2019明治安田生命J2リーグ第3節 徳島ヴォルティスvs大宮アルディージャ ~アジアの大砲はとっても緻密~
徳島サブ・GK永井、DF内田航、内田裕、MF狩野、杉本、表原、FW河田
大宮サブ・GK塩田、DF奥井、河本、MF小島、石川、FW大前、富山
徳島vs大宮の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2019年3月10日):Jリーグ.jp
前節、清武の劇的なゴールで岐阜を降し、今シーズン初勝利をあげた徳島ヴォルティス。ホーム連戦となる今節は、バイスと大卒ルーキーの鈴木大でCBペアを組み4-2-3-1の並びでスタート。鈴木大は記念すべきプロデビュー戦。右SBには移籍後初スタメンとなる藤田が入る。
2019シーズンから前・長崎の高木琢也監督を招聘した大宮アルディージャ。琉球と乱打戦(3-4)の末に敗れた前節からは、スタメンを四人変更。昨年は水戸でバリバリの主力として活躍した小島や、大前元紀がサブに控える充実のスカッド。こちらは、長崎時代から高木監督の十八番といえる3-4-2-1のフォーメーション。
前半
・勝手知ったる両将の駆け引き
リカルド・ロドリゲスと高木琢也監督の対戦は2017シーズン以来となる。二戦ともホームチームが勝利したため、対戦成績は一勝一敗。両チームとも最後まで上位争いに絡んでいたこともあり、互いの志向するサッカーを熟知した両者の再戦といえるだろう。
徳島は4-2-3-1から、野村を一列押し出すことによる4-4-2変換でプレッシングを開始する。立ち上がりは大宮が3CB+2DH+GKでビルドアップを行ったため、押谷・野村の二人は背中でDHへのパスコースを消しながらCBへ圧力をかけていく。すると、この形を察知した大宮がまずシステムに変化を加える。
分かりやすい変化として、三門がCB間に落ち4バックに変形。酒井と畑尾はポジションを上げ、徳島のSH-SB間に位置する。時々大山へのパスを交ぜることによって徳島の2トップの距離を狭め、時間を得られたSBから展開していくあたりが憎らしかったポイントでもある。
大宮の4-1-4-1(4-1-5)変換のいやらしい点は、SBやWBの位置的優位を生かして繋ぐことも、シンプルにロングボールを蹴ってファンマの高さで優位性を獲得することも、状況によりどちらも選択できることだ。またWBの酒井も180cmと、日本人のサイドプレーヤーとしてはサイズに恵まれた部類であり、酒井へのロングボールで徳島の右SBの藤田を競らせるというパターンも繰り返し披露。これは前節の岐阜戦で右WBとして躍動した岸本が、守備時には最終ラインに入ることも想定して準備してきたであろうことが見て取れた。
上図のTarget2のように大宮のWBと徳島のSBが競るということはすなわち、徳島にとって最終ラインが数的同数、もしくは不利な状況を強いられている。このためこぼれ球から裏抜けを狙うバブンスキーに対して、序盤は岩尾、試合途中からは鈴木徳が付いて行かざるを得ない。これによりバイタルエリアが手薄な状態となり、大宮はこのエリアでのセカンドボール回収に度々成功。大山や三門が逆サイドの大外を駆け上がる畑尾へ展開して、徳島の選手をサイド深くへ押し込んでいく。徳島は必然的に、清武や岸本が高い位置でボールに触れなくなる。そしておそらくこの二人は、前節の出来から大宮が最も警戒していた選手だったと思われる。
・トレンドと隠し切れない弱点
また高木監督のチーム作りで感心させられたのは、ロングボール・ハードワーク・走力といった長所だけではない。後述するプレッシングの章でも触れるが、4バックを破壊するためのトレンドとなって久しい5レーンを意識した動きやポジショニングが随所に見られた。ハーフスペースに選手を配置し、その選手がフリーになる仕組みを実装することで攻撃を加速。また守備では、徳島にハーフスペースを使わせないポジショニングで、ポゼッションを外へ外へと追い出していく。
こうして大宮に押し込まれ低い位置からの攻撃が多くなってしまう徳島。それでも愚直に繋いでいく姿は、コンセプトが明確と称賛されるべきか、何とかの一つ覚えと評されるべきかはわからない。ただし、どのみちロングボールを蹴っ飛ばしたところで、大して勝ち目が無いことは確かだろう。
そう、大宮のDFは、ファンマや酒井と対峙する徳島のDFと異なり、高さで負けることを考慮する必要がない。このため大宮の3CBは、徳島の押谷・清武・岸本との数的同数を受け入れ密着マーク。ファンマを岩尾とデートさせ、両シャドウはハーフスペースの入り口に立ったところからプレッシングをスタート。外へと誘導するように追いこんでいき、徳島の選手が余れば三門・大山が加勢してくる。5-2-3の弱点でもある「2」の脇を隠すという点でも、この一列目の選手たちのポジショニングは理に適っていた。
おそらく今シーズン何回も書くことになるが、徳島の最終ラインにレフティがいないため、どうしても左サイドからの攻撃がスピードアップできない。この日のように岸本が厳しくケアされていても、「右だけじゃなく左も怖いぞ」というシーンを見せておいてから右へ展開すると、岸本へのケアも甘くなりスピードをより生かせるだろう。この日の大宮が見せていた攻撃のように。だが右利きの田向は、圧力をかけられるとタッチラインを背に内向きにボールを持ってしまう。このため大宮は、徳島の左サイドの縦関係を殆どケアすることなく、サイドチェンジのタイミングだけに集中することができる。これでは、岸本が試合から消えてしまうのも必然だった。
後半
・セオリー通りの結末
徳島は後半開始から岸本→内田航。内田を右ストッパーに配し、3-4-2-1に変更する。いわゆるミラーゲーム。これにより主に2つの点で改善が見られた。まず、守備では捕まえる相手がはっきりしたこと。3バックには1トップ+2シャドウ。ハーフスペースで受ける選手に対しては、5バックからの迎撃守備で対応する。攻撃では、前半は孤立しがちだった押谷に対して、近い距離で清武・野村がサポートする。安定したポゼッションから、藤田・田向の両サイドの押し上げ。システム変更によって徳島が盛り返し、試合は膠着した展開になっていく。
「堅い試合でモノを言うのは個の力。」と、昔の偉い人が言ったかどうか定かではないが、大宮はバブンスキーが強烈なミドルシュートを突き刺して70分に先制。この試合何度も見られた、酒井・河面の左サイドペアによる攻撃参加で、徳島の5バックを横に広げる。さらに、三門の押し上げで岩尾をつり出すと、バイタルエリアの最後の門番・鈴木徳をバブンスキーがドリブルで振り切り、貴重なゴールを叩き込む。
この酒井・河面ペアは、ポジショニングからもレーンが被らないように立つ意識が感じられたり、ポジションチェンジも実にスムーズ。これに三門・バブンスキーを加えたユニットは、この先も大宮の武器になるのではないか。
雑感
敵ながらあっぱれというべきだろうか。やはり高木監督は、非常に緻密で隙がないチームを作っていた。上述した特徴以外にも、WBのアプローチに連動した5バックのスライドや逆サイドの選手の絞ったポジショニングなど、派手ではないが洗練されたチームだった。大前が本調子を取り戻せば、打倒・柏レイソルの一番手は大宮アルディージャになるだろう。
徳島は、筑波大卒のルーキーコンビ・W鈴木の奮闘など、明るい話題が無いわけではない。だがこのスタイルを貫くには、物足りないポジションが少なくとも2つある。大宮のように個の能力に優れたチームと対戦すると、改めて顕著に感じさせられる。そしてこれは、出ている選手云々よりも編成段階での問題。山口や京都に加え、昇格組の琉球など、同じカテゴリーに似たサッカーを志向するチームが増えている現状を鑑みると、今後はますます「欲しい選手」がバッティングすることになるだろう。「ちょっと足りないポジショナルプレー」とは、長いお付き合いになるのかもしれない。