ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2018明治安田生命J2リーグ第21節 徳島ヴォルティスvs大分トリニータ ~追い詰められたチームが披露したもの~

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徳島サブ・GKカルバハル、DFブエノ、内田裕、MF前川、狩野、FW杉本竜、薗田

大分サブ・GKムン、DF竹内、岸田、MF清本、宮阪、FW伊佐、三平

徳島vs大分の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年6月30日):Jリーグ.jp

 

長丁場のJ2リーグも折り返し点となる試合。四連敗中の徳島ヴォルティスが前半戦最後に迎えるのは、首位を走る大分トリニータ。徳島は、大﨑が神戸へ去ったCBに藤原広、内田裕に代わり井筒が入る。更に中盤もテコ入れを行い、シシーニョが中盤の底、岩尾と小西を一列前のポジションで起用。WBは右に広瀬が入り大本が左へ回る。なお、この試合の二日後、山﨑の湘南への完全移籍が発表。結果的にこれが徳島の選手としてのラストゲームとなった。

 

首位を走る大分は、昨年の対戦時にも苦しめられた得点源の後藤が怪我で離脱中。その他は前節から、宮阪→川西と一名の変更があったのみ。J3の鹿児島からステップアップしてきた藤本、讃岐から加わった馬場など、新加入選手もスタメンに名を連ねている。

 

 

大分といえば現在のところJ2では唯一(と思われる)、「ミシャ式」を採用していることで知られる。広島や浦和などがJ1でも旋風を巻き起こした特徴的なこのシステムについては、様々な媒体で言及されているので、ここで詳しく記述することは控えたい。筆者の知るなかで、特に分かりやすく分析されている代表的な記事をご紹介しますので、「ミシャ式とはなんぞや?」と思われる方はご一読をお勧めします。

 

もう少し簡潔化したものとして、今年からミシャを招聘しているコンササポさんのブログ。

http://stanza-citta.com/slipperman/

 

リカルド流ミシャ式対策

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では、本題に入っていこう。

この日も立ち上がりからミシャ式ビルドアップを行う大分。GKからの再開時、またこの日は徳島が高い位置から圧力をかけなかったため、トランジションからビルドアップへと移行する局面でも、時間をかけてゆっくりと陣形を変形させていた。

 

3バックの間に落ちるのは主に小手川で、彼がDFラインからの球出し役割を担うことが多く、空洞化した中盤を埋めるのが川西の役目となっていた。後ろでビルドアップに携わるのはGKを含めると6人で、仮に徳島が前からプレッシングに出るとすれば、フィールドプレーヤーに同数プレスを仕掛けるには5人が必要。その場合もGKを組み込まれると徒労に終わる可能性もある。大分のGK高木の足下が器用なのは、昨年の対戦時にも嫌というほど見せつけられた苦い記憶。だがプレッシングに6人を割いてしまうと、5人が前線に張り付く大分に対して後ろが数的不利になる危険性が生じる。

 

ならばと、この日の徳島はいつものようにプレッシングを仕掛けることを止め、大分ボールになると2トップはセンターサークル付近まで帰陣。2トップの高さに合わせて2列目、3列目をコンパクトに保ち5-3-2のブロックを敷いて大分の攻撃を待ち受けることを選択した。

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このブロックにおける大きなポイントは見たところ2つあり、「1列目と2列目のポジショニング」「縦方向のコンパクトネス」と表現することができるだろうか。徳島は島屋と山﨑の2トップが、川西へのパス及び、内側へ入ってくるコースを切る立ち位置をとる。2列目の3人は1列目の2人同じレーンに立たないようにポジショニングし、縦方向へのパスや2トップの脇からドリブルで前進しようとするプレーを阻害する。このため大分のプレー選択肢は、外へ外へと絞られていくことになる。

 

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サイド(2トップの脇)へ出たパスに対しては、ボールサイドのIHが1stディフェンダーとなり、2列目はそれぞれスライド。もともと1on1の関係だったWB-WB、シャドウ-ストッパーに加え、シシーニョが加勢することによってボールサイドで4on3の関係性を作り出す。中盤は空洞化しているうえ、川西の周辺は2トップがケアしているので、シシーニョも思い切ってスライドすることが出来る。大分が強引にドリブル突破やパス交換を狙ってくれば、数的優位を生かしてボールを奪い(シシーニョの対人プレーの強さが生きる)、2トップのスピードを生かしてカウンターを仕掛ける。大分は攻撃をやり直すにしても、小手川、鈴木の2人がバックパスのコースを作りだすため、低い位置へ動き直さなければならない。

 

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このため、最終ラインの二人を経由して攻撃をやり直す「U字パス」にも時間がかかるので、徳島の2列目の3人のスライドが悠々と間に合う。結果的に、相変わらず縦のコースは切られたまま、サイドを変えても同じパターンで行き詰るという繰り返しだった。

また縦のコンパクトネスが重要と評したのは、この2列目の移動距離にも関わる問題で、このプランを完遂するには、ポジショニング感覚、運動量、対人プレーの強さ、カウンターの起点となるキックの精度など、MF3人の働きが非常に重要になる。無駄な上下動を無くすためにも、守備の開始位置をはっきりさせるという点において、2トップの位置どり、それに合わせたコンパクトネスは重要な要素だった。

 

時間をかけて攻撃を行う割には、なかなか有効打を繰り出せない大分に対して、徳島はカウンターから攻撃参加した岩尾のミドルシュートが丸谷の手に当たりPKをゲット。岩尾が自らこれを決めて、14分に徳島が先制する。

 

スコアの変化と後退するブロック

先制を許した大分は、徳島の一列目が二枚ということもあって、徐々に変形の回数を減らしていく。つまりビルドアップは3CBで数的優位を確保し、2DHは一列前で、2トップの背中や脇に位置をとる。被カウンター時の2トップへの対応を考えても、この方が合理的なのは間違いないだろう。 

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3-2-5のような型で攻勢に出てくる大分に対し、先制した徳島は更にブロックを下げて11人全員が自陣に帰陣。コンパクトネスは維持したまま重心を下げる事によって、自陣のスペースを消しにかかる。

大分としては本来、上図の①のスペースを使いながら徳島のDFラインを押し下げ、間延びしたところ②のスペースへボールを供給して、フリックやワンツーなどコンビネーションで突破を図りたかったところだろう。事実、鈴木や川西が対角線上へ長いボールを蹴るシーンも見られた。だが裏のスペースが無いため、ゴールラインをそのまま割ってしまったりキーパーにキャッチされる。逆に徳島のCBは後ろのケアを気にする必要が無いため、眼前の相手に対して思い切って迎撃に出ることによって、大分の攻撃を寸断していた。

 

徳島のCBの面々を考えてみると、大﨑が抜けたことによって藤原が175cm、石井が180cm、井筒が181cmと高さに秀でた選手はいない。三人とも身体能力に優れたタイプでもない。このため高さで質的優位を作られ、セカンドボールを回収し攻撃を展開してくる相手に対しては、この日の戦い方は通用しないかもしれない。だが大分のロングボールは殆どがサイドのスペースを目がけて蹴られるもので、こちらの前線にも高さで優位性をもたらすような選手がいない。こと大分に対しては、この選択が見事にハマっていた。

 

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徳島は変わらず、ボールを奪うと2トップを中心にカウンターを仕掛け、大分の選手を押し下げる。大分が帰陣して5-4-1のブロックを形成すると、被カウンターのリスクを避けるようサイドを中心にボールを保持。CB、WB、IH、CFで菱形を形成しながら、シシーニョを使ってサイドチェンジを織り交ぜる。

 

流れを加速させた退場劇

流れを掴めない大分が、國分→清本と先にカードを切って迎えた後半。だが47分過ぎ、丸谷が岩尾に対する足下へのタックルによって、この日二枚目の警告で退場。11人対10人での戦いを余儀なくされることになる。CBが一人いなくなってしまった大分は、WBをSBへ、シャドウをSHへ下げることにより4-4-1のシステムで対応する。

 

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サイドを意識させると今度は中が空く

大分がそれまでの5バックから4バックで守るようになったことにより、徳島にとっては大外のレーンが空きやすくなったこと。そしてその変化を逃さずに、キックに特長のある内田裕を左WBに投入したのはリカルドの好采配だったといえるだろう(広瀬が怪我明けで、まだフル出場が難しいという事情もあったのだろうが)。左サイドへ開いてパスを受けた内田裕から、島屋の足下へグラウンダーのクロスが通り、ビューティフルミドルで追加点。さらに山﨑の惜別ゴールも決まって3-0。苦しいチーム状況のなか、苦戦が予想された首位相手の試合で快勝を果たした。

 

 

価値のあるプランBの提示

恐らく、リカルドの就任以降始めた当ブログで、これほど守備のことを重点的に取り上げるのは初めてではないかと思う。それほど、可変システムとボール保持攻撃に特徴のある大分に対して、準備してきたであろう守備から攻撃という流れが、バッチリとハマった試合だった。

 

ブロック守備に費やした時間が長かったことは事実だが、単なるドン引きでは無いことは、先述したMFのポジショニングや、スコアの変化による全体のブロックの位置調節など、この試合を見た方ならお分かりかと思う。そして何より、ドン引きカウンターしか出来ないチームではなく、ボール保持も出来る、プレッシングも出来るチームが、いざとなればボールを持たれても戦えますよ、と提示したことに意味がある。単に首位を叩いただけでなく、苦境に立つチームに一筋の光が差したような試合だったといえるだろう。