ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2020明治安田生命J2リーグ第2節 愛媛FCvs徳島ヴォルティス ~変わった者と変われなかった者~

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徳島サブ・GK長谷川、MF小西、渡井、榎本、藤田、FW河田、佐藤

 

 新型コロナウイルスの流行は、私たちの日常に様々な変化をもたらした。それはスポーツ界にとっても例外ではなく、J2リーグは開幕戦のあと5か月近い中断。ウイルスの流行が小康状態に落ち着いたことを受け、ようやくリーグ戦が再開。選手たちの移動を鑑みて、しばらくは近隣地域のチームとの対戦が優先。よって徳島は、愛媛との四国ダービーがリーグ戦の2節となった。

 

 ホームの愛媛は開幕戦で松本に1-2の敗戦。中断期間に導入したという[4-3-3]でリスタートを試みる。徳島は東京Vに3-0で快勝した後のダービー。開幕戦に続いて[3-4-2-1]の布陣で臨むものの、スタメンは3名変更。浜下、ドゥシャン、福岡はいずれも開幕戦で存在感を示した選手であり、気になる要素ではあった(DAZN中継中にドゥシャン、福岡はケガとの情報あり)

 

 本編に入る前に、特別なシーズンの特別なレギュレーションを確認しておこう。

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最初にリズムを握ったのは青緑

 両監督の就任以降、四国ダービーは「ボールを握りたいチーム同士の対戦」という構図になる。だがこの試合の前半、とりわけ徳島が2-0とリードする16分までは、愛媛が準備していた[4-3-3]がボール保持を目論む徳島に対して、上手く機能していたとは言い難かった。

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 徳島がビルドアップ時に起こした変化は、岩尾が最終ラインに下がって4枚でボール保持を開始することだった。対して愛媛は、森谷が何度か列を上げてプレッシングに参加するような素振りを見せる。この対応を見て機転を利かせたのか、あるいはスカウティングの段階で準備してきたのか定かではないが、徳島は梶川が森谷の視界に現れ背後を狙う動きを繰り返す。森谷が列を上げると梶川が空く。梶川が森谷を引き連れて動けば西谷への縦パスが通る。という構図で、梶川-森谷のマッチアップが最初のキーポイントだった。

 

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 徳島の左サイドが西谷・杉森という地上戦に強みのある組み合わせなら、右サイドは垣田の出番である。守備時にはSBの役割を果たしながら、攻撃時は高いポジショニングから裏抜けを狙う姿がお馴染みとなった岸本、そこにシャドウでの起用となった鈴木がセカンドボールに絡んでいく。スタートポジションは梶川と異なるものの、鈴木も流れの中で山瀬の背後に位置してパスを引き出そうとする動きもあり、[4-3-3]の泣き所である「アンカー脇」の攻略に一役買っていた。

 

愛媛の変化と反撃の萌芽

 さて、壮絶な結末を迎えることとなるこの試合の風向きが、微妙に変わり始めたのは徳島が2-0とリードを広げた20分あたりからだ。2点を追いかけることになった愛媛が、ハマらなかった[4-3-3]から慣れ親しんだ[3-4-2-1]へとシステムを変え、ボールを保持する展開へと移行する。徳島のボール非保持はお馴染みの[4-4-2]。リアルタイムで視聴していた時は「徳島はあえてボールを持たせている」という印象だったが、試合を見直してみると反撃の萌芽は確かに存在していた。

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 愛媛の[4-3-3]ビルドアップ時には、2トップが縦関係になることでアンカーを消すことに成功していた徳島。だが今度は2トップの背後に2人の選手が存在することになる。そして前線は徳島の2トップv愛媛の3CB。茂木・前野という両HVはボールを扱うことを苦にしないタイプだけに厄介な構図だ。中でも徳島が警戒していたのが前野の存在だった。おそらくシャドウに鈴木を起用したのも、対面の前野の存在が考慮されている。前野を自由にさせない、背後をとられてもしっかりプレスバックして岸本を孤立させない、というのが彼に課せられたタスクだった。

 

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 あえて持たせているのか、背後の選手が気になって強くいききれないのか。両面ありそうな徳島の一列目をよそに、鈴木は愚直に自分のタスクを実行していく。「前野に自由に蹴らせたら後ろが守り切れんやんけ!」という思いもあったかもしれない。実際に長沼がロングボールに抜け出し、岸本と入れ替わってあわやPKというシーンが前半に一つ、後半には再びペナルティエリア内で倒されて今度こそPKを献上している。だが前野が大外ではなく、1つ内側のレーンに移動したことで大きな変化があった。それは鈴木の背後に位置する長沼へのパスが通りやすくなったことである。

 

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 長沼の足元にボールが収まったのを契機として、依然アタッカー色が強くお世辞にも対人守備が上手いとは言い難い岸本、本職CBではない内田、ベテランの石井とボール保持時には包み隠されていた徳島の弱点が1つずつ露になっていく。鈴木が引っ張り出されているため、岩尾・梶川もボールサイドへ出張してくる必要がある。こうして二列目の背後→三列目の背後と、愛媛の攻撃が徐々に徳島陣内を侵食してくることとなる。

 

侵食、そして決壊

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 愛媛はHTに怒涛の三枚替え。川井監督が「サイドは突破できてるのであとはゴール前の迫力!」と思ったか定かではないが、システムも[3-1-4-2]に変更してきた。なお、後半の愛媛の攻撃で特徴的だったのは、HVの片方を敵陣まで押し上げ「疑似4バック」のように振る舞うことだった。

 

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 アンカーのポジショニングで徳島の一列目をピン留め。時間を得るCBは、時に持ち上がり、ラインを越えるパスを企てる。2トップがアンカーを消すために縦関係になっても、片方のCBは空く。徳島が最も警戒していた、前野の左足をさらに生かす策を用意してきた。

 

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 さらに付け加えるならば、愛媛の更なる狙いではないか?と考えるのが、ボールを失った際の切り替えの部分である。たとえば上図は、前野→茂木と展開したあとに予想される配置である。この場合、茂木がボールを失ったとしても愛媛の選手は近くにいる徳島の選手を捕まえていけば、逆サイドに大きく展開されないかぎり数的不利に陥ることがない。前半さんざんやられた垣田の近くには183cmのアンカー川村。というわけで、徳島は[4-4-2]→[3-4-2-1]への変更もままらないまま、時間が過ぎていく。

 

 この間、上福元のビッグセーブもあったものの、愛媛は試合の流れを手放すことなく83分までにCKから3得点をゲット。徳島にもカウンターから西谷・榎本らに試合を決めるチャンスは訪れたものの、96分にはビルドアップのミスから決勝ゴールを許し、後半だけで計4失点。前半3-0のスコアから一転、まさかの敗戦となった。

 

雑感

 シーズンに一度あるかどうか?どころではなく、自分が生きている間にこんなダービーはもう見られないのではないか?(見たくもないけど)という試合だった。徳島としては、前半に大量ゴールを奪ったことで、内容を精査しないまま残り時間を過ごしてしまったように思える。久々の公式戦で試合勘が戻っていないところに、大量リードによる気の緩みという二重の影響もあっただろう。

 愛媛は3バックへの変更、アンカーの利用と、それぞれ論理的な打つ手が見事だった。あれよあれよと押し込まれ、気づけば防波堤が決壊して手遅れでした。徳島にとってはそんなゲームだった。

 

 

優勝や昇格がかかった終盤に、こんな試合が待ってなくて良かったよ。ほんとに。。