触れない、左右に振られる、間のケアも怠れない、と島屋、杉本竜の両選手にとってはフラストレーションの溜まる展開だっただろう。

 

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 徳島の一列目を突破したあとの熊本は、①シャドウの引く動きによってCBをつり出し裏のスペースを皆川がアタックする 、②皆川・安の擬似2トップ(場合によっては田中も加わった3トップ)にロングボールを放り込む、③シャドウ・WB・DHの動きで徳島の3CHを動かしてからサイドを変える、といったあたりが、主な攻め筋として繰り返し見られた形。

 特に、皆川・安のようなタイプが前線にいる割には、想像以上にショートパスを繋いでくる(それが徳島にとって嫌な形だったのかは分からないが)熊本は、③のパターンを多用していた。シャドウやDHが徳島のIHの脇に顔を出すことによって、CBに時間とスペースを与えビルドアップの出口として活用する。これをサイドを変えながら繰り返すことによって、徳島の3CHにスライドを強要させながら隙を見いだそうとしていた。

 

 

山ロスに苦しむ徳島

 一方で山崎のいなくなった徳島は、更にロングボールの割合が減ったように映った。代わりに前線に入った杉本竜は個人技に長けた選手ではあるが、「前向きで仕掛けさせてなんぼ」の選手であり「タメを作って周りを生かす」や「味方のためにスペースメイクする」といったプレーが得意なわけではないのだろう。やはりサイドで使った方が持ち味が生きる印象で、中央でのプレーは窮屈そうに映った。

 

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ボールの位置を基準にポジショニングする熊本の二列目


 ただ、この試合に関しては徳島の戦力低下よりも、熊本の守備の堅牢さが賞賛されるべきだと思う。熊本の撤退守備は5-4-1。1トップの皆川はシシーニョの周辺に位置しながらCB→シシーニョへのパスを警戒する。だが3CB+シシの4人を1人でケアすることは無理な相談であり、皆川も、左右に振られるパスに対して無駄追いをすることはしない。

 

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 ワントップでセットする弊害である、「ファーストディフェンスゆるゆるになりがち問題」。熊本は二列目の四枚をコンパクトに保ち、ゾーンディフェンスの完成度を高めることによって対策を示していた。横幅を狭めることによって徳島の縦パスを阻害する。ボールの位置を基準に全体がスライドしながら、チャレンジ&カバーの原則を守り、ボールホルダーが前進する動きに対して圧力をかける。こうして徳島の攻撃をサイドに追い込んでいき、ボールを奪うと裏のスペースを目がけてカウンターを仕掛ける。

 熊本が敷く堅固なブロックの中へと、なかなか侵入できない徳島は、岩尾が何度か狙ったミドルシュートも空砲。サイドもWBに蓋をされているため低い位置からのクロスが増える。アーリークロス人海戦術で跳ね返され、高いクロスは合わせられる選手がいない。CF不在の影響をもろに感じさせられる展開だった。

 

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 もどかしい時間が続いた徳島は、なんとか打開を図ろうと後半開始からギアを上げたようだった。一列目の二人が熊本のCB+DHでのパス回しを積極的に追いかけるようになる。呼応するようにIHもポジションを上げてプレッシングに出る。岩尾や小西が、敵陣まで何度も出て行く動きは、前半にはなかなか見られなかったものだ。守備時における全体の重心が高くなったことによって、シャドウやWBの引く動きに対しても近い距離感で迎撃できるようになる。これによって熊本は、ビルドアップの出口として機能していたCBからアバウトなロングボールが増え、ボール保持の時間が削られていくことになる。

 

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 徳島は53分に、杉本竜に代えて狩野を投入。前線の運動量を補強するとともに、この交代によって前半は不明瞭だった2CFの役割分担が明確になる。マイボールになるとスペースを見つけてボールを引き出すタスクを担う狩野。狩野が時間を作ってくれるので、周囲の選手は安心して追い越す動きが出来る。これによって生まれた流動性に付随して、岩尾が大本と入れ代わる動きで積極的にWBの裏のスペースを狙ったり、広瀬がインナーラップを見せて攻撃に厚みをもたらすようになる。前半からゴールキックの的としても奮闘していた広瀬は、PA内で大本のクロスに合わせる好機を迎えるも、放たれたシュートは残念ながらサイドプレーヤーのそれであった。

 

モノが違った救世主

  80分には井筒→ブエノで攻撃の切り札を投入。ブエノはいきなり快足を披露して狩野のスルーパスに抜け出すと、徳島はその流れから逆サイドに展開。右サイド大本のクロスに、ブエノが黒木の背後で合わせる見事なヘディングシュートを突き刺し、84分に先制。すると、ゴールを決めたブエノが今度は5バックの中央に陣取り、熊本の攻撃を跳ね返す。残り10分で美味しいところを全て持っていったブエノの活躍で、徳島が勝利した。

 

 改めて「選手の質」について考えさせられる試合だった。前回は「徳島の良さを消しにきた」印象の強かった熊本だが、今回は、ボールを持っても勝負できます!撤退守備もちゃんと仕込んでます!と、いずれの局面においても組織的なサッカーを披露した。ただそれゆえに、フィニッシュにおける火力不足が目立ったのもまた事実だ。熊本の試合は、徳島との対戦以外見ていないが「いつもこういう感じなのだろうな」と容易に想像できるというか。

 

 一方で、山崎を失った影響に苦しみまくり、熊本の堅い守備をなかなか打ち破れなかった徳島。後半には流動性が生まれたものの、こちらもゴールまでの道筋がなかなか見えない試合だった。それを1プレーで流れを変え、そのままゴールも奪ってしまったブエノの身体能力。熊本の選手たちの足が止まり、疲労度マックスだったであろう時間帯を考慮しても驚異的な働き。山形戦では奮闘がチームの勝利に繋がらなかったが、今度こそ本当のヒーローとなった。

 

 いずれにしろ徳島にとって、夏の補強の目玉である(そして活躍次第ではJ2のパワーバランスをひっくり返してしまうかもしれない)、ウタカを使えるようになるまでの、この熊本戦、そして次の愛媛戦は、一つの正念場だった。元々CFがいないところに、山崎も抜かれてしまった。だが後半戦の巻き返しのためには、相手の順位を考えても落とすわけにはいかない二試合。どのような形であれ一つ目の関門を突破したという点において、大きな勝ちだった。