2018明治安田生命J2リーグ第18節 徳島ヴォルティスvsFC町田ゼルビア ~君はポジショナルプレーと心中する覚悟があるか~
徳島サブ・GKカルバハル、DFブエノ、広瀬、MF狩野、杉本竜、小西、FW佐藤
町田サブ・GK高原、DF藤井、MF李、平戸、土岐田、土居、FWバブンスキー
徳島vs町田の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年6月10日):Jリーグ.jp
五月は無敗だった徳島ヴォルティスだが、前節・福岡戦(A)で六試合ぶりの黒星。福岡戦から井筒→内田裕、杉本竜→杉本太と二名のスタメン変更があり、杉本太の復帰に伴ってフォーメーションは4-4-2。なおミッドウィークに天皇杯・栃木戦(H)が行われており、控えメンバー中心の構成だったが1-0で勝利。その試合のスタメンからは、杉本太、内田裕が連戦となる。
ここまで四位と好調のFC町田ゼルビア。五年目を迎えた相馬直樹監督の下、コンパクトな4-4-2からの堅守速攻という明確なゲームモデルを磨き続けている。同じ系譜のA・マドリードの躍進などもあり、戦術的観点からも注目度の高まっているチームの一つといえるだろう。こちらも天皇杯・岡山戦(A)を延長の末1-0で勝利。奥山・大谷・下坂・杉森の四選手が連戦となるが、左SBに入った下坂以外は、直近のリーグ戦とほぼ同じメンバーである。
蹴りたいスペース
両チームの選手特性の差、志向するサッカーの違いを考慮すると、この試合が「ボールを保持しながら好機創出を狙う徳島」vs「コンパクトな陣形から堅守速攻を繰り出す町田」という展開になることは予想が出来た。4-4-2のゾーンディフェンスで待ち構える町田。ボールを握りたい徳島はポゼッションで「ボールと味方の位置」を優先して守る町田の陣形を、能動的にコントロールしながら試合を進めたいところである。
4-4-2でプレッシングを開始する町田の一列目は基本的に二枚。徳島は最終ラインに三枚確保出来れば数的優位が発生するため、大本が高い位置をとり3バック化する立ち上がり。ここまでは通常運転。さて、ボールサイドに大胆にスライドしてくる町田に対し、手っ取り早く狙えそうなのは上図の①と②のエリアである。DFラインの裏と逆サイドに張る選手。ただしこのエリアに正確なパスを届けるためには、中~長距離のキックの精度と、受け手がタイミングを合わせてこのエリアに走りこむという二つの要素が重要になる。町田は当然、そうはさせまいとパスの出し手に対して強く圧力をかけてくる。またこの日は雨を含んだピッチコンディションの影響もあり、DFライン裏へのフィードがバウンドしたあと加速し、走りこむ山﨑とのタイミングがなかなか合わなかった。
また、ロングパスはショートパスに比べて成功の確率が低いだけでなく、あまり多用すると、いわゆる「前後分断サッカー」になってしまい、ボール周辺の密度が下がり失ったボールの奪回が難しくなる。グアルディオラが「ボールを早く送るほど、早く戻ってくる」と表現した、あの状態だ。まさにそれは、町田の土俵で勝負するということにも繋がるのだろう。
どのスペースをどの角度で使うか
徳島が狙いたいエリアに対して、狙われているということも織り込み済みの町田。この構図を打破するために徳島が用意していた策は「町田の二列目と三列目の間に人とボールを送り込む」というものだったように思う。
まずビルドアップ時にGK梶川へのバックパス組み込むことによって、両CB、岩尾とで菱形を形成。複数のパスコースと数的優位を確保しながら、町田の一列目・二列目を誘い出す。 このとき町田の2トップは、徳島の菱形四選手を二人で見ながら二列目以降の押し上げを待つ形になる。
GK梶川を組み込んだときの徳島の攻撃展開としては主に2パターンあり、町田の重心が低い(圧力が弱い)ときはサイドを変えて内田裕へ。ここへボールが渡ると、町田の二列目が押し上げてくる&SHの守備の基準点が内田裕になる。このタイミングを見逃さずに前川が列を上げて最終ラインと数的同数を作り出し、前線へボールを送る。一方、より町田の重心が高い(圧力が強い)ときは梶川から直接前線へボールを届け、ライン間で活動する選手を使ってセカンドボールを回収。拾ったボールは大きく空いたサイドへ展開というパターンでチャンスを創出していく。
サッカーの基本的な原則として、ハーフウェイラインより自陣側から走りこんだ選手に対してはオフサイドが適用されないこともあり、縦の陣形をコンパクトに維持するには限界がある。このため徳島は、町田の二列目をつり出して、二列目・三列目の間に人とボールを送り込むことによって起点を創出しようと試みていた。
徳島の町田攻略のもう一つの鍵は、パスの角度だった。町田は中盤が横並びの4-4-2。徳島は中盤がダイヤモンドの4-4-2。このため町田がしっかりスライドしてくると、SH・SBの関係性に対してサイドで数的優位を作り出すことはなかなか難しい。またライン間で反転した杉本太郎が、CB間を抜け出そうとした山﨑へのスルーパスを狙ったシーンもあったが、こちらもスライディングでカットされた。このように選手間の距離を密に保つことによって、縦パスへの迎撃能力が高レベルで施されているのも、町田の守備の特徴である。
ここで重要になってくるのが、縦のパス以上に斜め方向へのパスだった。スライドしてくる町田の陣形とは逆方向に、しかも横の動きだけでなく縦の動きも交えて対応する必要のある角度でライン間に打ち込むことによって、町田の選手たちに誰が対応するのか?という難題を突きつける事が出来る。
福岡戦で杉本太が復帰した際「4-4-2のダイヤモンドは、相手守備を崩すには適しているが、必要な選手が揃わないと難しい」との監督コメントが紹介されていた。その「ラストピース」とも言うべき杉本太は出色の出来で、ライン間で受けて前を向く、相手を背負いながらターンしてスルーパス、と崩しの局面において違いを見せ続けていた。彼の働きが効果的だったのは、ビルドアップにおいて球出しの役割を担う事が多い内田裕・大﨑、その次のフェーズにおいて運ぶドリブルを行う大本・前川といった選手たちに、近づきすぎない、同じスピードで動かないことによってボールホルダーとの間に段差を作り出し、町田のゾーンの隙間で受ける。そこから反転したり、ドリブルでスピードアップするため、町田はファウルで止めるしかないという状態だった。右サイドからのクロスに頭で合わせたシュートが決まっていれば、文句なしのMOMだっただろう。
徳島にとっては、警戒していたセットプレーから町田に先制を許し、その後もカウンターからピンチはあったものの、ボールを握りながら試合を優勢に進める。ただ支配率で上回ったというだけでなく、しっかり準備してきたのであろう狙いや意図が明確な形を、再現性をもって披露できていた。そして、杉本太の復帰によって推進力と迫力が増した崩しの局面。35分には、前線三人のプレッシングから結果的に相手GKのミスを誘って同点に追いつく。完全に町田を崩して奪ったゴールはなかったものの、後半の展開にも大いに期待を抱かせる内容だったといえるだろう。
70分までが勝負だった後半戦
しかし迎えた後半。GK梶川まで積極的にプレッシングをかけてくるなど、立ち上がりから圧力を強めてきた町田。対して山﨑の裏抜けからチャンスを迎えるものの、中への折り返しに走りこんできた杉本太がバイタルエリアで倒されたプレーは、ノーファウルの判定。ここから一気に町田のカウンター。ボールホルダーを2、3人と追い越しながら、各選手がペナルティエリア幅を目安に、狭く速く攻めてくる町田の攻撃を食い止めきれずに失点。時間帯、そして杉本太へのチャージに対する判定と、何とも後味の悪い失点だったのは確かだが、それ以上に町田の攻撃の質を誉めるべきだろう。去年までは被カウンターのリスクを恐れてか、サイドへ展開する意識がより高かったように思う。だが今年は、より狭く攻めることによって、カウンターの迫力が増していると感じさせられるプレーが失点シーン以外にも幾つもあった(徳島のCBの迎撃能力がショボイというのはひとまず置いておこう)
この試合を後から振り返ってみると(結果論とも言う)、徳島にとっての分岐点は「怪我明けで70分しか起用できない杉本太が、ピッチにいる間に追いつけるor勝ち越せるか」どうかだったと思う。
ここ数試合変わらぬ傾向として徳島の攻撃は、大本・シシーニョ・+αで右サイドで数的優位を作り出し、コンビネーションを使って突破。行き詰ったらサイドを変えて左はアイソレーションというパターンが多い。ビルドアップ及び被カウンター対策として、内田裕が最終ラインに留まることの多かったこの試合では、前川が左に開いてパスを受ける場面が目立った。だが前川は推進力で勝負するタイプではない。このためパスを受けても中へ中へと入ってきてしまい、町田の密度が高いエリアに逆戻りしたうえに、攻撃のスピードもダウンしてしまうという二重にマイナスなプレーが目立った。
近年、サッカーの傾向として「ポジションではなくプレーエリアによってタスクが変化する」ということが盛んに報じられるようになった。少なくとも前川が見せたプレーは「自分の得意なプレー」であって「求められているプレー」ではなかったように映った。
一点が遠い徳島だが、無理は禁物ということで73分に病み上がりの杉本太→狩野。さらに76分には前川に代えて、今シーズンリーグ戦初登場となる広瀬を投入。広瀬を右のIH、シシーニョを左に配置し推進力を加えた布陣でゴールを目指したが、町田のゴールを2度こじ開けることは出来ず。福岡に続く上位との対戦で痛い連敗を喫することになった。
雑感
この試合とは直接関係ないのかもしれないですが、最近Twitter上で少し興味深いやり取りに遭遇しましたのでご紹介したいと思います。
グアルディオラも最後の30メートルは個人の力を存分に発揮しなければならないって言ってるしポジショナルプレーでの位置的優位を基本線としながらも質的優位も大事。その穴埋めを数的優位で補おうとするとポジショナルなバランスを崩す事になり失点に繋がる事になりかねないというのは間違いなくある。
— コストロス (@costoros_verdy) 2018年6月11日
ウチも全く一緒です笑 2人抜かれても守備は変わらないしと思ってたのですが。やはりロティーナもリカロド将もサイドで一対一を作れたり、クロスに中で一対一を作れたらそれでもう監督としては成功と思ってますよね。あとは質でなんとかしてくれよと。たしかにその通りだと思うのですが。
— ちなっぷ (@chinupverdy29) 2018年6月11日
お二人は、徳島と同じスペイン人監督が率い、ポジショナルプレーを標榜するヴェルディサポーターの方です。今季何度も同じような負け方を目撃してきたヴォルティスサポの皆さまにも、胸に刺さる言葉ではないでしょうか。渡・馬渡が抜けると、アタッキングサードでの推進力が一気に削がれたこと。そしてこの試合では、杉本太郎が独力で何度も決定機創出(未遂も含めて)に携わっていたこと。つまり、相手のプレッシャーラインを突破してアタッカーにクリーンなボールを届けるという点において、ポジショナルプレーは非常に効果的ではあるが、その先は質的優位を生み出せるアタッカーの存在が必要不可欠なのではないか、と。
一方でJ2というカテゴリー所属する以上、質的優位を生み出すようなアタッカーは、上のカテゴリーから常に引き抜きの対象になります。だからこそ穴を埋める補強の失敗は許されないし、そもそも、そのような資質を備えた選手を次々と発掘できるものなのか?という疑問も浮かんできます。いずれにしろリカルドが監督である限り、彼のサッカーと心中するとはこういうことなのだと覚悟を抱いて、我々も見守る必要があるのかもしれません。