2018明治安田生命J2リーグ第15節 ツエーゲン金沢vs徳島ヴォルティス ~あちらを立てればこちらが立たず~
金沢サブ・GK田尻、DF石田、廣井、MF小柳、加藤、FW佐藤、垣田
徳島サブ・GKカルバハル、DF藤原広、内田裕、MF杉本竜、大屋、FW薗田、藤原志
怪我人続出という厳しいチーム状況ながら、5月は負けなしの三連勝中と好調の徳島ヴォルティス。 前節・京都戦(H)で顔面を負傷した狩野に代わり島屋がスタメンに復帰。また杉本竜が外れ、こちらも京都戦で頭部を負傷した佐藤が、保護キャップを着用した状態で2トップの一角に入る。中盤はシシーニョを底に配したダイヤモンド型の4-4-2。
前節は松本(A)に0-5の大敗を喫したツエーゲン金沢だが、スタメン変更は垣田→杉浦の一名のみ。主力を残留させつつ清原の獲得に成功するなど、伸びしろの大きそうな若手が多いチーム構成も相まって、開幕前はダークホース候補として名前が挙がることの多かったチームである。指揮を執るのは二年目を迎えた、柳下正明監督。昨年の対戦時から一貫してオーソドックスな4-4-2に取り組んでいる。
金沢の先制パンチ
前節5失点したというチーム事情もあり、まず徳島DFラインの裏、サイドのスペースへと長いボールを蹴りこんでくる金沢。右SB毛利の突破から得たFKを、藤村が低いボールをゴール前に入れ、ニアで合わせた杉浦が方向を変えるも、ボールは左ポストを直撃。続くプレーでは、清原のロングボールにマラニョンが石井・大﨑の間を狙う動きで、あわやのシーンを演出する。ここまで僅か3分と少し。いずれも向かい風を計算した、低い弾道のキックを活用し立て続けにチャンスを作る。
試合前インタビューで「徳島で警戒する選手は?」に「シシーニョと島屋」と答えていた柳下監督。特にシシーニョ対策は明確で、ビルドアップ時にDFラインの一つ前にポジショニングすることが多いシシーニョに対して、2トップが縦関係になることによってクリーンなビルドアップを阻害していた。(これはvs徳島でいえば、岩尾対策として多くのチームが見せる形でもある)
上述した金沢の決定機、前からのプレッシングもあり、徳島も立ち上がりは長いボールを選択するケースが目立つ。このため安定的にボールを支配するようになるまで、少し時間を要した。
ロングボールを使うことが多い金沢の攻撃だが、ロングパス、ショートパス共に攻撃の型は一貫していて、縦パスを入れる→落とす→前向きの選手が受ける→奥へ走りこむ選手へ送る、といった手順を繰り返す事によって陣地を獲得していく。特に、マラニョンが石井のところで起点となり、その裏へ杉浦や宮崎が飛び出すというパターンは繰り返し狙っていた。
またSHがハーススペースへ移動する事によって、ビルドアップの出口となると共に、大外のレーンを空けてSBのオーバーラップを促したり、CFがハーフスペースで起点となる場合にはSHとDHで三角形を形成。SBがオーバーラップすることによってサイドで数的優位を作り出し、逆サイドのSHはダイアゴナルにバイタルに飛び込んでくるというパターンも、再現性をもって披露していた形。
4-3-3で守る徳島にとって、SBのケアは泣き所の一つであり、特に流動的に動く島屋がいないサイドを起点に、ボールを前進させていく金沢の攻撃だった。
右サイドからの前進と金沢の変化
一方、金沢の出方を確認した徳島は、15分を過ぎたあたりから、ビルドアップの形を変化させていく。具体的には、井筒・石井・大﨑で3バックを形成し、その一つ前へシシーニョ、大本は右サイドの高い位置をとるようになる。また逆サイドのSHもボールサイドに絞ってくる金沢の攻撃は、トランジションにおいては諸刃の剣でもあり、マラニョンの周辺を起点にしたい金沢vsボールを奪うと右に展開し、大本のところでアイソレーションを作る徳島といった構図が強く表れるようになる。
縦に突破してのクロスだけでなく、立て続けにカットインからのシュートを許した大本の対面の沼田は、一連の攻防が終わった26分に石田と交代させられてしまう。石田は右SBに入り、毛利が左SBへ。昨年の対戦時も同様だったが、パフォーマンスが奮わないと判断された選手は、前半だろうが容赦なく交代させられてしまう、恐るべきヤンツー塾。だが昨年は無念の交代に悔し涙を流していた宮崎が、10番を背負い見事な選手に成長しているところを見ると、操縦術・育成力は確かな監督なのだろう。
右サイドで大﨑→大本の関係性が確立されたこともあり、前半の途中から左サイドに流れ、井筒のオーバーラップとで数的優位を作ることが多かった島屋だが、後半からは左WBに入り、スタートは3142、セット守備時には532の形を採用するようになる。
5-3-2の意図と欠点
上述のように金沢の攻撃は、SHやCFがレーンを移動する事によって徳島の守備にギャップを作りだし、そこを使いながら前進していくことに特徴があるように見えた。また一列目が3枚では、どうしても片方のSBが空いてしまうことが多くなる。ならば、後ろは5枚でセットした状況を作り出し、レーンを埋めて迎撃できる態勢を整える。SBが出てくれば、その裏へ2トップを走らせ全体を押し上げてカウンターを狙う。といったあたりが、最大の狙いだったのではないかと考える。
守備の堅固さは担保されたが、前半はスペースを見つけて自由に動いていた島屋がサイドに固定されたため、攻撃の流動性は無くなっていた。特に、ハーフスペースから前進しても菱形の頂点に入る選手がいない、もしくは遅れるため、サイドでの単純な突破からクロスぐらいしか得点に繋がりそうなパターンが無かった。
見かねた徳島は、60分に佐藤→杉本竜。杉本が左WBに入り、島屋は前線に移る。この交代の成果は最初のプレーからいきなり表れることになる。
これに対し金沢は、加藤、佐藤と前線をフレッシュな選手に入れ替えながらカウンターを狙う。特に後半は追い風を生かして、ミドルレンジからでも積極的にシュートを連発し攻撃を完結させる。金沢のネガトラの怪しさは、徳島にとって狙い目の一つだったように思うが、後半は気象条件も味方してくれなかった。
徳島もボールを前進させることは出来ていたものの、山﨑一枚ではどうしてもゴール前の迫力に欠ける。彼をゴール前の仕事に専念させるなら、もう少し幅広く動けてビルドアップにも関与できるFWが必要だし、逆に山﨑にビルドアップの手伝いをさせる(彼はそのタスクも出来る)なら、相方にはもう少し具体的な数字が計算できるスコアラーが欲しい。つまり山﨑へのマークを分散してくれるような存在が。リカルドも頭が痛いところだろう。
試合はスコアレスで終了。
雑感
最近の戦いぶりで顕著なのは、スコアが大きく動いていない、残り時間が20分30分と残っている段階でも、5-3ブロックを形成してタックルラインを下げ、相手を引き出すような形を見せていること。それが結果的に4試合連続クリーンシートにも繋がっているが、昨年よりも現実的な方向に舵を切っているのは間違いないだろう。
続出する怪我人、思うように伸びない勝点、エンタメ性は高くても勝負弱かった昨年の反省、様々な要素が絡んでいるのだろうが、興味深い変化でもあると思う。
「だってこのメンバーじゃ2点も3点も獲れねえじゃん」というのが本音なのかもしれないが、少なくともリカルドの「やりたいサッカー」とは乖離しているはず。戦力を鑑みて止むを得ず選択した手法が、彼の監督としての引き出しを増やし、柔軟性に寄与しているのだとすれば、喜ばしいことではないだろうか。