ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2021.3.6(土) J1リーグ第2節 徳島ヴォルティスvsヴィッセル神戸 ~保持率が教えてくれないこと~

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スタメン

徳島サブ・GK長谷川、DF田向、鈴木大、MF小西、渡井、エド、FW河田

神戸サブ・GK廣永、DF初瀬、大崎、MF安井、佐々木、増山、FWドウグラス

 

 徳島は前節の大分戦(A)で、脳震盪によって途中交代を余儀なくされた石井→安部の1名のみの変更。ミッドウィークのルヴァンカップで無事が確認された田向はサブに入ったものの、ジエゴや杉森は前節に続きメンバー外。西谷が依然として行方不明なのが心配である。

 神戸はFWを藤本から田中順也へ変更。それ以外は前節のガンバ戦(H)から引き続きのスタメン。サブに入った大崎とドウグラスは古巣対決となる。

 

神戸のボール保持と徳島のプレッシング 

 鳴門大塚スポーツパークポカリスエットスタジアム名物、強風が吹き荒れるなかキックオフとなったこの試合。まず最初にボールを保持する姿勢を示したのは、風下に立つ神戸だった。神戸は前節同様、左サイドバック酒井高徳を上げて右の山川を残す3バックでビルドアップを行う。困ったら迷うことなくキーパーの前川まで下げる点も、同じだった。ただしこの日の前半は風下。浮いたボールを蹴っても、思うようにコントロールできず風に戻されてしまう前川は、グラウンダーのボールを蹴りこむ。だがこれを徳島の選手にカットされ、立て続けにピンチを迎える。この展開にしびれを切らしたサンペールは、少しポジションを下げ徳島の2トップの間に立つなどして、神戸の両センターバックに時間を作り出そうとしたのが最初の変化だった。

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山川・フェルマーレンに時間を与えようと試みたサンペール

 対して徳島が巧みだったのは、両サイドハーフのポジショニングだった。山川やフェルマーレンへボールが渡ったとき、藤原と浜下は単騎で突撃することなく彼らの正面に立ち、パスコースを消すようなポジションをとってから間を詰める。神戸のビルドアップは、センターバックが深い位置や幅をとることがそれほど多くないため、この守り方は非常に有効だった。これによって神戸の縦パスを封じながら、浜下は酒井高徳へパスが出たら対応、左は古橋にボールが出ても吹ヶが密着とパスコースを限定しながら高い位置でボールを奪う守備を可能にしていた。

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パスコースを限定させながら高い位置から守備を行う徳島

 加えて徳島の守備において重要だったのは、神戸の左サイドにおける対応だ。このサイドは酒井高徳が高いポジションをとるかわりに、井上が一つ内側のレーンに入り、時に山口とポジションチェンジを行いながら攻略を試みる。技術が正確な酒井高徳も参加して、ボール保持の局面において強力なユニットとなる。

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左サイドで有的優位を作りたい神戸

 対して徳島は、浜下や藤原が内側へ絞ったポジションをとることで神戸の中盤に優位性を作らせず、岩尾や藤田譲がボール奪取。絞ったポジションのサイドハーフが出ていくことで、中央の3レーンを起点に攻撃を開始。左の藤原は外へ張るポジションをとる古橋よりも内側のレーンを使い、また右の岸本は積極的に酒井の背後へと飛び出していく。

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ボランチがボールを奪い、サイドハーフサイドバックが飛び出していく

 

鍵を握る二人 

 徳島は、ボール保持においても明確な狙いを見せる。左サイドは藤原が開き、吹ヶが低い位置に残る。これによって古橋を引きつけ、安部の左足から楔のパスを狙う。左サイドはオーバーラップの際も大外レーンの藤原、一つ内側を駆け上がる吹ヶと、レーンを分担するケースが多い。一方の右サイドは、福岡が度々運ぶドリブルを見せるなど積極的に前進。こちらは岸本が外、浜下が内に入るなど、菱形を形成してボールを運び出す。

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徳島の右と左の関係性

 いずれのサイドにおいても、岩尾と藤田譲はマーカーを引き付けて楔のパスコースを空ける、ボールホルダーにサポートに入る(時に平行、時に斜め)など重要な役割を果たす。中央に二人残ることで、被カウンター時の予防的カバーリングの役目もある。センターバックのドリブルやパスからボールを失っても、藤田譲が素早い出足でボールを奪う場面も目立つ。また中央に二人残っているからこそ、センターバックが思い切って運び出せる面もあるだろう。

 前半、神戸のボール保持率が60%を上回る数値を叩き出していたが、切り替えの局面も含めると、より狙い通りの試合が出来ていたのは徳島だった。

 

サイドから攻め立てる神戸

 神戸は田中順也が脚を痛めた様子を見せ、前半の飲水タイムにドウグラスと交代。これによって風上に立つ後半は、よりシンプルな攻撃が増えていくことが予想できた。神戸は長いボールによって陣地回復が容易になる。ロングボールが押し戻され、たびたび徳島のプレッシングの餌食になっていた前半。自分たちの形で保持できる時間が増加した後半。サンペールが最終ラインに入って、山川が列を上げ、古橋が右サイドから解放されるなど、前半にはあまり見られなかった形も増えていく。右サイドを抜け出した古橋のクロスに合わせた郷家。右サイド→左サイドの展開で、時間を得た酒井高徳が右足で巻いたクロスに再び郷家。徳島のゴールを脅かすシーンが増えていった。

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前半にはあまり見られなかった形

 攻勢を強める神戸は、佐々木、増山を投入して両サイドハーフへ。古橋を前線にあげ、郷家がディフェンシブハーフへ移動。よりダイレクトな攻撃を試みようとするメンバーに変えてきた。対して徳島は藤原→渡井。渡井が右サイドハーフ、浜下は左へ移動する。神戸はクロスから連続して決定機があったので、よりサイドからの圧力を強めたい意図があっただろう。一方の徳島は、渡井の個人技に期待するとともに、酒井高徳に対するマークをもう一度はっきりさせる狙いもあっただろうか。

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67分~

 徳島は75分、自陣右サイドのスローインの守備から、ボールを奪った藤田譲がライン間で待つ宮代へパス。宮代は反転からドリブルでゴールへ迫る。フェルマーレンを躱して放ったシュートはブロックされるも、こぼれ球を垣田が拾ってシュートフェイントで前川を動かし、空いたコースへ流し込んで先制。前半にも同じようなドリブルで相手に突っかけたが、ファウルをとってもらえず激昂していた宮代が、垣田と同じぐらい感情を爆発させていたのが印象的だった。

 逃げ切りを図りたい徳島だったが、神戸は87分。左コーナーキックのこぼれ球を、ペナルティエリア外で受けた古橋が右足で強烈なシュート。上福元が一度は弾いたものの、最後は菊池が押し込んで同点。古橋のシュートは見事だったが、無回転でもコースがそれほど難しかったわけでもないことを考えると、上福元にはもう少し外へ弾いてほしかったところではある。試合はこのまま1-1のドローで幕を閉じることとなった。

 

 

 

雑感

 神戸はとにかく、古橋がスーパーだった。少しでも猶予を与えると決定的な仕事をされてしまう。シュートレンジの広さと両足の正確さには目を見張るものがあった。

 徳島は2試合を終えて勝ち点2。監督や新外国籍選手が来日できない事情もあり、極めて低かった前評判。前回J1で戦った2014年、来る試合来る試合フルボッコをくらった悪夢。これらを考慮すれば、上々のスタートと言えるだろうか。なにより、J2でも積み重ねてきたビルドアップやプレッシングが通用しているのは、サポーターにも大きな希望を与えているはずだ。

 一方で「この形を続けていけばゴールに近づけそうだね」というパターンがハッキリ見えない点は、少し気になる。岸本のクロス、藤原のカットイン、宮代のドリブル突進など、要所で光るプレーはあるものの、崩しの局面はチームとして整理する必要がありそうだ。次節の相手は王者・川崎フロンターレ。契約上、宮代は起用することができない。偶然が幸運を呼び、渡井の起用法が一つの突破口になってくれるかもしれない。