ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2019明治安田生命J2リーグ第28節 アビスパ福岡vs徳島ヴォルティス ~勝敗を分けた3→4~

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福岡サブ・GK山ノ井、MFウォン(HT 山田)、田邉、喜田、FW城後(65分 輪湖)、木戸(73分 ヤン)、森本

徳島サブ・GK長谷川、DF田向(79分 清武)、秋山、MF表原、鈴木徳、島屋(63分 河田)、FW押谷(84分 渡井)

 

今年からファビオ・ペッキア新監督を招聘したアビスパ福岡だが、思うような結果が出ないまま6月3日付で退任。久藤清一コーチが昇格したものの、ペドロ・ジュニオール問題など曰く付きのシーズンが続いている。山田、加藤大は夏のマーケットで獲得した選手。前川大河は徳島が育てた。

 

一時は浮上の兆しを見せたものの、ここに来てリーグ戦で連敗の徳島。ミッドウィークの天皇杯を含めると三連敗中、しかもその間、無得点8失点という苦しいチーム状況。この試合ではサイドで攻守に奮闘を続けてきた杉本が出場停止。岸本を右、清武を左サイドに配した3バックでスタートする。

 

 

追い込まれた両者

福岡は残留争いから抜け出したい。徳島はPO争いにしがみつきたい。チーム事情を考えると、何が何でも勝点3が欲しい両チーム。とりわけ複数失点が続く徳島は、慎重な立ち上がりを見せる。キックオフの流れでボールを受けた石井が、圧力をかけられると簡単に裏へのキックを選択したことからも、チームとしての狙いを見て取ることができた。まず失点しない。さらに対戦相手の福岡は、守備時には5-4-1で深いブロックを敷いてきた。ブロックの外でボールを持たせるのはOK。そのかわり中へのパスは、圧縮と迎撃で絶対潰す守備。2ラインをコンパクトに保って横断もさせない。ライン間で活動したい選手が多い徳島は、福岡のブロックを間延びさせる必要があり、ロングボールで河田を裏へ走らせるプレーがいつもより多く見られた。 

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ライン間を消してきた福岡と間延びさせたい徳島

対する福岡の攻撃は、シンプルだが力強いものだった。ブロックを敷いて待ち構える守備を選択する以上、ボールを奪う位置が低くなるのは仕方ない。このため、攻撃は自ずとミドル~ロングカウンターが中心になるわけだが、ここで大きな役割を果たすのが新加入の選手たちである。特にヤンドンヒョンのポストプレーから、走力を生かして空いたスペースを狙う松田、ボールを持つとカットインからゴール前に侵入してくる前川、運動量と推進力で陣地を回復させる加藤大。シャドウの前川と松田、ボランチ鈴木惇と加藤は、プレースタイルの異なる選手の組み合わせにより、互いを補完し合う関係性が構築されており、分かっていても止められない攻撃に手を焼く序盤の徳島だった。

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ボールを奪うとヤンのポストプレーからカウンター発動

 

3→4のメリットとデメリット

また3CB+α(主に鈴木惇)でビルドアップを行う福岡に対して、徳島の一列目は2人。野村が列を上げてプレッシングに参加しても、スペースに加藤や前川が降りてくるとどうしてもボランチとDFの間が空いてしまう。ここをヤンに使われるシーンも目立った。

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バイスがつり出される→カバーリングの意識が働くのでWBCBが空きやすくなる

 

徳島の守備が整理されたように見え始めたのは、30分あたりからだろうか。福岡の4バックビルドアップを、前川が降りてこない、鈴木惇もいない右サイドに誘導し、山田に対しては野村が中を切る。内側へ角度をつけたパスを蹴ることが難しい状況に追い込みながら、清武が石原を背中で消しながら中間ポジションをとり、斜めのパスをカット。この形からカウンターへと繋げていく。

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清武のポジショニングとパスカット


清武が完全にDFラインに飲み込まれないポジションをとることは、攻撃面においても威力を発揮。37分、バイスのパスカットから岩尾のロングフィードで清武が裏を取り、カウンターから徳島が先制する。

 

 

岩尾のフィード、清武の落ち着きとそれぞれの技術が凝縮された得点であったのはもちろんだが、突き詰めていくと、より深い本質が隠されているように思う。

毎回参照例にさせていただき恐縮だが、らいかーるとさんがTwitterで「3→4に変えるのと4→3に変えるのは全然違う!」という趣旨のことを発言しておられた。これは3バックでスタートするチームが4バックに変化してビルドアップを行う場合と、4バックのチームが3バックに変化してビルドアップを行う場合を比較してのことだが、要約すれば「3→4の変化はポジションの移動が多くなるので大変!」とのことだった。

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レーンの移動も列の移動も多い3→4への変換

 

皮肉なことに、この試合は両チームとも3→4の変化でビルドアップを行うケースが目立った。徳島の先制点のシーンは、厳密には福岡は4バック化していなかったが、CBの山田が大きく開いてSBのようなポジションをとり、WBの石原は高い位置に張り出していた。そして最終的に、元のポジションに戻る山田と石原の間に走りこんだ清武を両者が捕まえることが出来ず、先制点を許す形となった。一方で注目すべきは、バイスのパスカットから岩尾のラストパスまで約8秒間、徳島のボールホルダーには一切のプレッシャーがかかっていない。これが両チームの大きな差を凝縮していた1プレーのように映った。

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○のスペースをノープレッシャーで使えた徳島

 

福岡のような相手には先制点をとるかとられるか、それが重要だ!ということを幾度も経験してきた徳島。こちらが先制点を奪えば、相手はいつまでもブロックを敷いて待ち受けるわけにはいかなくなる。ボールを保持しながら相手を引き出し、スペースへ走りこむ選手を使う。相手が人を捕まえにくれば、3→4への変更で多く発生するポジションの移動を利用することができる。逆に先制されれば、相手はさらに守りを固めてスペースを消し、カウンター一発に賭けてくるだろう。

後半の徳島は、後ろでボールを保持しながら前がかりになる福岡の右WBの裏を狙う。渡井や岸本が福岡のWBCB間を攻略し、カットインからシュートを狙ったがセランテスがセーブ。一方、徳島にとってはさほど危ないシーンは無く、無事逃げ切りに成功した。

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人を捕まえざるを得ない福岡と、ポジショニングでスペースを創出する徳島

 

 

雑感 

シーズンを通してのスタッツは全く異なる数字が算出されるだろうが、この2チームには意外と共通点が多い。基準点型の1トップと運動量の多い2シャドウ。幅をとるのはWBの役割。展開力に優れたボランチがDFラインに入り、しばしば4-1-5のような形で行われるビルドアップ。

異なるのは守備に対する考え方で、前線からのプレッシングで高い位置でのボール奪回を狙う徳島と、まずポジションに戻りリトリートを優先する福岡。これは一概に優劣をつけられるものではない。ただし徳島は、DFラインにおける数的同数やWBが上がったあとのサイドのスペースを、ネガティブトランジションからの素早いプレッシングで包み隠している面が間違いなく存在する。福岡も同様に、リトリートを選択するにしてもオリジナルポジションに戻るまでの時間を稼ぐ必要があり、その一瞬の隙を逃さなかった徳島に今回は軍配が上がったといえるだろう。