ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

徳島ヴォルティス2021シーズン選手別総括 FW&まとめ編 ~何人残ってくれるかな~

フォワード~

9・河田篤秀(16試合出場、369分・0得点)

J2では数々の「変態ゴール」でチームを救ってきたストライカー。J1でも救世主の役割が期待されたが、リーグ戦でのゴールは無くルヴァンカップの1ゴールのみでチームを去ることになった。得点感覚とシュートの上手さが持ち味だが、J1では自分の間合いに持ち込む前に潰される場面が目立った。決してサボるような選手ではないのだが、もともとゴール以外での貢献度がそれほど高くないタイプ。利他的なプレーを厭わない垣田と比べると、不満を感じてしまう試合も多かった。とはいえ、これは垣田と河田の特性の違いなので仕方ない。「J1の舞台で垣田・河田で何ゴールを計算していたのか?」は、強化部に聞いてみたいテーマの1つである。夏に完全移籍した大宮では19試合で7ゴール。降格の危機に瀕したチームを救ってみせた。

9・ムシャガ バケンガ(9試合出場、503分・1得点)

夏のマーケットでノルウェーのオッドから加入。各年代でノルウェー代表に選ばれてきた実績、また先に日本へ上陸を果たしていたノルウェーリーグの先輩・ユンカー(浦和)の活躍もあり、サポーターの期待は高まった。29節の川崎戦を皮切りに9試合に出場。リーグ戦初出場は残暑の厳しい9月で「日本の夏ムシャ暑い(意訳)」とメディアでコメント。「涼しくなれば本領発揮か?」と周囲は騒ぎ立ったのだが、最後まで爆発することはなかった。良くも悪くも徳島っぽい助っ人であり、身体能力や筋肉で解決するタイプではない。ディフェンダーとの競り合い、ポストプレーの落とし、スペースへ走ってパスを引き出す動きなど、フォワードとして求められる働きは一通りソツなくこなすことができる。空中戦も弱くないしスピードも水準以上。ただしJ1では「それ以上の何か」を見せることはできなかった。シーズン終盤は怪我を抱えながらプレーしていたみたいなので、日本の水に慣れ舞台がJ2へ移る来年は「これといった欠点の無い反則助っ人」に化ける可能性もある。化けろバケンガ。ムッシャ期待してる。

11・宮代大聖(32試合出場、2556分・7得点)

王者・川崎からやってきた港区男子。昨年の川崎ではわずか298分の出場であり、効果的な起用法については川崎サポも「それを見つけるのが徳島さんの仕事!」みたいな反応であった。徳島では主に[4-2-3-1]における二列目の右、セカンドトップとして出場。ワントップとしてはサイズ不足感があるのだが、身体が強く推進力があるので前を向いたときのプレーは頼もしかった。右サイドからハーフスペースに降りてきてボールを引き出す、反転から前を向いて仕掛けるプレーに、チームは幾度となく救われた。試合を重ねるほどに自信を深め、終盤にはスルーパスでも攻撃をけん引。単なるシュートが上手い選手ではなく、違和感なく二列目、ウイングの仕事をこなせるようになった。また宮代が見せる「攻守にわたる強度の高いプレーの数々」を目にするたび、王者の基準を思い知らされた気がする。これだけの数字を残したので、来年もJ1でプレーすることになるのだろう。おじさんは、君がどこへ行っても「宮代は徳島が育てた」と喧伝していくからな。でも宮代が一番輝けるのは徳島だと思う。だから残ろう。

17・一美和成(12試合出場、400分・2得点)

夏のマーケットでガンバ大阪から完全移籍。直前の徳島-ガンバ戦にガンバの選手として出場していたこともあり、驚きの移籍劇だった。サイズ(181㎝)の割には動けて走れる選手であり、ヘディングやポストプレーも強い。2019年には京都で36試合・17ゴールと、J2での実績も十分。同系統の山崎・垣田を育て上げた徳島なら、一美もモノになりそうな気がする。垣田・宮代が抜けそうな状況を考えると来年のエース候補筆頭。自身のキャリアのためにも「俺が昇格させる」という強い気概をもって一年間戦ってほしい。

18・佐藤晃大(5試合出場、43分・0得点)

垣田に次ぐターゲットマンとして5試合に出場。昨年は4年ぶりのゴールで多くのサポの感動をよんだ。ここ数年 満身創痍であろう状況を考えると、7年ぶりにしかもヴォルティスの選手としてJ1のピッチに立ったことは、キャリアにおいて大きな意味をもったのではないか。来年は36歳。タイミング的にもいろいろな道が考えられる状況であるが、はたして。

19・垣田裕暉(36試合出場、2350分・8得点)

鹿島から金沢→徳島と武者修行を経て、5年ぶりにJ1の舞台へ帰還。競り合いや裏への抜け出しは多くの試合で通用していた。このサイズで、サイドへ流れてもサイドバックに走り勝てる選手とかマジで貴重。守備での貢献も言わずもがな。あとはゴール前での精度がもう少し上がれば…とは思うものの、彼のタスクの多さを考えるとそこまで要求するのは酷だろう。センターバックのマークを一身に受け、時に後方から激しいファウルで潰され痛がっても、決して離脱しない頑強さも素晴らしかった。垣田がいればフォワードの椅子は一年間安泰という安心感。陽気なキャラクターであり、ピッチ外でも多くのサポーターに愛された。来年彼がいないチームを見て、我々はその存在の大きさに改めて気づくのであろう。さらば徳島のエース。でもワンチャンの残留を諦めない。

39・西野太陽(5試合出場、104分・0得点)

徳島出身、京都橘高校を経て地元に帰還した期待の星。104分という出場時間で何かを判断するのは難しいが、現状では1トップよりもセカンドトップやウイングむきの選手なのだろう。前を向いて仕掛ける時のドリブルやスピードには、おっと思わされるものがあった。来年は同じ京都の高校からオリオラ・サンデーが加入。同タイプのライバルが増えることになる。先にモノになるのは太陽かサンデーか。

 

~監督~

ダニエル・ポヤトス

入国制限によってチームに合流できず、キャンプ~シーズン序盤はリモートでの指揮。合流できない間の試合の采配については、現場の意見を尊重するということで甲本ヘッドコーチに一任していたようである。チームはその間、対戦相手に比較的恵まれたこともあり4勝4敗2分と踏ん張った。前年はJ2で優勝。J1でもそこそこ結果が出ているのに、そこへ新しい監督がやってきて「今日から私が監督です」では、指揮を執る方も従う方も大変だったと思う。前任者とは異なりセントラルハーフが列降りをしない[3-2-5]のビルドアップに着手したが、チームは硬直しなかなか結果が出なかった。22節の清水戦を機に昨年までのやり方を一部組み入れたが、上位相手に全く勝てない傾向は変わらずJ2降格。ただ、ラスト9試合は下位との対戦が多かったこともあって4勝4敗1分。「少し時間が足りなかった」との言い分は理解できる。一方で東京五輪による一か月の中断期間をもう少し有効に使えなかったのか?とも思うのだ。焼け野原と化したチームを託されたわけではなく、基盤はしっかりあったチームを引き継いだのだから。

選手のコメントを見聞きしていると、知識や引き出しの多さは確かなようだ。ポヤトスの指導に感じるものがあるから、結果が出なくともチームはバラバラにならなかったのだろう。相手によってビルドアップのパターンを変えたり、試合を見直して気づく意図や狙いも多い。スペースの活用にしても、リカルドは「そこに立たせた選手を使う」だったがポヤトスは「そこは空けておく(後から入ってくる選手のために)」。深いところでは通底していながらも、アプローチが全く異なる両者のサッカーに触れられたサポーターは、とても恵まれていると思う。戦力不足、異例のレギュレーション、合流遅れ。今年はいくらでも言い訳が出来たが「1年で必ずJ1に戻ってくる」ためには勝つ必要がある。リカルドは「良い監督」から「勝てる監督」になるまで3年(昇格までは4年)かかった。来年はポヤトスにも、戦績で自身の価値を証明してほしい。

 

~その他~

昨年の主力がほぼチームに留まり、監督は抜けたものの同じスペイン人の指揮官を招聘。「継続と深化」でJ1に挑んだが、残留に一歩届かなかった。クラブの規模やスカッドを考えると、健闘はしたがサプライズは起こせなかったといったところか。近年、あと一歩のところでたらればに泣かされ続けてきたチームの歴史に、J2優勝監督を引き抜かれる、新監督が合流できない、4チーム降格のレギュレーションと、多くの"if"が書き加えられることになった。

同じ昇格組でも、ガッツリ人件費を上積みして8位フィニッシュを果たした福岡とは、ピッチ外の戦いにおいても大きな差があった。岩尾は「すべてが余すところなくクラブにとっての財産」と語っていたが、ピッチ上だけでなく、そこに至るチームビルディングにおいてもこの経験を生かしてほしいと切に願う。2022年は、長く険しいJ2での戦い。ふたたびJ1の舞台で「あの年の経験は無駄ではなかった」と思えるチームに出会えることを信じて、この記事のまとめとしたい。J1は最高に楽しかったぞ。必ず、また来るからな。