ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2019明治安田生命J2リーグ第42節 徳島ヴォルティスvsレノファ山口FC ~その扉を開くとき~

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徳島サブ・GK長谷川、DF内田航、MF狩野、清武、藤田、島屋、FW押谷

山口サブ・GK山田、DF楠本、川井、MF佐藤、佐々木、吉濱、FW高井

 

 とうとうここまできた。前節、鬼門・味スタで東京Vを降した徳島は、5位でリーグ最終戦に臨む。4位山形とは同勝点。このため徳島が勝点を上積みできれば、山形の結果次第でJ1参入プレーオフ初戦がホーム開催となる。万が一徳島が敗れれば、勝点は70のまま。甲府と京都が3を上積みすれば、それぞれ71となり、まさかまさかの結末となる可能性もはらむ。二年前に味わった最終節の悲劇を乗り越えられるか。真価と進化が問われる一戦だ。

 

 山口は前節からスタメンを4名変更。年代別代表から高宇洋が戦列復帰。一方で、左WBの清永は今シーズン初出場がいきなりのスタメン起用。また現役引退を表明している坪井、戦力外が濃厚と思われるドストンが3CBに入る。既に昇格の可能性とも降格の危険とも無縁な状況であり、まさに「シーズン最終戦」という事実を感じさせるメンバーだった。

 

 

想定外だった[5-2-3] 

 やや急造感のあった山口のスタメン。徳島にとっては想定外の事態だったようで、それはキックオフの直前まで岩尾が戦術ボードを手にしたコーチ陣と、入念に確認を行っていた様子からも見て取れた。逆に、山口にとっては急ごしらえの難しさはあったはずで、よって「徳島とマッチアップを合わせて前から人を捕まえに行く」という選択に繋がった面もあったと思う。

 いわゆる「ミラーゲーム」に持ち込むことで、理論上はピッチのあらゆるところで1on1が発生することになる。徳島にとって、相手の出方を観察するための絶好機は梶川からのリスタート。ロングボールを選択することが極めて少ない徳島のゴールキック。近い選手へ短く繋いで試合を再開する徳島に対して、山口はあくまで[5-2-3]の形を維持したまま圧力をかけてくる。

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3トップで中央封鎖しつつ前から圧力をかける山口

 

 こうなると、ボールを保持する徳島にとっての狙いどころは三幸・高の両隣のスペース。[5-2-3]の「2の脇」と表現される場所である。  

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鈴木徳が顔を出して様子をうかがう徳島と坪井が対応する山口

 左サイドに顔を出してボールを引き出すのは鈴木徳の役目となる。鈴木徳はパスコースを作るだけでなく、誰がどこまでついてくるかを観察。石田がピン留めされWBを押し上げられない。さらに高・三幸のコンビは中央から動かしたくない山口は、坪井が深い位置まで迎撃してくることがわかる。

 

近づく選手・離れる選手

 こうなると山口のDFラインは5バックでセットした状態よりも手薄となり、菊池には野村を監視するタスクがあるためカバーが遅れる。パスを受けた杉本は、鈴木徳や内田裕へのバックパスも視野に入れながら、間合いを計りつつスペースへの突破を試みる。

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後方へのパスコースも確保されているため、思い切り1on1を挑める杉本

 

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 こちらは、山口の対応パート2である。つまり鈴木徳の動きに高がついてくれば、今度は中央へのパスコースが空く。ここに降りてくるのは野村。野村がいたポジションに移動するのは渡井。こうしてボールホルダーへ近づく選手(主に囮の役割)、遠ざかる選手を作り、ボールの前進に効果的とされる菱形・三角形を維持しながらポジションを入れ替えていく。

 
 逆サイドは岸本の怪我もあり、ここ2試合は田向が右WBに起用されている。アタッカー色が強く、この日もドリブルで存在感を発揮していた杉本と異なり、田向は本来SBや3バックの一角でも起用されるような選手。よって前進には、左サイドとは異なる仕組みが必要になる。

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 田向に求められていたのはボールを持つタスクではなく、自らはピン留め役となり、他のボールホルダーをオープンな状態にすることだった。高い位置に張り出していても、多くのプレーは裏へのランニングやワンタッチパスなどで、ドリブルも多い杉本とは対照的。そしてサイドに登場してくるのは渡井。渡井が三幸をつりだせば岩尾が空く。渡井がドストンをつりだせば河田と菊池が1on1になる。という仕組みだった。

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渡井と田向が囮となり、河田が1on1を挑む

 

勇気をもたらしたストライカ

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 一方、山口のボール保持。徳島にとってボール非保持時のフォーメーションは[4-4-2]。徳島は、試合によって3バック(5バック)のまま守備を行ったり、4バックに変換して守ったりと使い分けているが、この日は「山口のSBの前進を防ぐために4-4-2で守った」とのこと。ところが、まさかの3バックでスタートした山口は皮肉なことに、ドストンや坪井を上げ4バックに変換してビルドアップを行う。これで徳島にとっては杉本・渡井の守備の基準点が明確になってしまう。

 さらに徳島にとって幸運だったのは、山口は三幸がCB間に落ちて、徳島のFWに対して数的優位を形成するものの、菊池や坪井(ドストン)がドリブルでボールを持ち運ぶといったプレーが少なかったことだ。三幸が落ちることで、数的優位を確保しながら安定的にボールを保持することはできる山口。だがそのことで、後ろと前線を繋ぐリンクマンが中盤から消えてしまう。時おり菊池が蹴るロングボールも、成功したりしなかったりの一か八か感は否めなかった。前貴之の出場停止が大きく響いていたことは間違いないだろう。

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サイドへ展開しても、中も外も行き止まり

 

 ボール保持の時間を増やして「いつものサッカー」を展開していた徳島。カウンターから少ないチャンスをうかがいつつ、耐える山口。38分に生まれた河田のゴラッソは、チームメイト、そして多くのサポーターを勇気づけたことだろう。「今年は大丈夫だ」と。さらに後半開始早々にはドストン-菊池の間を斜めに抜け出した河田が、野村のスルーパスを冷静に流し込み追加点。5分後には、池上へのパスをカットした内田裕が左サイドを駆け上がり 、前方の渡井へパス。左からのクロスに大外から飛び込んできたのは右WBの田向。というわけで、52分の段階で試合の大勢が決してしまうこととなった。

 

相手が変われどやるべきことは変わらない 

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 3点を追いかけることになった山口は、64分までに交代カードを使いきる。三幸をトップ下に移し、後ろは4バック。徳島は[4-4-2]でセットするブロックの重心を全体に低く保ちつつ、河田・野村の裏抜けでカウンターからの陣地回復を狙う。

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ブロックを低く設定して、奪ったらシンプルにカウンター

 

 前がかりになった山口のターンが終われば、今度は徳島の番。相手の姿勢が変わってもやるべきことは不変!と、再び頂点を入れ替えながらボール保持を続ける徳島。だが相手の守り方が変われば、苦手なエリアも変わる。よって今度は、SBの外から飛び込んでくる河田だったが、これは僅かにパスが合わず追加点はお預けに。

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 3点のリードを保ったまま、河田、野村、渡井と攻撃のキーマンたちを、半ば温存するような形で交代させていく。他会場で山形が町田に敗れたため、リーグ戦の終了を告げるホイッスルと共に4位が確定。J1参入プレーオフの初戦は鳴門開催、相手は5位の甲府に決まった。

 

 

雑感

 過去の苦い記憶を払拭するだけでなく、相手がどういうメンバー・並びだろうが関係ない!ということを強く印象付ける試合だった。山口が、既に目標を失っている相手だったという点を考慮する必要はあるが、相手の嫌がるポジショニング、連動した他の選手の動きで翻弄。特に上述した、頂点を変えながらの菱形・三角形の再構築といった関係性が鮮やかだった。

 サイドで細かくパスを繋いでいるフェーズでも、大外レーンに縦に二人が並べば1つ内側のレーンに間をとる選手が顔を出すなど「ポジショナルプレーの原則」が、チームに深く浸透していることを感じさせる。原理・原則を守りつつ、立ち位置が変わればタスクが変わる。これをピッチに立つ選手全員が理解・実行しているのが、今の徳島というチームではないだろうか。

 

 J1参入プレーオフを残しているものの、リカルド・ロドリゲス体制となって3年目のリーグ戦が幕を閉じたことになる。この間、相次ぐ主力選手の引き抜きに泣かされてきたが、現在のチームがもっとも完成度が高く美しい、というのが多くのサポーターの一致した見解ではないかと思う。20ゴールを叩き込むようなスーパーなFWがいるわけでもなければ、パワハラ助っ人もいない。だが一人一人が役割を理解し、全うして積み重ねたチーム新記録となる勝点73。その先にある扉へ、ようやく手をかけることができた。