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徳島ヴォルティスの試合を戦術的に分析するブログ

2018明治安田生命J2リーグ第25節 徳島ヴォルティスvsアビスパ福岡 ~素地が試された一戦~

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徳島サブ・GKカルバハル、DFキムジョンピル、MF小西、杉本竜、狩野、FW藤原志、佐藤

福岡サブ・GK杉山、DF實藤、堤、輪湖、MF枝村、FW木戸、松田力

徳島vs福岡の試合結果・データ(明治安田生命J2リーグ:2018年7月25日):Jリーグ.jp

 

前回対戦時の記事はこちら

2018明治安田生命J2リーグ第17節 アビスパ福岡vs徳島ヴォルティス ~持てる者と持たざる者~ - ヴォルレポ

 

 前節から互いに中三日、水曜日開催となったこの試合。両チームがとった策は対照的なものだった。徳島ヴォルティスは広瀬→内田裕と、サイドプレーヤーを一名変更したのみで、他は大宮戦と同じスタメン。目を引くのは、久々にキムジョンピルの名前があることぐらいで、ほぼ予想通りのメンバー。

 

 アビスパ福岡は前節・東京V戦(H)から、なんとスタメンを八名変更。連戦となるのは古賀、ユ、ドゥドゥの三名だけと、大胆な入れ替えを行ってきた。井原監督は「コンディションを優先した」との趣旨のコメントを残していたが、カップ戦ではなくリーグ戦において、これだけ大胆なターンオーバーはなかなか珍しいのではないか。なおチームの心臓ともいえる鈴木惇は累積警告により出場停止。

 

 

機先を制したい徳島

 戦前、リカルドが「6ポイントゲーム」と表現したこの試合。リーグ戦3~6位のチームによって争われる昇格プレーオフ進出に望みを繋ぎたい徳島にとっては、6位の福岡相手に勝点3が必要な試合。一方の福岡も、上位争いに食らいついていくため、徳島の順位を考えると落とすわけにはいかない試合だったはずだ。

 この試合も、ミドルゾーンでのブロック構築を優先し、ある程度は相手にボールを明け渡してもOKとの姿勢を示す徳島。一方の福岡は、徳島の一列目が2枚ということもあり、3CB+2DMFが大きく形を崩さずにビルドアップを開始する。

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 勝点3がマストの徳島は、機先を制する狙いもあってか、立ち上がり10分ほどは積極的なプレッシングを敢行。特に前川、岩尾が2CFを追い越していくような勢いで福岡のCBへアプローチする。これに伴って、列を降りる動きを見せる福岡の両WBはWBが捕獲。ライン間で活動しようとする石津や2CFに対してもCBが迎撃する。だが福岡は、WBから徳島のDFライン裏へシンプルなボールを供給することによって前プレを回避。藤原-石井の間を抜け出した城後に、ヒヤリとするシーンを作られたりもした。

 

福岡のポゼッションと垣間見える課題

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 徐々に緩やかになっていく徳島のプレッシングと、安定したボール保持が可能になる福岡。この日福岡において、攻守に鍵を握っていたのはトップ下に入った石津だった。攻撃では徳島の中盤の脇(主に左サイド)に顔を出しながら、ビルドアップの出口となる。だが本当の狙いは、山瀬・ウォンの二人で岩尾・前川を動かして、出来たスペースへ石津が侵入することだったのではないかと思う。

 というのも、福岡のポジショナルな攻撃における主なパターンは二つ。一つは先述した徳島のWBをつり出したのちWBCB間やCBCB間から裏抜けして、クロスを入れる形。そしてもう一つはバイタルエリアを、石津・城後・ドゥドゥ+αのコンビネーションで突破を図るものだった。当然よりゴールに直結しそうなのは後者のパターンだが、こちらは徳島の中盤がしっかりスライドを行うことによって、多くの時間でバイタルエリアを封鎖することに成功していた。

 

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 一方でポゼッションを行うチームとして捉えたとき、僭越ながら福岡の課題は明確なように思えた。

 まず、幅をとる要員、中間ポジションに立つ人間、そして最終ラインでの数的優位など、必要となる要素は満たしているように映るが、運ぶドリブルや相手を引きつけるドリブルが少ない。例として上図のように、両ストッパーがオープンな状態でボール保持出来ている場合でも、簡単にWBの選手へパスを出してしまうので、WBが入れ替われた場合や、高精度のパスが裏のスペースへ蹴りこまれた時にしかチャンスに繋がらない。特にウタカがいるサイドは、ドリブルで持ち出す好機だったと思う。

  ブロックを敷いて待ち受けるチームに対しては、ボールを運んで相手を引きつける動きが大切になると思うが、このアクションが少ないため徳島の選手たちは多くの時間帯でパスコースを消すことに集中できていた。このため中間ポジションをとる石津も、徳島のIHに背中でパスコースを消されて対応されるケースが多いように映った。

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 また前半は、ロングボールによるサイドチェンジのような大きな展開が殆ど無かったのではないだろうか。このためDFラインのパス回しによって、徳島の中盤にスライドを強いることは出来ていたものの、5-3-2の泣きどころである3の脇のスペースはあまり有効活用出来ていなかった。印象として、常に一定のリズムでパス回ししているものの、この位置でこの選手に渡ったらスピードアップする!といった変化に乏しい。一方でフレッシュなメンバー構成を生かし、「徳島のゴールキックに対しては必ず5人でハメにいく」という形は繰り返し実行していて、福岡の唯一の得点は徳島のゴールキックからの繋ぎに圧力をかけた結果生まれたものだった。

 

石津の役割と4バック化

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 徳島のボール保持時には、福岡のこの日の主役(と勝手に認定)石津がシシーニョの周辺をケアしていた。前節・大宮戦のレビューで「大宮は徳島のアンカー周辺の対応が終始曖昧だった」と書いたが、福岡も同様の問題認識だったのだろうか。この石津の動きを察知したシシーニョはDFラインまで降りるようになる。代わりに両ストッパーが開いて、擬似4バックのような形でビルドアップを開始する。

 さて、ちょっと困ったのは福岡だ。90分前プレをかけるような気候でも日程でもない。まして、一列目の3人の距離が開きすぎると、間を通されてしまい5-2-3の意味が無くなる。かと言ってWBはピンどめされているので、徳島のストッパーに対しては2CFが見るしかない。

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SBを活用したビルドアップ

 

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福岡の2DHを動かして縦パス


 このかみ合わせを生かして、徳島はSBを活用しながらビルドアップを行うパターン。そして福岡の2DMFを動かしてから、出来たスペースへ縦パスを送るパターンを見せていた。特にシシーニョを石津が見る関係性に付随して、山瀬・ウォンのポジショニングも岩尾・前川の位置取りに左右されることが多く、「フィルター役は2人しかいないのに、そんなに動いていいの?」と思うほど食いついてくることも少なくない。このため徳島のIHの位置取りによって、福岡の陣形は5-1-4や6-1-3のようにも変化する。問題は、いずれの場合もボールホルダーにさほど圧力がかかっていないことで、徳島は人を動かすことによってライン間へボールを送り込むことに成功していた。

 福岡はボール保持時間は長いものの、なかなか徳島のブロックを崩しきれず。先述したゴールキックからの前プレも含め、むしろトランジションからの速攻に可能性を感じさせていた。そして保持率では劣るものの、よりDFラインを直接アタックすることに成功していた徳島。両者に1つずつ生まれた前半のゴールを比較しても、この印象はあながち間違っていないのではないだろうか。

 

スコアに伴う両チームの変化

 福岡のキックオフで始まった後半。徳島は再び立ち上がりから前プレを実行する。相手陣内で奪ったボールを左サイドへ展開し、ウタカとのワンツーでハーフスペースを抜け出した前川が倒されてPKを獲得。さらに一分後には、DFラインの裏へ抜け出したウタカの移籍後初ゴールが決まり、試合はあっという間に2点差となる。

 

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 2点リードを奪ったあと、徳島に見られた変化は、島屋の位置を下げることだった。これまでの5-3-2ではなく、島屋に1.5列目のようなポジションをとらせることによって福岡の2DMFのケアをさせる。DMFの監視から解放された岩尾・前川がCBに積極的にアプローチするとともに、福岡が前半から何度か見せていた「CBを起点としたサイドでの菱形」の頂点を全て潰すことに成功していた。

 福岡が次にとった作戦は、枝村、實藤を投入しての4-4-2。おそらく上述の、頂点を全て消されたことによって手詰まりになっていたサイドアタックで、数的優位を作りたいとの狙いがあったのだろう。 

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 だがこの変化は、収支でいうとマイナスだった。まず徳島は、シシーニョがDFラインに降りる動きを止める。石津がサイドに移り、2CFなら3CBでも数的優位を確保できるとの判断だろう。数的不利を埋めるべく福岡のSHがプレッシングに加わると、徳島はWBがSBを引きつれて発生したスペース(チャンネル)をCMFが急襲。福岡のDMFを一枚つり出す。これによって密度が薄くなった中盤を、シシーニョが支配してサイドチェンジ。今度は逆サイドのチャンネルに島屋が流れてクロスを上げると、ウタカは吉本との1on1を制すればゴールという形が出来上がる。

 右の内田は左足で巻いたボールを福岡のDFの間へ蹴りこみ、左の大本はスペースへのドリブルで優位性を見せる。そして福岡のDFラインが横に広がると、チャンネルをアタックする岩尾・前川と多彩な攻撃が見られるようになる。一方で福岡はなかなかボールを奪い返すことが出来ず、いつ徳島に追加点が入ってもおかしくない流れだった。

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ボールサイドに引きつけておいて逆サイドのチャンネルを使う


 福岡が4-4-2に変化していたのは10分ほどだっただろうか。最終的には石津→松田力と三枚目の交代で5-3-2へ。今度は5バックでセットした守備から、ボールを奪うとユインスと松田力が高い位置をとる4-4-2にも見える可変型のような感じ(よく分かんないけど詳しい人は調べてください。僕はもう気力の限界です)

 徳島はゴール前のボールを跳ね返すCB。攻守に幅広く動き続ける島屋。そして運動量は多くないが数的不利でもボールをキープしてくれるウタカ。それぞれが与えられたタスクをこなし、残り時間を平穏にやり過ごすことに成功した。

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雑感

 平日開催となったこの試合。リカバリーに充てられる日を考慮すれば、両チームとも綿密な対策を練ることはほぼ不可能だったと思われる。視点を変えれば、相手云々ではなく、チームとしてこれまでの積み重ねが試される試合だったともいえる。

 

 徳島はお馴染みとなった、相手にボールを持たせて5-3-2ブロックからの速攻。そして石津の役割を察知すると4バックに変形してのビルドアップ。福岡が4-4-2に変化すると今度はWBを起点にしながらチャンネルを活用。と多様な顔を見せた。

 

 福岡も石津をシシーニョ番として活用したり、徳島のゴールキック時の前プレなど、限られた時間で準備したのであろう成果も見せていた。ただ徳島の先制ゴールのきっかけもそうだが、FKからの再開時にふと集中力が切れるシーンがあり、逆サイドやDFラインの裏へ走る選手が簡単にフリーになっていた。このあたり、状態はフレッシュでも試合勘に不安の残る選手を多く起用した弊害だったのかもしれない。なにより、攻撃に変化をつけられる鈴木惇の不在は、徳島にとってラッキーだった。