ヴォルレポ

徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2019明治安田生命J2リーグ第22節 徳島ヴォルティスvs柏レイソル ~試合が動く要素~

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徳島サブ・GK長谷川、DF秋山(87分 清武)、MF鈴木徳、表原、渡井(HT 田向)、FW河田、押谷(83分 佐藤)

柏サブ・GK桐畑、DF田上、宮本、MF大谷(75分 手塚)、田中、FW瀬川(HT 菊池)、ガブリエル

 

長丁場のJ2リーグも、この試合から後半戦へ突入。前節千葉と引き分け、連勝は4で止まったものの、リーグ戦6試合負けなしと好調を維持する徳島ヴォルティス。岸本が打撲のためベンチ外となった影響で杉本が右サイドへまわり、左サイドでは清武が6試合ぶりの先発。 

 

J2の中では圧倒的な戦力を擁しながらも、苦戦を強いられてきた柏レイソル。こちらもリーグ戦4試合負けなしの3連勝中。山形、甲府と上位争いのライバルを直接叩いて3位まで浮上してきた。出場停止のヒシャルジソンの代役は小林。全チームとの対戦が一巡したわけだが、柏レイソルに対する筆者の思いは「オルンガとクリスティアーノによる質の暴力は法律で取り締まるべき」しかない。

 

 

クリスティアーノの収支

両チームとも主力に欠場者が出るなか、注目されたシステムは徳島が4-2-3-1(守備時4-4-2)、柏が3-4-2-1(守備時5-4-1)で 試合は始まった。柏の5-4-1は二列目の右に入るクリスティアーノのポジショニングに特徴があり、「4」のラインと横並びになるよりも前残りを意識した立ち位置をとる。これは、柏のホームで行われた一度目の対戦でも同じ傾向が見られた。ポジティブトランジションからの速攻を考慮して、出来るだけオルンガを孤立させない、クリスティアーノの攻撃性能を生かして相手に最大限の脅威を与えることを優先したものだと思われる。事実として試合開始早々、徳島の小西が足を滑らせて失ったボールはクリスティアーノにわたり、スルーパスから裏へ抜け出したオルンガが決定機を迎えるというシーンがあった。このように「J2では反則レベル」の前線二選手だけで容易に決定機を創出できるのは、柏の特権とも言うべき強みである。

 

一方で、徳島のようにボールを繋げるチームにとって、クリスティアーノの曖昧なポジショニングは付け入る隙にもなる。この日左SHに入った清武は「カットインからのシュートを狙えと言われていた」と語ったが、徳島も清武の攻撃性能を生かすための準備を施していた。柏の前線はオルンガ一枚でセットするため、徳島は2CBの周辺で比較的容易にボールを持てる。誘っておいて、柏がプレッシングの枚数を増やしてくればバイスロングフィード。杉本を中心に右サイドに人数をかけてボール保持から、岩尾経由で逆サイドへ。戻りが遅いクリスティアーノを内田が振り切ってオーバーラップ。ドリブルでボールを前進させることによって、対面の小池に2on1の状況を作り出し、清武に時間を与える。清武はインスイングのキックでクロスやシュートを狙うだけでなく、内田と入れ替わるようにカットインしたり、ある時は小池の裏をとってサイドからゴール前へ侵入。好機を演出していく。

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死んだふり?の柏レイソル

守備時には5-4-1で守る柏だが、ボール保持時には4-4-2へ形を変える。小池と古賀がSB、菊池が列を上げるかわりに、江坂が中央へ移動しトップ下然として振る舞う。逆に言えば、ポジションが大きく変わるのはこの菊池と江坂ぐらいで、 他の選手はポジションを大きく動かさない。特に最終ラインの四枚と2DHは、相手がプレッシングに来ても列の移動をほぼ行わない。おそらくネガティブトランジションに備えてのリスク管理、また前線の強烈な個をもった選手がいるため、リスクをとらなくともゴールは奪えるという考えもあるのだろう。中村航輔がビルドアップに加わらないこともあり、徳島のプレッシングを効果的に掻い潜ることが難しい状況に陥っていた。

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徳島の型と噛み合う柏の4-2ビルドアップ


攻守共に上手くいかない柏は、20分過ぎに4-4-1-1に変更。江坂をオルンガと縦関係に置いて真ん中へ残し、 最終ラインも4バックへ。これにより、サイドチェンジやセカンドボールの回収で多大な働きを見せていた岩尾を江坂がケアし、ポジティブトランジション時にもオルンガと江坂で、よりゴールに近い真ん中のエリアで起点を作りたい、との狙いがあったのではないかと思う。確かに徳島にとっては、序盤ほどサイドチェンジからの好機は見られなくなっていた。一方で柏の4バック化により、徳島のWBvs柏のSBで1on1を作りやすい状況になる。また5バック時よりもDFラインのスライドが難しくなるため、チャンネルにスペースが出来やすい。特に右の杉本は、対面の古賀をスピードで振り切りゴールへ向かう動きを度々見せていた。

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サイドでの1on1とSBCB間に生まれるスペース

 

またもや魅せた19歳

後半開始と同時に、両監督とも動きを見せる。徳島は前半、雨でぬかるんだピッチに脚をとられて負傷した田向に替えて渡井を投入。柏は菊池→瀬川で、瀬川はそのまま左サイドに入る。

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田向のアクシデントという不慮の事態ではあったものの、柏の4バック化によってスペースを作り出すことは出来ていた徳島。ではゴールを奪うために何が必要か?と考えたとき、思い浮かぶのは、間で受ける選手やチャンネルに走りこむ選手だろう。 その点で野村と渡井の2シャドウは理に適った選択だと思うし、オルンガと江坂の2トップに対して、後ろは3枚で守るということもまた、もっともな決断だと思う。

対して、試合後のネルシーニョのコメントによると、徳島が前半のまま4バックできた場合と3バックに変更してきた場合の両方を想定していたらしい柏は、すぐさま3バックへ変更。前半開始時と同様に、江坂が左サイドまで下がってくる5-4-1で守るようになる。

 

徳島の狙いとしては変わらず「クリスティアーノの裏」というのは共通認識としてあったと思う。前半と変わったのは、ドリブルで複数の選手を相手にできる渡井の投入によって、内田裕のオーバーラップが自重気味になったことだろうか。先制点も、渡井が左サイドで前向きにボールを持ったプレーから生まれている。

 

スコアと時間と選手の質

「試合が動く要素はスコアと残り時間」(意訳)と言っていたのは、みんな大好き、らいかーると先生だったと思うが、徳島にとって問題は残り時間ということになる。 さらに立ちはだかる壁は、怪我人を多数抱えるチーム状況(河田が最後まで呼ばれなかったところを見ると、彼もまだ万全ではないのだろう)、前半から脚を滑らせる選手が続出するピッチ、体温を奪われる降りしきる雨。また、ビルドアップではポジションを大きく動かさずに前線の個の力頼みの面が強かった柏に対して、徳島は後ろから選手がどんどんと飛び出していく。それはスタイルの違いではあるが、選手の消耗度も大きくなる。そして、スコアが動いたとみるや、それまで自重気味だったオーバーラップを解禁する柏の両サイドバック

 

さらに攻撃のテンポを上げるかのように、柏は75分にチームの頭脳・大谷を投入。この頃になると徳島は、両シャドウが柏のSBのオーバーラップに引っ張られてしまうため佐藤が孤立し、陣地回復が難しくなっていく。大谷は主に左からの攻撃を活性化。瀬川、江坂、古賀との関係でハーフスペース攻略を狙う。右はクリスティアーノ・小池から、ファーサイド(オルンガ)へのクロス爆撃が行われる。

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左はローテーション、右は幅とりからのクロス


徳島は、柏の圧力をなんとか凌いでいたが、残り5分で決壊。セットプレーから立て続けに2失点を喫し、巨大戦力をあと一歩まで追い詰めたものの、勝点を得ることは出来なかった。

 

雑感

柏の構造を分析していくと、攻守両面において、何か目新しいことをやっているわけではない。それでも、前線の二枚のカウンターから容易に創出する決定機、ビルドアップ時のリスク管理、交代カードの切り方や勝負どころの嗅覚など、手堅さを担保しつつ選手の質を最大限に生かすという点において、底力を感じさせられるチームだった。

 

徳島にとっては、ほぼ狙い通りのゲームだった。もしピッチが良好な状態だったら?もう少し交代カードにバリエーションがあったら?田向の交代が無ければ4バックを維持できていた?そうなれば、もう少し前からプレッシングに行けていたのでは?など、内容が良かっただけに、たらればも言いたくなる。だが一番の問題点は、柏が四苦八苦していた前半にスコアを動かせなかったことだろう。そしてそこは、中村航輔を誉めるしかない部分もある。結果だけが残念だが、後半戦の戦いに期待を抱かせるには十分なスタートだったと言えるのではないだろうか。