2018明治安田生命J2リーグ第19節 徳島ヴォルティスvsレノファ山口FC ~レーンと列をめぐる攻防~
徳島サブ・GKカルバハル、DFブエノ、井筒、広瀬、MF小西、狩野、FW薗田
山口サブ・GK村上、DF瀬川、ジェルソン、MF佐藤、大﨑、高柳、FW岸田
徳島vs山口の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年6月16日):Jリーグ.jp
福岡、町田と上位との対戦で痛い連敗を喫した徳島ヴォルティス。前節・町田戦(H)からは杉本太→杉本竜とスタメン変更があり、4-3-3の山口にシステムをかみ合わせるかのように3-4-1-2でスタートする。なおサブからも外れた杉本太は、後日「全治6~8週間の怪我」とリリースがあり、復帰は早くても8月下旬~9月あたりになる模様。
レノファ山口は、ヴォルティスの前身・大塚製薬サッカー部でコーチ経験があり、近年はJFAで約8年間、技術委員や年代別代表の指導者を務めてきた霜田正浩氏を2018シーズンから新監督に招聘。ここまで2位と躍進を続けている。何と言っても目を引くのは、大分と並んでリーグトップの33得点。好調なチーム状況を証明するかのように、三試合続けて同じスタメンで徳島戦に臨む。
3-4-1-2の狙いと山口の守備
町田戦の4-4-2ではなく、3-4-1-2で試合を始めたこの日の徳島。おそらく、後に判明した杉本太の怪我による不在が、大きな影響を与えたのは確かだろう。中盤ダイヤモンドの4-4-2は使えない。では、4-3-3で挑んでくることが予想される山口を相手に、どのように試合を進めるべきだろうか。
試合後の徳島の選手のコメントからは、岩尾・シシーニョの2DHでこの試合に挑んだことについて、山口の攻撃力を考え守備の部分を重要視したといった類のものが多く聞かれた。ここではまず、徳島がボールを保持したときのマッチアップを考えてみよう。
両チームのシステムのかみ合わせを考えると、上図のような展開になることが予想される。徳島は3バック、4バックに関わらず、基本的に後ろは3枚でビルドアップを開始するのが、基本パターンとなっている。前述した4-4-2の場合でも、ビルドアップ時にはSBの一人(主に右の大本)が高い位置をとり、3バック化していることが多い。
では3-4-1-2でスタートすることのメリットは何かと考えると、最初から大外のレーンに二人配することができる。攻撃的なチームらしく高い位置からプレッシングに出てくる山口に対し、山口の前線の3、中盤の3と形をかみ合わせる。こうして大外に位置する選手を相手チームの監視から逃し、4バックの外で位置的優位を保つアタッカーを両サイドに用意することが出来る。山口の圧力が強ければ、GKもビルドアップに組み込みながら前線にボールを届ける選択肢もあるだろう(GKを組み込んだパターンについては、前節・町田戦の記事を参照していただきたい)
対する山口の守備が巧みだったのは、安易に数的同数の形を作らなかったことである。小野瀬は内田裕、オナイウは石井と対面の選手を捕まえるが、高木大は大﨑と大本の中間ポジションをとり、パスコースを消した上で、運ぶドリブルを行う大﨑へアプローチしていく。また中盤からのバックパスに対して、山下・池上といった選手が大﨑へ二度追いしていく際には、高木大は大本を捕まえて5バック化も厭わない守備を見せる。この一工夫によって、徳島が活用したかったであろう位置的な優位性を消す。また最終ラインで数的優位を確保することにより、島屋が列を降りてライン間でパスを受けようとする動きに対しても、主に坪井が積極的に迎撃守備を見せて対応していた。
デザインされた山口の攻撃
山口のビルドアップは上図のようになる。アンカーの三幸がCB間に落ちて両SBを押し上げる。徳島のWBは 山口のWGによってピン止めされているため対応が遅れ、時間とスペースを得やすいSBがビルドアップの出口として機能することが多かった。
とはいえWBの前が空きやすくなってしまうのは、徳島にとっても想定内のことだろう。逆に言えばあえて捨てているスペースでもある。山口が見事だったのは、ここから崩しのパターンを複数用意していたことだ。主にそれは、WG・IH・SBの「チェーンの動き」によって効果を発揮する。ボールサイドではこの三人が、大外レーンとインサイドレーンで三角形を作りながらポジションをローテーションさせる。また、三幸と池上が近いポジショニングでボールを繋ぎながら前進し、インサイドレーンで待つIHにフリーでボールを届けるといったパターンも見られた。
もう一点、山口の選手の動きで面白いなと感じたのは、徳島の選手のマークが緩くなったとき。例としてはボールホルダーがオープンな状態で前進できた場合である。このとき、ポジションに留まりボールホルダーと正対し、フィルターの役割を果たそうとする徳島の2DH。対して山口の選手たちは止まってパスを受けるのではなく、前方へのフリーランニングによって徳島の守備列を越えていく動きを見せる。これによってライン間で活動する選手を増やし、基準点の役割を果たすオナイウへの楔のパスから徳島のDFラインをアタックする。41分の小野瀬の同点ゴールも、この前方へのフリーランがきっかけとなり生まれたものだった。
ここまでお読みいただければ分かると思うが、山口の繰り出す攻撃も、レーンや列の移動など位置的な優位性を強く意識したものである。だからこそ、相手にそれを活用される面倒くささも理解しているのだろう。
徳島は前半の半ばを過ぎたあたりから、島屋が右サイドの低い位置に積極的に顔を出すようになる。これにより高木大の注意を引きつけ、大本と鳥養の1on1からのクロスでチャンスを創出していく。試合はCKの流れから、石井のヘディングで徳島が先制。41分には高い位置でボールを奪った山口が、前への意識が強いランからゴール前へ複数選手を送り込み、最後は小野瀬が押し込んで追いつく。スコア以上に見応えのある、濃密な45分間だった。
縦への意識を強める両チーム
HTを挟んで迎えた後半戦、立ち上がりから山口の守備が少し変化したように映った。具体的には、高木大が対面の大﨑へ高い位置までアプローチしていくようになり、大本のポジショニングに関わらず前残りするようになる。このあたりの狙いは霜田監督に聞いてみないと分からないが、HTに何らかの指示があったのだろう。
これにより、大本のスピードを生かした突破を主な攻め筋としながらも、島屋のポジショニングで数的優位を作り出し、山口のDFラインを直接アタックするようになる徳島。一方、奪ったボールは素早く数的同数の前線へ送る山口という傾向が強まり、両チームともより縦への意識が強く感じられる展開になっていく。素早いトランジションが要求されるなか、山口で目立ったのは右SB・前の動きである。
彼が斜めにポジションを上げ、インサイドレーンへ移動することによって池上が逆インサイドレーンへ移動。山下はオナイウと擬似2トップを形成する。また三幸がボールを持った際にも、前へのパスコースを警戒する必要性が生じるため、前川のアプローチが甘くなる。山口の勝ち越しゴールも、背後の前が気になり前川の寄せが遅れたところ、時間を得た三幸が小野瀬へ正確なフィードを蹴ったことから生まれた。
山口に勝ち越しを許したが、徳島にもチャンスは残されていた。攻撃時には相変わらず山口の両WGが高い位置をとり、トランジション時には積極的に人を捕まえにくる。このため中盤の「3」のところを徳島がひっくり返せば、両サイドの位置的優位を生かせそうなシーンもあった。
その後、時を同じくして、山口は鳥養→大﨑、徳島は杉本竜→狩野。山口は小野瀬・高木がWBに下がり、大﨑がIH、山下がCFに入る3-1-4-2。徳島は狩野をトップ下に配した4-4-2へと変更する。
鳥養→大﨑の変更は一見攻撃的な采配に見えるものの、守備時には両WBを下げ明確に5バック化することによって、徳島の大外に位置する選手のマークをはっきりさせる。奪ったボールは2トップに当て押し上げる。徳島は中盤の流動性を上げ、ライン間で受ける選手を活用したいところだったが、山口は5バックからの積極的な迎撃守備で対抗する。
徳島は75分、広瀬の投入とともに3-1-4-2へ再びの変更。山口の2CFに3CBで数的優位を確保した上で、広瀬・大本の両サイドを中心に攻撃を仕掛けるもゴールを割ることはできず。巻き返しが必要な徳島にとっては痛すぎる、上位対決三連敗となった。
雑感
噂には聞いていたが、山口は想像以上の好チームだった。デザインされたビルドアップ、明確な狙いを感じさせる攻撃の再現性、迅速なネガティブドランジション。そして先制ゴールに象徴される、各選手の前への意識の高さ。
小野瀬やオナイウなど能力の高い選手を擁しているのは確かだが、それ以上にチームとしての完成度を感じさせられる試合だった。そして、リードを奪うとしっかり5レーンを埋める手を打ってきた霜田監督の好采配。
本気で日本代表を強化したければ、JFAはこのような人材こそ大切にすべきなのでは?と思えてならないが、そうは問屋が卸さないところがJFAならびに田○氏の闇なのだろう。いろいろと。おかげで戦国J2に、また魅力的で厄介なチームが増えてしまった。