ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2022.3.12(土) J2リーグ第4節 徳島ヴォルティスvsロアッソ熊本 ~バケンガが化けた陰で~

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 ホームの徳島ヴォルティスは、リーグ戦3戦連続のドロースタート。内容は悪くないが勝ち切れない試合が続いている。今週はミッドウィークにルヴァン杯の開催が無かったため、前節から中5日での公式戦。その間に櫻井・藤尾の両選手はU-21代表のトレーイングキャンプに参加。櫻井はスタメンに名を連ねたが、代表でもフル回転だった藤尾は疲労も考慮されてかサブへ。前節、途中出場で退場処分となったカカは出場停止。

 ロアッソ熊本は昨年のJ3リーグ優勝チーム。大木体制3年目で、2018年以来のJ2へ挑む。前節は大宮を相手にアウェイで2-1の勝利。キーパーが佐藤優也増田卓也と実力者同士の変更となったが、フィールドプレーヤーの変更は無し。昨今では珍しい[3-3-3-1]の並びでスタートする。

 

保持も非保持も特徴的

  • 大木武監督のチームと言えば、ぱっと思いつくのは"ボール保持率の高いチーム"だが、この試合でまず目を引いたのは非保持時の振る舞いだった。徳島のビルドアップは主に4バック+櫻井の5枚。対して熊本の前線は3トップ+伊東の4枚。
  • 「人を基準」に圧力をかけてくる熊本は、ウイングが徳島のサイドバックセンターバック間に立つ形でスタート。徳島のセンターバック間での横パスをスイッチにプレッシングを開始し、高橋と伊東で徳島のセンターバックと櫻井を消す。降りてくるインサイドハーフにはストッパーが延々と付いていく。サイドバックがフリーになればウイングバックが長距離を疾走。「人を見る」型を徹底させる。

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徳島のボール保持vs熊本の非保持
  • 徳島が開幕から見せている攻撃パターンは幾つかあるが、そのうちの1つは相手の一列目を突破したあと櫻井がパスを受けるor反転から前を向いて攻撃を加速させる、というもの。熊本はこの型を相当警戒しているように見受けられた。
  • 徳島は、バケンガには攻撃の基準点として中央で我慢してもらう。そして、人を捕まえにくるウイングバックを動かしたうえで、熊本のディフェンスラインをアタックする狙いだったように思う。

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  • 特に目立ったのは左サイドからの展開で、西谷がウイングバックの裏へ抜ける、あるいは一つ内側のレーンに入ってきて安部からの縦パスを引き出す。熊本の阿部は新井のマークに出てくるので、西谷と黒木が1on1の状況になるのだが、百戦錬磨の黒木がファウルも厭わないプレーで西谷を潰しにかかる。
  • ビルドアップからのパスを引き取る左サイドに対して、より得点の期待感が高かったのは右からのクロス。ポヤトスが試合後のインタビューでも語っているように「相手の守備を片方に寄せて逆サイドのフリーマンを見つける」
  • 逆足の選手が揃う左サイドに対して、右サイドの選手のプレー選択は縦に突破してクロス。利き足でのキックになるため、ニアへ早いボール・深く抉ってマイナス方向への折り返しなど、確実性・選択肢の両面においてより効果的なプレーが期待できる。バケンガの2ゴールは、いずれも右サイドからのクロスに合わせて生まれたものだった。

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  • 29分、熊本のゴールキックからプレーがスタート。浮き球のセカンドボールをバケンガ-菅田の競り合いから徳島が回収。櫻井の持ち運びからパスを受けた浜下がクロス→バケンガヘディングで徳島が先制。競り合いで菅田が傷んだ一瞬の隙をつき、バケンガにゴールが生まれる。

 

懐かしい匂い

  • 熊本はボール保持においても「チーム大木」らしく密集を作りながら前進する。「レーンや列の移動はお構いなし」といった感じで選手が流動的に動き"囮のパス"を使いながら徳島の守備網を動かしていく。
  • その中でもウイングバックの選手がアンカー横に移動して、河原に自由を与えるような変化が印象的だった。伊東-河原の縦のラインは熊本のボール保持において肝となる部分で、パスを受けて散らす河原、多様な局面に顔を出す伊東。

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熊本ボール保持の一例
  • ボール保持の局面においては、多くのチームが採用するシステムよりアタッカーを一人増員させた意味が出てくる。トップ下の伊東は、アンカーと同じ列に降りてきてボールを引き出す、サイドに流れて起点を作る、崩しにおいてはフィニッシュに加勢するなど、あらゆる局面において"+1"の役割を果たしていた。
  • 流動的に見える熊本の攻撃だが、繰り返し行われていたのは右からのクロスボール。杉山は突破力とキープ力を兼ね備えつつ"戦える"レフティで、かつて徳島に在籍した山﨑を彷彿とさせる。この杉山が、右サイドから巻いて落とすクロスにゴール前で3人が合わせる。

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熊本の崩しのパターン
  • このシーンでも「縦に抜ける選手」と「列を降りる選手」が組み合わせられていて、徳島はライン間のスペースが広がったところへクロスを供給された。
  • 43分、熊本は徳島陣内右サイドからのスローイン。徳島は人数をかけるも奪いきれず、杉山→河原とスイッチされるタイミングで守備陣が置き去りに。河原のマイナス方向への折り返しを伊東が右足で蹴り込んで1-1。
  • 熊本の選手が大胆にポジションを動かすため、徳島は局面をひっくり返したカウンターアタックのほうが得点に繋がる気配が高く、中でも渡井の反転からのドリブルは効果的だった。

 

撃ち合いから消耗戦へ

  • 後半開始早々、熊本のボール保持に対して徳島は前から人数を合わせて捕まえに行く。櫻井・内田と持ち場を離れて出ていくが奪いきれず、熊本の左からのクロスにゴール前は安部と新井。安部の背後をとった高橋が頭で合わせて熊本が逆転。
  • 3分後には、パスを受けた渡井が粘ってインサイドを上がってきた藤田へスルーパス。藤田のクロスは熊本の選手に当たってコースが変わりバケンガの足元へ。ショートバウンドする難しい軌道だったが、バケンガは落ち着いてミートしてゴールへ流し込み2-2。
  • 前半から引き続いて「人を見る」要素が強めな熊本の守備。徳島もこれに呼応するかのように、前線から人数を合わせて捕まえにいく構えを見せる
  • ボールを保持したいチーム同士の対決は「いかに相手に思い通りの保持をさせないか」という意地のぶつかり合いの様相へ。その中でも徳島は渡井、熊本は杉山とカウンターアタックのカギを握る選手は不変。
  • 徳島は65分に杉森、70分に藤尾と攻撃の切り札を切るも、均衡は崩せず。交代カードをすべて使いきった終盤には安部が足を攣るなど、熊本の攻撃はボディブローのように効いていた様子。熊本はスルーパスに土信田が抜け出して長谷川と1vs1の局面を迎えるが、長谷川が本領発揮のビッグセーブ。
  • 予想に違わぬ好ゲームは2-2でタイムアップ。

 

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雑感

 熊本の選手の能力の高さは想像以上だった。チーム大木なのでボールを繋ぐ意思を見せてくるだろう。それでも最終的には個の力で徳島がねじ伏せるのではないか。そう思っていた時期が僕にもありました。上手いだけでなく若くて動ける選手が多く、J2上位~J1下位クラスのクラブが既に目をつけている選手も複数いるのではないだろうか。

 熊本が攻守両面で明確な狙いをもった試合運びを見せたことで、徳島は幾つかの課題が露呈した試合だったように思う。ボールを保持するチームとしてはキーパーを組み込んだ展開力に乏しいこと。よってフィールドプレーヤーを捕まえることが効果的なこと。櫻井が動かされたときのディフェンスラインの迎撃能力が怪しいこと。

 加えて、左サイドに順脚の選手がいない(ボールを相手から隠す持ち方が難しく、外→外の展開でスピードアップできない)。1トップの得点力を補完するワイドストライカー・セカンドストライカー的な役割を果たせる選手がいない。ウイングの1on1勝率は期待できるが、被ファウルからのフリーキックコーナーキックなどセットプレーの得点期待値は高くなさそうといった、スカッドとして内包している問題点もある。

 この試合のあと新助っ人キーパー、ホセ・アウレリオ・スアレスのチームへの合流が間近であることが発表された。夏のマーケットまでの期間をどのぐらいの順位で凌げるかについて、彼の力量は大きなカギを握るように思う。早くも徳島対策が進んできたように見える他チームに対して、新たな脅威となることができるだろうか。